会社の雰囲気を知るとともに、経営に参画している意識を持つ

個人株主が「株主総会」に参加したほうがよい理由

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リアルな株主総会だからこそわかることがある

最近はオンライン上で株主総会に参加できるシステムを導入する企業が増えてきているが、「時間があったら、一度リアルの株主総会に参加することで見えるものがある」と、上田さんは言う。

「オンラインでは、話している議長や経営陣の顔を中心に映していたり、報告用のスライドだけが映し出されたりすることがあります。それでも事業内容や経営層の思いは伝わりますが、実際に会場に行ってみると、実は議長となる社長がステージ上を歩き回って株主の近くで話していたり、大きな身振り手振りで遠くの席の人にも伝わりやすいように話していたりと、経営層の人となりがわかるものです。重厚長大型のお堅い企業かと思ったら、社長の話しぶりがとてもフレンドリーで親しみやすさを感じるというよい意味でのギャップもあるかもしれません」

投資を行ううえで、企業の業績や事業、経営の方向性はとても大事だが、同じように経営層のキャラクターや組織の雰囲気も重要な判断材料となるだろう。

「株主総会の雰囲気を受けて、自分の考えと合うか合わないか、応援したいと思えるかという視点で改めて企業を見ることも大切だと思います。短期的に売買する目的であればあまり関係ないといえますが、中長期的に保有しようと考えているのであれば、積極的に応援したいと思える企業のほうが精神的な負担が少なく、楽しく投資できるでしょう」

個人投資家もチェックしてほしい「統合報告書」

企業が発信する情報を得ていくうえでは、ひとつ注意点があるという。

「最近は、総会の招集通知や事業報告書の電子化が進んでいます。データであればかさばらないですし、パソコンやスマートフォンでいつでも見られて便利ですが、企業によっては簡易版の資料になっていることがあります。簡易版で十分という人はそのままでよいのですが、詳細な情報を見たい場合は、企業に冊子の資料を申請したり総会でもらったりしなければいけません。企業から届いた資料がすべてではない、ということは覚えておいたほうがよいでしょう」

企業をより深く知るための資料は総会のタイミングで配布されるものだけではないという点も、押さえておきたいポイントとのこと。上田さんが「情報収集に適している」と話すのは、統合報告書。主に機関投資家に向けた資料で、企業の財務情報に加え、中長期の戦略やガバナンス、サステナビリティ(持続可能性)などの非財務情報もまとめられたものだ。

「統合報告書には、社長や各担当役員のメッセージ、社外取締役の対談、従業員の声などが載っていることが多いので、企業の雰囲気を知る一助になります。従業員の有休取得率や産休・育休取得率、役員の構成比率、サステナビリティに関する取り組みなども紹介されているため、企業文化や企業風土に触れることもできるでしょう。機関投資家も参考にするものなので、個人投資家の皆さんにとっても有意義であることは間違いありません。1000社以上が手間と費用をかけて制作し、誰でも見られるようにホームページに掲載しているので、気になっている企業の統合報告書を見てから投資するか判断してもよいでしょう」

株式投資は資産運用の手段であると同時に、その企業の経営に参画し、よりよい方向に導いていく方法ともいえる。数字だけでなく企業の思いや経営陣・従業員の人柄に触れることで、いままで以上に信念を持って投資に取り組めるだろう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/鈴木真弓)

お話を伺った方
上田 亮子
SBI大学院大学教授、京都大学経営管理大学院客員教授。2001年みずほ証券に入社した後、日本投資環境研究所への出向・転籍を経て、2017年よりロンドンにてコーポレート・ガバナンスや機関投資家のスチュワードシップに関する研究に従事。2022年に公認会計士・監査審査会委員に就任。上場会社等で社外取締役等も務める。公認会計士・監査審査会、金融庁金融審議会、サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議、IFRS財団Management Commentary Consultative Group等の政府や国際機関の委員を歴任。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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