新しい金融のカタチ

紙文化からの脱却が上場会社との距離を近づける

なんと株主の9割が議決権行使を実施、企業と投資家の”対話”を生む三井住友信託銀行の「株主パスポート」

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通常4割の議決権行使が、このアプリでは9割超

このアプリは、株式投資を行っている人の”声“を聞きながら開発していったという。今まで紙だった通知物をデジタルに変えるアイデアが生まれたのも、そこで聞かれた本音がきっかけだった。「一社ごと封筒で書類が送られてくるため、『開けるのが面倒』というお話や『中身をよく見ていない』といった声が聞かれました」(井田氏)

そうした課題をもとにアプリを設計し、開発中も投資家に使ってもらいながら、機能や画面操作を改善していったという。「幅広い方に使っていただきたいので、いわゆる金融的な“堅いアプリ”にはしないよう心がけました。色使いも明るくし、画面デザインにも丸みを取り入れて柔らかく仕上げました」。井田氏は笑顔でそう振り返る。

一方で、セキュリティの担保も当然重要だ。そこでこのアプリでは、マイナンバーカードを用いた会員登録を可能とし、なりすましの防止につなげているとのこと。セキュリティと使いやすさ、その最適なバランスを模索したという。

アプリを継続的に使用してもらう工夫も取り入れた。というのも、株主総会などは1年のうち特定の時期にしか行われない。そのシーズン以外はアプリに触れない状況が発生すると、仮に上場会社がアプリ伝いで情報を発信しても、見てもらえなくなる。継続的な対話は生まれない。「そこでアプリにポイント機能を設け、企業の施策などに参加するとポイントを得られるようにしました。たまったポイントは物品と交換ができます」(大澤氏)。また、議決権行使などのアクションを行った回数に応じて、画面に表示される“王冠”が変化するなどのゲーム性も取り入れた。

企業と個人株主の新しい関係性を築く

アプリは2025年4月15日にローンチし、2カ月弱で18万ダウンロードを突破(6月9日時点)。さらに見逃せないのは、アプリユーザーが議決権行使を積極的に行っている点だ。「通常、個人株主の議決権行使は4割ほどですが、このアプリでは9割を超えています」と大澤氏。アプリから簡単に専用サイトまで行ける点が奏功しているのだろう。

株式投資では、どうしても値上がり益や配当、株主優待などに目が行きがちだ。しかし、議決権行使などを通じて「経営に参加できること」も忘れてはならない。個人株主が積極的に意見を伝えることで、上場会社もその考えを経営に活かせる。また、個人株主が投資先の企業を適切に見守ることで、経営のガバナンスにも好影響をもたらすだろう。

「個人株主と上場会社の強固なネットワークができると、日本市場の健全な発展につながると思います。このアプリが、そうした点に寄与できればうれしいですね」(大澤氏)

個人株主が増える中で、上場会社との対話をいかに生み出していくか。そこでデジタルを活用し、両者の距離を近づけていく。株式パスポートは、単なる管理アプリではない。個人株主と企業をつなぐプラットフォームである。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2025年8月現在の情報です

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