こちらIR!〜会社と投資家をつなぐ物語〜
第4回 三陽商会の成長に不可欠となったIR。その先に見据える未来
2022年3月に誕生したIR部は、わずか2名からのスタートだった。プライム上場維持やPBR改善を目的のひとつに掲げた取り組みは、市場でも注目を集めるに至る。いま、IRはどのように社内外で息づいているのか。そして、今後の打ち手はいかなるものか。
対話と情報開示。三陽商会IR部の日々の業務
川嶋「IR部の具体的な業務として、まず投資家対応があります。機関投資家やアナリストとのワンオンワンミーティングの日程調整や議事録作成、問い合わせ対応といったロジスティクス全般です」
さらに大きな柱となるのは情報開示。適時開示文書のドラフト、基準チェック、英文資料の作成、決算説明資料の準備。これに加え、コーポレートサイトでの投資家向け情報更新も担う。
谷内「経営企画部担当部長も兼務している為、全社の戦略や企画の立案も行います。取締役会や経営会議の事務局でもありますので、株主や投資家から得たインプットを取締役会に報告し、次の戦略に反映させることも重要な役割です。そしてその戦略を立案・作成し、開示し、対話を通じて再びインプットを得る。そのPDCAを回しています。さらに、サステナビリティ委員会の委員でもありますので、株主や投資家の視点をサステナビリティ活動にも反映させています」
2人しかいない部署だからこそ、業務は多岐にわたる。とはいえふたりの言葉の端々には、苦労以上に充実感が滲んでいた。
IRと広報をつなぐ、新しい体制
2024年、IR部は企業コミュニケーション部を統合し、IR・広報戦略部として「IR・SR・PR一体型」の体制が発足した。そこには、経営トップの意志と谷内の戦略眼が反映されている。
谷内「潜在投資家に対するIR、株主に対するSR、メディアや消費者に向けたPR。それぞれ相手や媒体は違っても、発信すべきメッセージの“核”は同じです。それぞれがバラバラではなく、首尾一貫して同じメッセージを発信することが重要でした」
かつては商品紹介が前面に出がちだった広報活動は、戦略的なメッセージ発信へと軸足を移した。
谷内「ワンカンパニー・ワンボイス。すなわち、どれを見ても同じメッセージや戦略を理解してもらえるような発信です。それがいまの体制で実現できつつあります」
キチンと向き合い、会社の思いと市場のギャップを埋める。ふたりにとってのIR
谷内「私にとってIR・SRとは、株主や投資家と企業の相互理解を深め、企業価値を向上させる“共同作業”です」
谷内はその本質を、かつてのバーバリー事業統轄室での経験に重ねる。ライセンサーとライセンシー、同じゴールを持ちながら立場が違えば必ず意見が対立する分野も生まれる、というかつての経験だ。
谷内「重要なのは、相手の考え方や懸念点、その背景を理解し、変えられる点は迅速に対応し、譲れない点は論理的に説明すること。株主や投資家との関係も同じです。短期志向の投資家もいれば、長期的成長を重視する投資家もいる。彼らの考えと会社が考える戦略とのギャップをどう埋めるかがIR・SRの役割なのです」
対して、営業からの突然の異動で始まった川嶋のIR人生。彼はいま、職務を「戦略的専門職」と言い切る。
川嶋「資本市場と企業をつなぐのがIRです。経営トップの意思決定を支える部署で、企業価値の向上に直結する仕事。営業から来た私がここまでやってこられたのは、経営トップがIRに深く理解を示し、自らコミットしている姿を近くで見られたことが大きいです」
「事実を語るにはばかることなかれ」というのが社長のスタンスだという。その言葉が、川嶋にとっての現場での指針になった。
川嶋「3年前は“IRって何?”と言われていましたが、今では社内で当たり前のキーワードになっています。今後は全社員が同じ目線を持てるように、情報共有の仕組みをもっと整えていきたいですね」
今や、IRは三陽商会の成長に不可欠な存在になった
かつては未知の言葉だったIRはいま、三陽商会における共通認識となった。
谷内と川嶋、2人の役割は異なりながらも、目指す場所は重なっている。
谷内「資本市場と対話を重ね、企業価値を向上させて未来へつなぐ。そのための具体的なアクションを積み重ねるだけです。具体的アクションの積み重ねによってのみ、展望が開けるのだと考えています」
川嶋「未経験から始まった挑戦ですが、IRが会社の成長に不可欠な存在だと証明していきたいと考えています」
2人の挑戦はまだ道半ばだ。だが、3年半で築かれたIRの基盤は、着実に根付き、未来へ伸びる三陽商会の羅針盤のひとつになっている。
(執筆:吉州正行)
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