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こちらIR!〜会社と投資家をつなぐ物語〜

第3回 パートナー探しに英文開示。奔走する三陽商会IR部の“基盤作り”

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2022年春に発足したIR部。谷内と川嶋が「ゼロからの挑戦」を語った前回に続き、今回は彼らが取り組んだ実務に迫る。なかでも必要に迫られたのが、パートナー企業との協働。二人ではできることに限界がある。しかしやらねばならない。生まれたばかりのIR部の歩みは、手探りながら確固たる勝ち筋を見据えた第一歩だった。

谷内「IR部新設の構想段階から様々な施策案を考え始めていましたから、2022年3月1日にスタートした時点では既に走り始めていましたし、向こう1〜2年で何が必要かというのは頭で整理できていました。ただし、すべてのピースが埋まっていたわけではなく、実際に様々な方とディスカッションしたり、教えてもらったりしながら進めていきました」

この先、何が求められるのか。機先を制した打ち手

プライム市場上場維持のために、もっとも重視したのはIR基盤の整備だった。投資家に「未来像」を明確に示す必要がある。IRへのアプローチが後発であることを、まず素直に認めるところから始めた。

川嶋「IRの基盤自体が全く整っていない状態からのスタートでした。ターゲットとしている投資家と、それぞれの施策で狙える効果を事前に整理した上で、当社にとって最適な対応を選択するところから始めました」

対応の最たるものが、コーポレートサイトの改修と英文開示だった。国内外の投資家に対して今後様々な施策を行うにあたって、IR活動の基盤を構築し、基礎データを提供することは喫緊の課題だったのだ。

谷内「今後のIR活動を行う上で、土台となるコーポレートサイトの改修は必須でしたし、日英同時開示の要請もいずれ東証から来るであろうと思っていました。特にプライム市場の上場維持を目指すのであれば、当然に備えておくべきものです。そうであればいち早く実行した方が得策だと考え、すぐに着手しました」

とはいえ社内の、わずか2名のチームですべての作業をまかなうことはできない。そこで選んだのが、外部の専門家との協働だった。PR会社など多くの企業がIR活動を支援するが、三陽商会のIR部にとっては、そうした企業とのつき合い方も未知の領域だった。

パートナーに対しては、「丸投げではなく並走してほしい」

川嶋「調べる中で、それぞれの分野で強い会社が出てきますので、まずは会って話を聞くところから始めました」

谷内「選定にあたっては、自社が目指すことを実現できて、小回りが利き、出来ればデジタルを上手く活用するパートナーを優先的に検討しました。当然のことながら費用対効果も重要です。特に重視したのは、一緒に並走してくれるか否かです。大手企業の場合、安心感はもちろんありますが、費用は高い場合が多く、また先方のパッケージに当てはめて終わりという提案も多かった。そうではなく、どうしてもこうしたいという我々の意志や戦略を実現するために提案してくれる、柔軟性や機動力のあるパートナーを選びました」

いわゆる“丸投げ”で委託するのではなく、自分たちの頭で考えて戦略を策定し、外部の知見を借りて磨き上げる。その姿勢を貫いた結果、少しずつ「並走」できる関係が築かれていった。

手探りで手作りした、PBR改善計画

もうひとつ、当時のIR部が担った大きな仕事があった。PBRの改善計画だ。純資産に対して株価が長期にわたって下回っている企業が取り組む、企業価値向上のためのロードマップだ。

川嶋「投資家の方々との対話の中で、『資本コストを意識した経営をしてください』というご意見を多く頂きました。それに対して我々は2023年10月の中間期決算発表で、PBR改善計画を出したんです」

谷内「これは2人の手作りです。他社の事例を見るとコンサルティング会社が支援して作成したであろう素晴らしい開示資料もあることは知っていましたが、我々はリソースが限られるため、まずは自前でやろうと。ただし、絶対に押さえなければいけないポイントを押さえました。それらのポイントは、日々の対話の中で得られていましたし、自社がどうすべきかの打ち手も分かっていました。開示内容は稚拙だったかもしれませんが、株主や投資家が重要だと考えるポイントはしっかりと押さえられていたと考えています」

川嶋「これをフックにIR面談やSR面談が盛り上がり、その中身について具体策などの対話がしっかりでき、面談もより焦点の絞れた内容に変わりました」

谷内「そこで得られたインプットは翌年の戦略に反映したり、次の中期経営計画に反映したりしました。しっかりと開示すると反応があるんだな、市場との対話とはこういうことかと実感できました」

耳を傾け、真摯に向き合う。ふたりが得られた実感

市場に真摯に向き合えば、かならず響く。ふたりが得られたのは、大きな実感だ。

谷内「IR部の発足当初は、事業構造改革のフェーズが終わったばかりということもあり、株主や投資家からは厳しいご意見もいただきました。『なぜこの戦略なのか』『本当に実現可能なのか』。それに答えるには、対話を反映した戦略の立案と実行、そして結果の開示、開示内容に基づく対話というPDCAを回すことが重要だったのです」

川嶋「でも、そのやりとりの中で、投資家の視点がわかってくる。数字の意味づけや説明の仕方も、どんどん変わっていきました」

三陽商会 本社外観

義務に基づく開示から、未来を描く物語へ。最終回となる次回は、IRという仕事の実務と未来への展望に迫る。

(執筆:吉州正行)

<合わせて読みたい!>
第1回 アパレル大手三陽商会大江伸治社長が語る、危機からの脱出とIR部創設
第2回 「カジノのこと?」ゼロから始まった三陽商会IR部の船出

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