黒字倒産を見抜くには「現金の流れ」を追え!

「未来に生み出される現金を予測する」知っているようで知らないファイナンスの本質とは

TAGS.

ベースになるのは「お金の時間価値」

――企業が意思決定を行う際、ファイナンスのどのような考え方が使われるのでしょうか。

石野 その中身をここですべて説明するのは難しいのですが、ベースになる考え方は「お金の時間価値」です。お金の価値は受け取るタイミングで変わるという意味で、わかりやすい例を挙げれば「1年後にもらう100万円より、今もらう100万円の方が価値はある」ということ。なぜなら1年後まで待つより、今すぐ確実に手に入る方を選ぶ人が多い。それはつまり価値があるということです。

――確かにその感覚はわかります。

石野 特に企業のファイナンスでは、こうしたお金の時間価値を考えることが重要になります。実際に、お金の「現在価値」と「将来価値」の比較が行われます。

現在価値とは、その名の通り、お金の今の価値のこと。将来価値は、今のお金を複利で運用した場合に将来どのくらいの価値になるかを意味します。仮に100万円を複利10%で運用すれば、1年後の将来価値は110万円、2年後は121万円、3年後は133.1万円に。今100万円をもらえば複利で膨らむのに対し、3年後にもらえばそのままの100万円しか得られないというわけです。

こうした計算から、今100万円をもらうのと3年後に100万円をもらうのとでは価値が異なることを数値で示していきます。

――感覚的に今すぐもらう方が価値は高いと思いましたが、それを数値化するのが現在価値と将来価値だと。

石野 ここでは複利10%として計算しましたが、この利率をどう設定するかが重要です。ファイナンスではこれを要求収益率といいます。

一方、将来価値から現在価値を出すことも必要になります。たとえば3年後に受け取る100万円の現在価値はどのくらいか。これを見ることで、先ほど話したように、企業買収や設備投資でいくら掛けるべきかの判断基準が出てきます。

将来価値(3年後の100万円)から現在価値を出すには、先ほどの複利の計算の逆を行います。この時に使う利率を「割引率」と呼び、先述の要求収益率と表裏一体の関係です。将来価値に対して、現在価値は低くなる。その計算に使われるのが割引率です。

ファイナンスでは、現在価値、将来価値、割引率、要求収益率という4つを活用しながらお金の価値を計算していきます。もちろん他にも要素がありますし、また1つの企業買収でも、いろいろな展開を想定しながら、いくつものパターンで算出していきます。

――仮に買収したい企業があるとして、その企業の規模や現在の事業内容をもとに数年後のキャッシュフローを予測する。そこから企業の価値を出して、買収価格と比較する。このような流れでしょうか。興味が湧いた方は、ファイナンスについて学んでみると良いかもしれません。

石野 そうですね。また投資家の方に対しては、ぜひ上場会社が出している「キャッシュフロー計算書」を見ていただければと思います。営業活動、投資活動、財務活動の3つにおいて、一定期間における現金の増減が記されています。過去5〜10年のキャッシュフローの推移を見ると、新しい発見があるかもしれません。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
石野 雄一
株式会社オントラック代表取締役。株式会社CAC Holdings社外監査役。
上智大学理工学部卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。退職後、米国インディアナ大学ケリー・スクール・オブ・ビジネス(MBA課程)修了。帰国後、日産自動車株式会社に入社。財務部にてキャッシュマネジメント、リスクマネジメント業務を担当。2007年よりブーズ・アレン・ハミルトンにて企業戦略立案、実行支援等に携わる。2009年に同社を退職後、コンサルティング会社である株式会社オントラックを設立し、企業の投資判断基準の策定、ファイナンス研修、財務モデリングの構築、トレーニングを実施している。著書に『ざっくり分かるファイナンス』(光文社新書)、『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)、『実況! ビジネス力養成講義 ファイナンス』(日本経済新聞出版)、『まんがで身につくファイナンス』(作画・石野人衣、ダイヤモンド社)などがある。
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード