「株主=顧客」の声を拾っていった先に企業価値向上がある
「株主=顧客」を提唱するイオンが「株式分割」に踏み切った理由
「コストの増加」以上に「顧客との接点の増加」を重視
株式分割におけるハードルとして、もうひとつ論点となったのが「コスト」。
「株式分割を行うことで、個人株主が10万~20万人増えると予想しています。株主総会の招集通知や中間報告書などの郵送物も増えることから、印刷や郵送にかかるコストの増加が見込まれます」
企業にとってはマイナスの変化だが、それ以上に株主=顧客との接点が増えることで、企業価値の向上につながると考えているのだ。
さまざまな議論を重ね、2025年9月1日に実施した株式分割だが、発表した時点から反響は大きいという。
「当社のコールセンターにいただくお問い合わせの数は日に日に増え、そのほとんどが『株主優待はどうなるんですか?』というものでした。不安の声というよりは『分割したら買いたいから、詳しく知りたい』という声が多く、前向きに捉えていただいているのだと感じました。初めて株式を購入される方にとって、優待は背中を押す材料のひとつになるので、これからも優待の内容について丁寧に伝えていきたいと思っています」
株主と企業をつなげる「アプリ」でできること
株式分割をはじめ、株主=顧客とのコミュニケーションの機会を増やすべく動いているイオン。いままさに、新たな施策を打とうとしているという。
「株主の皆様とのコミュニケーションの機会を増やすための革新的な施策のひとつとして、イオングループの公式アプリ『iAEON(アイイオン)』に株主専用のミニアプリを搭載する予定です。株主の皆様に『iAEON』を通じて日々の買い物の決済、ポイントやクーポンの利用などを行っていただくことで、株主の方々の情報を把握するだけでなく、どのような買い物をされていて、何が人気なのかといったデータも集めることができます。その結果、より魅力的な優待や施策をご提供できるのではないかと考えています」
個人株主と企業がダイレクトにつながるアプリは世界的にも前例のない試みで、株主にとってもメリットがあるとのこと。
「アプリを通して私たちからの情報も直接送ることができるので、招集通知や中間報告書だけでなく、株主の皆様に向けたお知らせや当社の新しい取り組みなども即時性をもって発信できます。『iAEON』は日常的に使っていただいているアプリなので、情報に触れる機会も増え、株主と企業のつながりをより感じていただけるのではないかと考えています」
アプリで株主とつながることができれば、情報をやり取りするだけでなく、株主向けのサービスなども充実させることができる。
「いま考えているのは、ファイナンシャルウェルビーイングの提供です。当社にはスーパーやドラッグストアに加え、金融総合サービスのイオンフィナンシャルサービスもあるので、生活をよりよくしていくための学びの機会も届けられると考えています。また、社債にも関心を持っていただきたいという思いもあるので、社債に関する情報も発信していきたいですし、アプリで社債権者の方々に向けたクーポンなどもご提供できると考えています。アプリでできることを、もっと考えていきたいですね」
「株主=顧客」を提唱するイオン。株式分割を行ったことで、購入のハードルがぐっと下がった。「株主=顧客」の声を拾っていった先に企業価値向上があるのかもしれない。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)





