あの理論を知ると、経済の動きが理解できる
AIが伸びる領域を新たな視点で予測? 「教養」を学ぶことが、仕事や投資にどう生きるのか
目の前に置かれた、辞書のように分厚い一冊の本。680ページを超えるその書籍のタイトルは『世界のエリートが学んでいる 教養書必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)というもの。企業のマーケティング支援を行うかたわら、数々のヒットビジネス書を生み出す永井孝尚さんの著作で、累計9万部を超えています。
教養を学ぶことが、ビジネスパーソンの役に立つ。そう考えてこの本を執筆したとのこと。では、投資にも生かせる教養はあるのでしょうか。取材を通してお金にまつわる学問を深掘りする本連載。今回は「リベラルアーツ(一般教養)」編として、永井さんにお話を聞きました。
ソクラテスの考えが「仕事」に役立つ?
――本作では、ソクラテス、フロイト、アリストテレス、マルクス、孔子、ニーチェ、ダーウィンなど、ありとあらゆる学問の名著が紹介されています。100冊を1冊にまとめるのは大変だったのではないでしょうか。
永井:2年掛かりで執筆しました。もともと私は、『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)を皮切りに、MBAマーケティングやMBA経営理論の必読書50冊をまとめるシリーズを出していました。その流れで、教養書100冊を紹介する企画が立ち上がったのです。
――これまではMBA関連を扱っていたのに、どうして突然“教養”をテーマに?
永井 背景には、ある課題意識がありました。私は企業研修や講演会を行っており、その中でビジネスパーソンと接すると、問題を本質的に捉えていない、つまり表層的な部分しか見ていない人が多いと感じていたのです。
分かりやすい例を挙げましょう。たとえば顧客企業から「商品価格が高いから値引きしてほしい」と言われたとします。要望を受けた社員は、その言葉を深く検証せず、言われた通りに値引きしてしまう。お客さまはそう言っているが、本当に価格の問題なのか、真の課題は何かを追求する姿勢が取れない。これが問題を本質的に捉えていないという意味です。
問題解決は、自分の持つ知識を組み合わせて考えるのが基本です。その知識が少ないと表層的に物事を捉えてしまいますし、一方で知識が増えれば本質を見る力につながります。そのためには教養を学ぶことが必要ではないでしょうか。本作を書いた背景には、そのような考えがありました。
――一見、ビジネスとは無関係の教養が、日々の仕事に役立つのだと。
永井 そうですね。教養を身につければ、部下の育成にも好影響が生まれるでしょう。たとえば最近、企業では「1on1」という上司と部下のマンツーマン面談が行われます。この時、上司が部下に一方的に“教えよう”とすれば、十分な成果は出ないでしょう。1on1の本質は、相手の考えを一緒に引き出すことだからです。
ここで参考になるのが、ソクラテスの考えです。「無知の知」という言葉が有名ですが、実際にソクラテスが大切にしたのは「不知の自覚」だと言われます。「自分が“知らない”ことを自覚している」という意味で、この意識があれば、部下よりも自分の方が詳しい、だから上から教える……という姿勢にはなりにくいでしょう。自分は何も知らないという前提で、部下のことを知ろうというコミュニケーションが生まれます。
慶應義塾大学工学部卒業。日本IBMの戦略マーケティングマネージャーを経て2013年に退社しウォンツアンドバリューを設立。多摩大学大学院客員教授も担当。2021年からはオンライン『永井経営塾』を主宰。「難しい理論をわかりやすく、使えるように読者に伝える」をモットーにし行動経済学などリベラルアーツの著書も多い。著書に60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズほか、18万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)などがあり累計100万部を超える。




