「場所」や「時間」の制約がないから参加しやすい!
個人投資家のメリットが大きいらしい「バーチャル株主総会」とは
バーチャルだからこそスムーズに進行しやすい「質疑応答」
従来の株主総会は、参加してくれた株主に対してお土産が用意されていたり、その日限りのイベントが開催されたりしていたが、バーチャルオンリーとなると難しいのではないだろうか。
「直接お土産などをお渡しすることは難しいですが、企業によってはeギフトを提供しているところもあります。また、物理的な特典以外にも、バーチャルだからこそのメリットは多くあると考えています」
バーチャル株主総会ならではのメリットのひとつが、事前質問の受付だ。総会当日に会場で質問するとなると、「恥ずかしくて手を挙げられない」「思い付かずに質疑応答が終わってしまう」「話がまとまらない」と感じる人は多いだろう。事前質問であれば、あらかじめ考える余裕があり、文章にまとめるため支離滅裂になりにくい。
バーチャル株主総会で質問を送る際のイメージ画像。
「事前質問は株主の方々にとってのメリットであると同時に、企業にとっても株主総会をスムーズに進行するための要素となります。バーチャル株主総会を実施し、事前質問を受け付けたマネックスグループからは、『事前質問によって傾向を把握できるので、想定問答をつくるうえでの参考になった』という声が上がっています。総会のスタートと同時に質問を受け付ける企業もあり、議事内容を見ながら思い付いたタイミングで質問を送れるよさがあるといえます」
事前質問の場合、基本的にテキスト形式で、企業側が一方的に回答する形になるため、若干無機質な印象が出てしまう。そこを改善するべく、バーチャル株主総会でありながら口頭での質問を受け付けている企業も出てきている。
「半導体メーカーのルネサス エレクトロニクスでは、『株主様とのコミュニケーションをできるだけ密に行いたい』という思いから、テキスト形式だけでなく口頭での質疑応答も実施されています。出席された株主の方からは『生で直接経営陣と話せてよかった』という声が上がっていました。事前質問などのバーチャルのメリットを活かしつつ、従来の株主総会のよさを残す方法を試行錯誤していく段階にあるのだと思います」
個人投資家向け施策のキーワードは「二部制」「開会時間」
ハイブリッド型株主総会のイメージ。
個人投資家に向けて、バーチャル株主総会ならではの施策を取り入れている企業も出てきている。例えば、二部制の導入だ。
「株主総会を行った後、第二部として事業戦略説明会や懇談会のような場を用意する企業が増えてきています。株主総会はルール通り進めなければならず、企業側も最低限のことしか説明できない部分があるので、ルールに縛られない第二部を設定するのです。今後の戦略について話したり事業責任者が株主と交流したりする場を設けることで、より企業の思いが伝わり、つながりが深まると考えられます。第二部からは株主以外の方も視聴できるようにして、広く事業について発信している企業もあります」
バーチャル株主総会を行うことで、これまでの常識にとらわれない総会の在り方が模索され、「開会時間」も変わりつつあるという。
「『株主総会は10時開始』という定説がありますが、法的には時間に関するルールはありません。個人投資家が仕事の前に見られるように時間を早める企業や、海外の投資家も参加しやすいように夕方に開始する企業も出てきています。午後からのスタートにすることで当日リハーサルが可能になり、役員の拘束が1日で済むという企業にとってのメリットもあります」
法律との兼ね合いで、まだ実現には至っていないが、株主総会とメタバースを掛け合わせる取り組みも動き始めているそう。
「メタバースプラットフォーム『XR CLOUD』を提供しているmonoAI technologyの事例では、メタバースの会場を用意し、株主総会のバーチャル会場に併設したこともあります。今後法律が変わっていけば、投資家の皆さんがさらに参加したくなるようなユニークな株主総会が増えてくるのではないかと感じています」
法律の変化とともにハードルが高いイメージが払しょくされ、個人投資家も参加しやすくなってきている株主総会。興味のある企業がどのような総会を実施しているか、調べてみるのも面白そうだ。
(取材・文/有竹亮介)