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東証グロース市場改革とは。「高い成長」を目指す企業が集う市場へ

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2025年9月26日、東証から、グロース市場の全上場企業に対する「高い成長を目指した経営」の実現に向けた対応の働きかけが実施されました。

今回は、その背景も含め、グロース市場でどのような改革が行われようとしているのかをご紹介させていただきます。

グロース市場改革も市場区分の見直しがはじまり

2022年4月に行われた市場区分の再編では、市場ごとにコンセプトが設けられました。その際に、グロース市場は、「高い成長可能性を有する、未来の日本経済の成長を牽引する企業」の輩出が期待される市場として位置づけられていました。

グロース市場改革は、このコンセプトを名実ともに実現することを目指しているといえます。

各市場のコンセプト

グロースなのにグロースしてない。グロース市場が抱える課題

しかし、現在のグロース市場において、高い成長を実現する企業は少数に留まっています。以下のグラフは、グロース市場に上場した会社の時価総額の成長率です。新規上場時から時価総額が10倍以上に成長した企業は全体の5%程度に留まっています。

市場全体の株価はどうでしょうか。以下のチャートからわかるとおり、2022年4月の市場区分の見直し後、プライム市場とスタンダード市場の株価は上昇傾向にある一方、グロース市場の株価は低迷が続いてきました。

このような状況下、東証は、2025年4月、スタートアップが上場後も高い成長を続けられる市場づくりを目指して「グロース市場における今後の対応」を公表しました。その内容は、以下の3つのポイントに整理されています。

ポイント1. 上場後の「高い成長」を見据えたIPOの推進

東証は、IPOを目指す企業に知っておいていただきたい内容等について、引受証券会社等のIPO関係者と認識を共有し、その内容を経営者に対して発信していく予定です。

上場後は、より幅広い株主・投資者の成長期待に応えていく「責任」が生じます。その責任を果たすためには、「IPOを上場後の成長にどう活用するのか」「IPOの時期・規模が適切か」「自社に適したどの市場区分か」などを十分に検討する必要があります。企業の経営者にこの点を意識していただくことが重要であるとして、東証はIPOを早期からサポートする関係者(証券会社など)と連携しながら、企業(経営者)にアプローチを進める予定です。

ポイント2.「高い成長を目指した経営」の働きかけ

2つ目のポイントは「高い成長を目指した経営」の実現に向けた対応への働きかけです。
東証は、2025年9月26日に、グロース市場上場企業に対して、以下のサイクルを継続的に行うようお願いしています。

1.上場後の成長状況や市場評価について、定量的に分析する
2.成長戦略・目標をブラッシュアップする
3.分析の内容やアップデートした成長戦略を投資家にわかりやすく開示する

実際に東証が2025年9月に掲載した資料はこちらからご覧ください。

グロース上場企業に対する投資家の期待

「高い成長を目指した経営」の働きかけと同時に、「グロース企業に対する投資家の期待」も取りまとめられました。
東証では、グロース市場での取組みを進めるにあたり、多くの上場会社(200社超、主にCEO・CFOなど経営者)、機関投資家(約100社)など市場関係者との意見交換を実施しています。

そこで得られたフィードバックに基づき、グロース上場企業に対する投資家の期待が、それとギャップがある経営者のマインドとともに、下表のとおり取りまとめられました。
「高い成長を目指した経営」の働きかけは、以下の「投資家の期待」を踏まえた対応をグロース上場企業にお願いするものとされています。

ポイント3. 上場維持基準の引上げ

現行の上場維持基準は「上場10年経過後から40億円以上」ですが、2030年3月1日以降は、「上場5年経過後から100億円以上」となる予定です。例えば、2028年にグロース市場に上場した企業であれば、2033年以降は時価総額100億円以上になっている必要があります。

5年・100億円という数値は、機関投資家が投資しやすい規模感を早期に実現してほしいという背景や、グロース市場全体に資金が流入しやすくさせるという狙いがあります。

また、低迷する企業において、100億円以上の時価総額を単独で目指すことが難しい場合、M&Aによる再編や次なる創業といった選択肢を検討していただくことも想定されています。

一方で、高い成長の実現を目指している企業が、2030年において機械的にその機会を奪われないよう、例外的な取扱いも設けられています。具体的には、企業が2030年において、5年・100億円という新基準への適合を目指す計画を投資家に開⽰する場合、その計画期間はグロース市場への上場を例外的に可能とする、というものです。

一方で、例外的な取扱いを受ける場合であっても、現在の「10年・40億」の上場維持基準は引き続き満たしていく必要があり、この基準を満たせなければ上場廃止となります。また、市場区分見直し時に設けられた経過措置においては、95%の企業が5年以内の計画を提示しており、長期間の計画は投資家からの支持を得られていませんでした。実際に、3年超の改善計画を出した企業の株価は下落傾向にあり、上場企業においては、こうした状況も勘案しながら対応を検討していく必要があると言えます。

また、例外的な取扱いを受ける場合には、上記のとおり、計画期間において時価総額100億円以上を実現するための計画を投資家に対して開示する必要があることから、結果的に2030年以降のグロース市場は、「時価総額100億円以上」の企業もしくは「100億円以上を目指す」企業が上場する市場になります。

高い成長を目指す企業であれば100億円未満での上場でも歓迎

今回の改革によって、「時価総額100億円未満の上場はできなくなる」と誤解されがちですが、そうではありません。

今回の改革の目的は、あくまでグロース市場を「高い成長」を目指す企業が集まる市場にすることです。これまで上場時100億円未満から大きく成⻑した例もあるため、新規上場基準そのものの引上げは行われません。

グロース市場からスタンダード市場への移行基準の見直し

上場維持基準の見直しの影響を受ける時価総額40~100億円の企業は、全体の約3割(約200社)となっています。これらの企業において、時価総額100億円以上となるよう取組みを進める企業もあれば、M&Aや非公開化などを検討する企業もある一方、スタンダード市場に移行したいという企業が出てくることも想定されています。

しかし、スタンダード市場への移行基準の一つである「利益1億円以上」を満たさない企業も少なくありません。スタンダード市場への移行を意識することにより、成長投資を抑え、利益を捻出することは本末転倒であるため、この利益の基準を満たしていなくてもスタンダード市場へ移行できるようにする方針が示されています。

この手当てにより、結果として「5年・100億円」の基準を達成できなかった場合でもスタンダード市場への移行という選択肢が残っています。

東証によるグロース市場の魅力向上と対応のサポート

冒頭でもふれたとおり、今回の改革の目的は、グロース市場を「高い成長」を目指す企業が集う市場にすることです。そのためには、グロース市場を、企業と投資家にとって魅力的な市場にしていく必要があり、東証として「高い成長」を目指す企業に対する様々なサポートを行っていく予定です。

東証によるサポート施策

グロース市場に居続けることも選択肢に

これまでの価値観でいえば、「成長したら東証一部」というのが当たり前のこととなっていました。しかし、今回のグロース市場改革はその価値観を大きく変える試みであることがうかがわれます。

グロース市場改革の出発点である、市場区分再編には重要な考え方があります。それは、「プライム・スタンダード・グロースの各市場は優劣のない並列な関係であり、それぞれコンセプトが違うもの」という考え方です。プライム市場はいわば「グローバル」で戦える企業が集まる市場とされていますが、グロース市場は「高い成長」を目指した企業が集まる市場とされています。

つまり、市場のコンセプト上、必ずしも「規模が大きいからプライム市場へ」ということではなくなったといえます。企業はプライム市場でもグロース市場でも、自社に適した市場区分を選択し、企業価値向上・成長の実現に取組んでいくことが重要ということなのではないでしょうか。

東証は、グロース市場を「⾼い成⻑を目指す企業が集う市場」とし、まさに「グロース」というキャラクターを追求していく。
企業は、グロース市場において高い成長を目指していく。
投資家は、高い成長性を期待して、グロース市場に投資をする。

日本の未来を担う企業を輩出する、グロース市場改革はまだ始まったばかりです。

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(東証マネ部!編集部)

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