本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

寿命100年時代の人生設計を考える『LIFE SHIFT――100年時代の人生戦略』

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無形資産の重要性

さらに本書が強調するのは、「無形資産」への投資である。

無形資産とは、従来の金融資産のような有形資産だけが資産ではない、とする考え方である。では何が資産に加わるのか。

それは、仕事に使えるスキルや知識のような「生産性資産」。
健康や幸福といった、生きるうえでの基礎活力になり得る「活力資産」。
そして、変化への適応能力や多様な人間関係を築く「変身資産」。

これらこそが、長期的なキャリア形成と幸福な人生の基盤となる、と説くのだ。

つまり金融資産とともに、これらの無形資産への継続的な投資こそが、人生100年時代を豊かに生き抜くための鍵となる、と作者は言うのである。

言うまでもなく、活力資産や生産性資産に投資するには、金融資産が不可欠だ。だからこそ本書を読むと、なぜ自分は金融資産を増やしたいのか、増やすべきなのか、その目的が明確になるかもしれない。

日本社会全体で考えていくべき「人生100年時代」

世界有数の長寿国である日本は、「人生100年時代」の最前線に立っている。

『ライフ・シフト』は、ただひたすらに自己責任で個人で資産を増やしキャリアを設計すべきだ、と主張しているように見える。しかしページを巡ってみると、社会全体として年金制度や医療制度といった社会保障システムを持続可能な形で構築することも重要だ、と説いていることもまた確かなのである。

もちろん昔よりも、個人がリスクを適切に管理し、投資を通じて資産形成を行うことの重要性はたしかに上がっている。だが、これは個人の努力のみに委ねられるべきではないはずだ。
社会全体のセーフティネットを構築し、リスクを取っても大丈夫だと感じられる世の中にしていくことが、持続可能な経済成長に繋がる――本書を読むとそれがよくわかる。

いまや、定年まで勤め上げても40年以上人生の時間が残っているかもしれない。その人生の長さにうんざりする人もいるだろう。だが、社会全体が、その寿命の前提で組み立てる人生設計にシフトしていくことで、より多くの人が人生の長さを楽しめるようになってほしい。今回この本読んで、改めてそう感じた。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。
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