投資の祭典、IRイベントに行こう!
日経記事で学ぶ~幸福寿命を延ばす投資術(12)
提供元:日本経済新聞社
本コラムは東証マネ部!で連載した「日経記事でマネートレーニング」の続編で、投資や資産形成の幅広いスキルや基礎的なノウハウの習熟を目的としています。拙著「幸福寿命を延ばすマネーの新常識」(日本経済新聞出版刊)を大幅に再構成・加筆し、日経電子版の注目記事なども織り交ぜつつ、総合的な金融リテラシーの底上げを目指します。
株式投資というと端末でチャートを追いかけたり、数値データを分析したり、「インドア」の作業が多いのですが、年に何度か投資のための大きなイベントが開かれます。IR(アイアール)イベントです。私は「投資のためのフィールドワーク」(拙著「幸福寿命を延ばすマネーの新常識」)と呼んでいます。
投資を学ぶうえで重要な要素が満載で、経験者はもちろん初心者もぜひ足を運んで「株式投資とは何か」を体験してほしいと思っています。2025年9月26,27日には日本取引所(JPX)・東京証券取引所グループと日本経済新聞社が初めてスクラムを組んでIRフェアを開催します。
というわけで、今回はIRについての知識を深めましょう。
宣伝ではなく、適正な企業価値形成が目標
IRは知らなくてもPRはご存じのはず。顧客に対して商品やサービスなどを紹介し、販売や営業につなげる広報活動です。一般にテレビや新聞の広告・CMなどが相当します。IRは「Investor Relations」のイニシャルで投資家や株主を対象にした広報活動の総称です。
図のように自動車会社が車を宣伝する際、パンフレットを配布したりや試乗会を催したりします。この結果、顧客が気に入れば車の購買につながります。
IRは相手が投資家や株主で、商品説明の代わりに自社の経営戦略や業績、株主還元策などを説明します。
え?何を買ってもらうのかって?会社そのものですよ。つまり、その会社の株式というわけです。投資家がそのビジネスの将来性に魅力を感じれば会社への投資につながるわけです。株式を保有している場合は保有の継続というモチベーションに至ります。
IR活動は上場企業ならではの特殊な業務といえます。もっとも代表的なのが決算発表の管理です。四半期ごとの業績を過不足なく公表し、その開示のための機会を遅滞なく設けることです。中間決算や期末決算では会見を開くことも多いです。
日々のルーティンとしては自社のIR専用のホームページを立ち上げ、工夫を凝らした見やすいポータルサイトを運営していくことが重要になります。
単にマスメディアに公表するだけでなく、積極的に国内外の大手投資家を訪ねて決算や経営戦略を説明することもあります。企業規模が大きくなって予算的にゆとりが出ると海外ツアーを組んで外国籍の投資家に説明巡業することもあります。海外の大手投資家は数兆円~数千億円規模の資金を運用していることもあるので、そのマネーを呼び込めば自社の企業価値向上につながるわけです。
IRは投資判断のための材料を適宜適切に伝えることが責務です。「うちの株は割安だ!買ってくれ」などとは間違っても言ってはいけません。割安か割高かを評価するのは投資家です。過不足なく適正な企業価値が自然に形成されるようにすることがIRの目標になります。いたずらに購入意欲を刺激して過大な期待を高めるようなことが起こると「バブル」というような現象が醸成されてしまいます。
逆に保守的に控えめな情報発信によって会社の魅力がじゅうぶんに伝わらないと今度は割安な状態に置かれてしまいます。事業の価値が高いのに株価が低位に放置されるとライバル企業からの買収対象になってしまいます。
PBR 1倍割れ、ということばを聞いたことがありますか?専門的な解説はここではしませんが、実際の企業価値より低い状態に置かれていることを意味します。2025年現在、日本株が史上最高値を更新し続ける中、こうした割安に放置された企業が日本では多く存在し、IR活動の拡充が求められています。
投資家と経営者がリアルで対話、学びが満載
企業にとってはこうした状態を是正する機会となり、一方個人にとっては端末でしかお目にかかったことのない投資先にリアルで会える場――それがIRのイベントです。現在は日本経済新聞社やJPX・東証、名古屋証券取引所などのほか、証券会社などもIRのイベントを開催しています。
IRイベントでは何をやっているのでしょうか?まず、多くの上場企業がブースを出して自社の事業内容を展示しています。パンフレットや事業説明資料も配布されます。主に社長や経営者がブース内で事業説明に務めます。なぜでしょうか?
じつはここが最重要ポイントでIRの本質を象徴しているのです。一般に営業の責任者は担当役員だし、製造の責任者は担当役員でそれを束ねるのは社長、という構図なのですが、IRは性質上、社長直轄になるのです。
株式会社の統治構造は所有と経営の分離です。投資家は会社のオーナーに該当しますから、所有者と対峙するのは経営者になるわけです。社長が事業の説明責任を果たすことがスタンダードで、IRイベントでは多くの社長が集うことになります。大勢の投資家と経営者が一堂に会し、リアルで対話をする希少な場がIRイベントなのです。
大阪で開催中の関西万博には行かれましたか?1日では回り切れませんね。2025年9月のIRイベント「日経・東証IRフェア2025」も昨年より6割多い約160社が参加する予定です。1時間あたり2,3社回っても期間中にぜんぶは回り切れません。広大なフロアを回り、現場で経営者の肉声を聞き、疑問点をぶつけて有望な企業を探すーーさながら学者のフィールドワークです。
ビジネスを理解して将来性に資金を投じるという王道の投資スタイルであり、「考える」ことを意図的に排除して自動的に買い付ける積立投資とは違います。あるいは事業の中身を無視して値動きだけに注目する投機とも一線を画します。IR会場に足を運ぶことはミクロ経済を考える最良の学びの機会だと私は考えています。
もちろん、学びと言っても楽しさ満載ですよ。株主優待などの優待品をおみやげとして用意している企業も少なくありません。シニアの夫婦が両手いっぱいにおみやげを抱えて鼻息荒く会場を歩き回る姿も必ず目にします。
宣伝色は排除したいのですが、参加は無料ですし、ぜひご来場ください。上のQRコードなどから登録だけをしてください。私も毎年講演をやります。読者のみなさんと会場でお会いすることを楽しみにしています。
言われてみればたしかに……本コーナーではマネーに関する気づきや新しい常識を解説していきます。拙著(下記リンク)を副教材として併読していただけると高いリテラシーが身につきます。今回のテーマに掲げた会計についてもわかりやすく解説しています。本ブログの参考になる日経電子版記事を紹介しておきます。
【参考記事】
投資家も東京ビッグサイトへ 業界向け展示会にお宝情報 IR資料を使いこなす!(6)(日経電子版 2025年8月5日)
日経IRフェア、東京ビッグサイトで開幕 会場に5400人(日経電子版 2024年8月23日)