紙文化からの脱却が上場会社との距離を近づける
なんと株主の9割が議決権行使を実施、企業と投資家の”対話”を生む三井住友信託銀行の「株主パスポート」
株主になると、投資先の上場会社からさまざまな書類が送られてくる。株主総会の案内や配当金の通知などが一例だ。重要な“議決権行使”に関するものもある。これらは各社から紙でバラバラに送られるため、株主にとっては管理が煩雑だった。こうした課題を解決するのが、三井住友信託銀行のスマホアプリ「株主パスポート」だ。一体どんなものなのか。三井住友信託銀行 証券代行部 次世代ビジネス検討チームの大澤健氏、井田友季子氏に取材した。
「個人株主と上場会社の対話を増やしたい」という想いから誕生
株主パスポートは、自身が投資している複数の銘柄について、株主総会や配当金、株主優待といった情報を一括管理できるアプリ。株主総会で提出された議案に対して、株主が賛成・反対の投票を行う「議決権行使」についても、株主パスポートから各社の議決権行使の専用サイトへ簡単にアクセスできる。
このアプリが誕生した背景には、「個人株主と上場会社の対話を増やしたい」という思いがあったという。大澤氏が詳しく伝える。
「これまで両者の対話は、年1回の株主総会や、紙の通知物によるコミュニケーションなどに限られていました。一方、近年は新しいNISAなどで個人株主の方が増えています。投資先との対話が増えると、株主は経営に参加している実感を持ち、投資を続ける動機へとつながるでしょう。上場会社にとっても、個人の方々とのコミュニケーションを増やし、長期で支えてもらう関係を築くことが大切になっています」
こうした中で、両者の関係をもっと近くし、対話を増やそうとこのアプリが生まれた。実際に、個人株主と上場会社のコミュニケーションに生じていた課題を解消するものになっている。
「たとえば、株主総会や配当金のお知らせといった通知物は、それぞれの会社から紙で送られていました。株主の方からすると、一社ごと封筒を開けて書類を確認するのは面倒ですよね。きちんと見ないケースも増えてしまいます。また、紙でのやり取りは環境負荷やコストもかかるでしょう。そこでこれらをデジタル化し、複数の銘柄をまとめて1つのアプリで管理できるようにしました」
ここで説明しておきたいのが、信託銀行の行っている“証券代行業務”について。株式会社に代わって、その会社の株主名簿の管理や、株主向けの通知物の発送、配当金の支払い手続きなどを引き受けている。三井住友信託銀行もこうした業務を行っており、今回はその一部をデジタル化・アプリ化したと言える。
株を売却した理由を尋ねる「売却時アンケート」も実装
株主パスポートでは、ユーザーの氏名や住所、保有している銘柄をアプリに登録すると情報管理が可能になる。登録できる銘柄は、三井住友信託銀行が株主名簿を管理する銘柄のうち、株主パスポート参加企業に限られる。2025年8月1日時点で832社が参加しているという。各社の株主名簿をもとに、アプリ登録者と保有銘柄の情報を照合している。
先述の通り、アプリ内では登録銘柄の情報を見られるほか、議決権行使なども行いやすくなる。最近は、株主総会に参加しなくても、ウェブ上の専用サイトで議決権行使を行えるケースが増えてきた。しかし、そのサイトへログインするには、株主に送付された通知物の二次元バーコードを読み込むなどの手間がかかった。
一方、株主パスポートでは「アプリから各社の議決権行使サイトへ直接アクセスできます」と話すのは、このアプリの開発に携わった井田氏。「今まではログインが面倒でやらなかった方も、チャレンジしやすくなるのではないでしょうか」と続ける。
個人株主と上場会社の対話を活発にする機能もある。このアプリでは、上場会社が株主にアンケートを実施できる。開催してほしい株主イベントや、自社に対するイメージ、株主の趣味嗜好など、企業は任意で自由に質問できる。
「さらには『売却時アンケート』という機能も設けています。その名の通り、株を売却した方にその理由を尋ねたり、今後買い戻すとしたらどのような場合かを聞いたりしています。株主ではなくなる方に対して、これまで上場会社はコミュニケーションを取る術が少なかったでしょう。新しい“対話”を生み出す取り組みです」(大澤氏)