JPXサステナビリティ情報検索ツールが生まれた背景
「取引所ならではの取り組み」でサステナビリティ実現を、JPXが持続可能な社会を目指して行う活動とは
情報開示に悩む企業、その課題に向き合ったツール
サステナビリティの重要性は、市場でも高まっている。その一例として、上場会社の実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する原則をとりまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、企業がサステナビリティ課題に積極的に取り組むこと、そしてその情報を開示することが推奨されている。さらに、企業が自社の情報を開示する有価証券報告書においても、2023年3月期から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、関連情報を報告することが求められている。
こうした中で、サステナビリティに関する情報開示を行う動きは強まってきた。だが一方で、上場会社からはこんな悩みの声も聞かれるという。
「サステナビリティの情報開示について『どこから手をつければよいのかわからない』と悩む企業が多く見られます。有価証券報告書についても、皆さん初めてのことですから、どのような情報をどのくらい書けばよいのか模索している企業は少なくありません」(鳥居さん)
こうした課題に対し、JPXとして支援できることはないか。先述した「取引所ならではの取り組み」として、上場会社のサステナビリティ推進をサポートする方法はないのか。そのような問いから生まれたのが、「JPXサステナビリティ情報検索ツール」だ。
JPXとJPX総研が提供するツールで、「上場会社がサステナビリティに関する情報開示を行う際に、必要な情報収集を効率化するために使っていただきたいものです」と鳥居さん。開示の一歩目を踏み出しやすくするツールといえる。
具体的なツールの中身について、ヒルさんが説明する。
「上場会社がサステナビリティ情報を開示する時、他社でどのような取組みを行い、どう開示しているかを参考にすることがあると思います。とはいえ、各社のサイトに行き、該当の情報を探すのは手間がかかりますよね。このツールを使えば、主要なESG(環境・社会・ガバナンス)の項目について、プライム市場に上場している会社の公開情報のリンクを一覧で見ることができます」(ヒルさん)
同ツールを開き、「GHG(温室効果ガス)削減取り組み」や「労働安全衛生に関する方針」などの調べたいESG項目と、見たい企業(プライム市場上場会社)を選択すると、該当情報のリンクが表示される。ESG項目は38項目用意されているとのこと。また、「参照する企業の資料は、過去の有価証券報告書や統合報告書、Webサイトなど11の媒体が対象になっており、年度などを絞って検索することも可能です」(ヒルさん)。
上記の検索条件を入力すると、AIが膨大な企業の公開情報の中から該当情報を探してESG項目毎に分類したものを表示する仕組みだ。このツールは、企業の“非財務情報”の可視化支援サービスや、AI分析に強みを持つスタートアップ、シェルパ・アンド・カンパニーの技術を活用。そこに、JPXが持ち合わせている「上場会社がどのような情報を求めているか」「どういった操作画面なら使いやすいか」といった知見を重ね合わせた。
「私たちJPXも上場会社の1つであり、サステナビリティの情報開示を進める企業です。このツールを使うユーザーの立場でもあるので、その目線を活かして仕様などを決めていきました」(ヒルさん)
情報開示の参考にするだけでなく、上場会社が自社のESGアクションを検討する際に、他社の取り組みをリサーチするツールとしても活用してほしいとのこと。「たとえばESGの評価が高い上場会社について、その理由を知るためにこのツールでリサーチすることもできます」とヒルさん。サステナビリティに関する情報収集はなるべく効率化し、「具体的な取り組みの検討などに時間を使っていただけたらうれしいです」と、鳥居さんは口にする。
利用は上場会社に限られるが、こうしたツールにより、市場を通じたサステナビリティの推進に寄与したいと考えている。