今後は「夫婦それぞれに働いて備える時代」に変化していく
「106万円の壁」ギリギリで働いたら社会保険料はいくら?
「撤廃される条件」と「残される条件」がある
冒頭でも紹介した通り、2026年10月には「106万円の壁」の撤廃が予定されている。正確には「給与(通勤手当や残業代を含まない)が月額8万8000円以上」という条件が撤廃となるため、そのほかの条件を満たさなければ、社会保険加入義務は発生しない
ただし、収入以外の条件の一部も撤廃されるという。
「2027年10月には『従業員51人以上の企業で働いている』が撤廃され、2029年10月には『従業員5人以上の個人事業所』も社会保険加入の対象になる予定です。つまり、今後は企業規模に関係なく、給料をもらって働いている人の多くが社会保険の加入対象になるということを意味しています」
ここで重要なのが、「給料をもらって働いている人全員」ではなく「給料をもらって働いている人の多く」が加入対象となる点。
「『週の勤務が20時間以上』『学生ではない』という条件は残される予定なので、週2~3日だけ数時間のパート・アルバイトをしている人や学生は社会保険の加入対象に含まれません。今後のライフプランや働き方などを踏まえて、条件に当てはまるか確認してみましょう」
「男性稼ぎ主モデル」から「個人モデル」への転換期
いくつかの条件は残されるが、基本的には給料をもらって働く人の多くが社会保険に加入することになる。いままさに、社会が変化し始めているのだ。
「これまでの日本は、主に夫が働いて家計を支え、妻が夫の扶養に入る『男性稼ぎ主モデル』を前提として制度が設計されていました。しかし、社会保険をはじめとした公的制度が大きく変化しようとしているいま、夫婦それぞれが個々に備えていく『個人モデル』に移行していくのだと考えられます。それぞれが働いて社会保険料などを納め、給付なども個別に受け取る形が主流となっていくでしょう」
変化の一例として、遺族年金も挙げられる。これまで30歳以上の女性が夫と死別した場合は無期限で遺族年金を受給できた一方で、男性は55歳未満で妻と死別した場合は給付なしとされていた。しかし、遺族厚生年金の見直しにより、男女問わず「原則5年間の有期給付」となる。
「これまでは専業主婦にやさしい制度となっていましたが、共働き世帯が増えていますし、少子高齢化も進んでいるため、遺族年金の長期間給付が見直されたのだと考えられます。性別に関係なく、個々に生きる力を付けることができる時代になっているといえるかもしれません」
社会や制度の変化を受けて、準備すべきことはあるだろうか。
「男性も女性も、本格的に『夫婦の片方が家計を支え、片方が家庭に入る』という考え方を改めるときが来ているといえます。制度が変わるタイミングなどもチェックし、夫婦がともに働き、ともに備えていくことを前提に、ライフプランや働き方を考えていくことが重要です。互いにどう考えているのか、話し合うことから始めてみましょう」
働き方に関する前提が大きく変わろうとしている。制度を知るだけでなく、現在の働き方だと負担が増えるのか、どのような保障を得られるのかといったことも踏まえて、今後を考えていけるといいだろう。
(取材・文/有竹亮介)