「株主=顧客」の声を拾っていった先に企業価値向上がある
「株主=顧客」を提唱するイオンが「株式分割」に踏み切った理由
近年、個人株主が自社の株式により投資しやすくなるよう、上場企業がさまざまな施策を打ち始めている。そのひとつが、既に発行されている株式を分割する「株式分割」だ。1株を2分割、3分割といったように分け、1株当たりの株価を下げる施策だ。株式分割を行うことで、個人投資家でも購入しやすくなるというメリットがある。
2025年9月1日に株式分割を行ったのが、スーパーをはじめとする小売事業を中心に、ショッピングモールの開発・運営を担うディベロッパー事業、クレジットカードや銀行・保険などの総合金融事業、サービス・専門店事業などを幅広く展開するイオン。株価が5000円を超えていたところで1株を3株に分割し、2025年10月現在は2300円前後で推移している。最低売買単位100株を購入する場合、50万円以上必要だったところから23万円ほどで買えるようになったのだ。
なぜイオンは株式分割を行ったのだろうか。同社ブランディング部部長の小林哲也さんに聞いた。
「株主=顧客」との結び付きを強くするための株式分割
株式分割を検討し始めたのは、「個人株主を増やしたい」という思いがあったからとのこと。
「当社は、株主の裾野を広げたいという思いを、かねてより抱いていました。なぜかというと、当社の株主の方々の多くは、スーパーやショッピングモールのお客様でもあるからです。店舗によっては売上の約20%が株主の皆様によるものというデータも出ているように、お客様と株主がニアリーイコールであるという特性がありますし、お客様に株主になっていただくことでより強い結び付きが生まれると考えています。国内外の店舗のお客様は延べ40億人を超えているので、もっとつながりを増やしていきたいですね」(小林さん・以下同)
イオンの個人株主数は2025年8月末時点で105万人弱。株主全体における個人株主の比率は、議決権ベースで3分の1を超える。BtoCの小売業だからこその数字といえるだろう。
「当社では毎年11月から12月にかけて、株主懇談会を実施しています。全国8カ所、札幌から那覇まで経営陣が赴き、地域の株主の方100名ほどを招いて中間報告を行った後、立食形式でプライベートブランド『トップバリュ』の料理をふるまい、懇談するというものです。その際、経営陣には株主の皆様の声をメモに残してもらい、私たちがまとめています。株主の皆様は経営に参加する気持ちで『この土地の食材を活用してみては?』『地域特有のプライベートブランドをつくってもいいんじゃないか』と提案してくださるので、とても参考になっています」
企業側にとっては手間もコストもかかるイベントだが、「それ以上の価値がある」と小林さんは話す。
「株主=お客様の生の声を聞ける機会は、とても貴重だと感じています。小売業は、独りよがりになってしまうとうまくいきません。お客様の声を受けて工夫していくことが成功のカギなので、経営陣自らがお客様とコミュニケーションを取る機会を大切にしています」
コミュニケーションの場として、株主総会も重要視している。リアルの会場に加えてオンラインでの配信も行い、オンラインでは議決権行使ができる「出席型」と視聴のみの「参加型」から選択できるようにしている。開かれた総会を行うことで、より多くの株主の声を拾いやすくなるのだ。
「日頃スーパーやショッピングモールをご利用いただくお客様が株主であり、経営にも携わっていただくという関係を構築することによって、お客様の声に応えやすくなっていくと考えています。そのため、株主の皆様に参加していただきやすい株主総会やイベントを今後も開催していきたいですし、そもそも株主になっていただけるような工夫も続けていきたいと思っています」




