観光客だけでなく、住民にも事業者にもプラスの影響を与える取り組み
住民にも観光客にも満足を。地域や施設が「価格」に込めた思いと効果
「地元=リゾート地」だから味わえる体験がある
倶知安観光協会は、倶知安町民限定の「倶知安マジカルダイニング」という施策も行った。2025年3月末から4月にかけて、1万円分の食事券「Kutchan Magicalチケット」を5000円で販売するというもの。用意された900枚のチケットは、2週間程度で完売したという。
利用期限は2025年5月末までと短めに設定されていたが、利用率は98%に達した。「なかなか行けないリゾートエリアで食事ができた」「非日常感を味わえた」「家族みんなで集まって、食事の機会を取ることができた」など、うれしい言葉が届いているという。
「町民の方々に改めてリゾート地の良さを感じていただくことはもちろんですが、同時に閑散期の飲食店をサポートしたいという思いもありました。スキー場がクローズする4月以降、ニセコエリアは観光客が減るので、閉めてしまうお店も多いんです。飲食店にとってはマイナスですし、観光客の方々も飲食店が少なくなって困ってしまいます」(三石さん)
「町民が来てくれるのであれば、あと1カ月長く営業しよう」と考える飲食店が増え、ニセコエリアに関わるすべての人にとってプラスに影響すると考えたのだ。実際に町民からも飲食店からも反響が大きかったため、2回目も検討しているとのこと。
「Kutchan ID+」は期限などを設けず、今後も続いていくサービス。三石さんは、「帰省したお子さんやお孫さんと一緒に、世代を超えてニセコエリアを楽しんでいただくためのツールになったらうれしい」と話す。
「せっかくリゾート地に住んでいらっしゃるので、ほかの街では味わえないような体験をご家族で楽しんでいただきたいと思っています。そのため、現在はどなたか1人でも『Kutchan ID+』で住民証明していただけたら、同行者の方も割引や優待を受けられる形にしています。特にアクティビティ系の施設は割引率が高いところが多いので、長期休暇の際にも楽しんでいただけると思います。町民の方々に、改めてニセコエリアの魅力を体感してほしいですね」(三石さん)
滞在時間を有意義に使ってもらうためのインバウンド向けチケット
一方、インバウンド向けのチケットを導入した施設もある。東京スカイツリーだ。
(c)TOKYO-SKYTREE
2015年2月から2021年3月まで、インバウンド専用の「ファストスカイツリーチケット」を販売していた。2015年当時の当日券(大人)2060円に対し、「ファストスカイツリーチケット」は大人2820円と高めの設定だったが、一般よりも短い待ち時間で入場できるチケットとなっていた。
「当時は海外向けの販路が確立されていなかったため、外国人観光客の方々も現地で当日券を購入されていました。チケット購入の際に整理券を渡す形だったのですが、チケット購入から入場までにタイムラグが生じやすかったので、限られた滞在時間を有意義に使っていただくため、『ファストスカイツリーチケット』を導入しました」(東京スカイツリータウン広報事務局・町田菜々さん)
ちなみに、コロナ禍で国内外の観光客が減少したため、2021年に「ファストスカイツリーチケット」の販売は終了。現在はインターネットで事前に時間指定したうえでチケットを購入できるシステムが構築されたため、再開の予定はないとのこと。
「東京スカイツリーを訪れる外国人観光客は増加傾向にあり、2024年度は来場者の36%、約168万人がいらっしゃいました。今後もインバウンドの方々はもちろん、国内の皆さんにも楽しんでいただけるよう、朝限定の特典付きチケットなどを販売しています」(町田さん)
それぞれの理由や目的から価格に関する施策が導入されているが、共通しているのは「多くの人に楽しんでもらいたい」という思い。利用する施設や住んでいる地域で導入された際は、うまく活用して思いっきり楽しむのがベストといえるだろう。
(取材・文/有竹亮介)