ニッポン、新時代

エンゲージメントにより株価向上を目指す

投資先が成長していくための「触媒」となる、カタリスト投資顧問・草刈貴弘氏が行う「企業との対話」

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個人投資家の声を集めて、エンゲージメントに生かす

企業と対話する際の“姿勢”についても「私たちには特徴がある」と草刈氏は話す。いきなり提案するのではなく、まずはその企業がなぜ現在の選択をしてきたのか理解するところから始めるという。「背景をふまえずに提案する、あるいは、業績や指標といった数字だけを見て『ここを改善してほしい』と要望するのは、私たちが目指す形ではないのです」。また、意見を言って終わりではなく、その後も継続的に話し合っていく。

大手のアセットマネジメント会社(※人々から資産を預かり、投資・運用を行う会社)の中には、同様の対話を行っているケースもある。これらは、「企業と対話する部門」と「ファンド運用を担う部門」が分かれていることが多かったという。しかし「われわれは2つの役割を同じチームで助言しています」と草刈氏は話す。「企業と話し合い、その成果をもとに投資判断につながることが重要です。だとすれば、両方の役割を同じ人間が担うのが本来の姿でしょう」。

企業だけでなく、個人投資家とも対話するのがMAFの特徴だ。さまざまな意見を聞き、投資先とのエンゲージメントに生かすという。なぜ個人の声を大切にするのか。理由を尋ねると、迷いなくこう答えた。

「ファンドの最終的な受益者は、あくまで一個人の方々です。MAFのように、広く一般に募集する『公募投資信託』はもちろんのこと、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のように、プロの機関投資家が運用しているファンドも、巡り巡って最後は国民一人一人が受益者となります。その中では、個人の意見に耳を傾けなければなりません」

個人投資家が「割安銘柄」を見つけるためのアドバイス

草刈氏は若い頃、舞台俳優として活動していた経歴がある。その後、いくつかの転機があり、金融業界へと足を踏み入れた。当初は住宅ローン販売に関わっていたが、「さわかみファンド」で知られるさわかみ投信の澤上篤人会長の言葉に感銘を受け、同社で投資に携わり始めた。以来、知識と経験を積み重ね、ファンドマネージャーとして活躍。その後、カタリスト投資顧問に移った。

自身の基本的な投資スタイルは「バリュー投資」だという。本来の企業価値より株価が低い状態(割安)の銘柄を狙うものだ。たとえば、事業自体は堅調で、他社に比べて優位性があるものの、そのビジネスの市場全体が落ち込んでいたために株価が下がっている銘柄。あるいは、会計上はまだ利益が出ていないものの、着実に成果を積み上げていて今後業績が伸びそうな銘柄など。それらに投資し、対話やエンゲージメントを通じて企業価値向上を図っていく。

ではどのようにして、割安な銘柄を探せば良いのだろうか。草刈氏は、個人投資家向けのアドバイスとしてこんな言葉を口にする。

「ご自身の趣味や精通しているジャンルの中から探すのが近道ではないでしょうか。アニメ、化粧品、自動車。どんなものでも構いません。知識のない業界、いわば“土地勘”のないところには行かないことが大切です」

自分がよく知るジャンルであれば、なぜ今この商品が流行っているのか、そのブームはどれだけ続くのか、反対になぜこの企業の業績が良くないのか、理由を推察しやすい。「私でいえば自動車が好きなので、各メーカーがどのような新車を販売し、その売り上げやファンの評価がどのようなものか、自然と蓄積されています」。これらの“生きたデータ”が投資判断に役立つという。

ファンとして特定の業界を見続けていると、「企業が変わる瞬間」に気づける可能性もある。過去に業績が低迷した企業でも、その後の改革により、直近で良い商品を連続で出したり、サービスの質が日に日に上がったり。「その営みが続くと、企業に対する消費者の受け止め方が変わり、社会の認知も変化します。次第に会社は成長し、株価にも反映されるでしょう」。

企業との対話は、まさしくその“変化”を起こすために他ならない。株式投資の本質とは、投資家が企業に資金を提供し、経営を支援することにある。企業と投資家は分離した関係でもなければ、対立し合うものでもない。手を取り合い、好循環を生み出すのが本来の姿だろう。「カタリスト(触媒)」という言葉は、その本質を表している。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2025年9月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

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