松方正義とはどんな人物?松方デフレや渋沢栄一との関係も解説

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松方正義は、明治から大正期にかけて、大蔵大臣や内閣総理大臣などを歴任した人物です。大蔵大臣時代には、松方財政と呼ばれる政策を打ち出しました。

インフレーションの状況に対応するため、紙幣の数を減少させたことなどが、松方正義の政策の特徴です。インフレーションやデフレーションが抱える課題は現代でも議論されることのため、松方財政を知ることは現代の政治経済を理解することにもつながります。

本記事で、松方正義が活躍した時代や、松方財政の特徴について押さえておきましょう。

松方正義とはどんな人物?

松方正義(まつかた・まさよし)は、明治から大正期にかけて活躍した政治家です。主な経歴を以下にまとめました。

・1835年:薩摩藩(現・鹿児島県)で誕生する
・1868年:日田県(現在の大分県の一部)の設置に伴い、初代知事に就任する
・1880年:内務卿に就任する
・1881年:大蔵卿に就任する(以降、大蔵卿・大蔵大臣に7度就任する)
・1882年:日本銀行の設立に尽力する
・1891年:第4代内閣総理大臣に就任し、第1次松方内閣を組閣する
・1896年:第6代内閣総理大臣に就任し、第2次松方内閣を組閣する
・1900年:元老の地位に就く
・1924年:90歳で死去

ここから、松方正義に関するトピックをいくつか紹介します。

日田県(現在の大分県の一部)初代知事に就任する

松方正義は、1868年に日田県が設立されたタイミングで初代知事に任命されます。

知事在任中は、現地に残る堕胎や捨子の悪習を刷新することに尽力しました。また、棄児・孤児の養育や、棄児・孤児と里親をつなぐ役割などを担う「日田養育館」を設立しています。日田養育館は、近代における児童養護施設の先駆けとも言える施設です。

第4代・第6代内閣総理大臣に就任する

松方正義は、1891年に第4代内閣総理大臣に就任しました(大蔵大臣兼務)。組閣直後に大津事件(※)が発生し、第一次松方内閣は対応に追われています。

1892年に退任後、第二次伊藤内閣を経て、松方正義は再び1896年に内閣総理大臣に就任します(第二次松方内閣)。第二次松方内閣でも、松方正義が大蔵大臣を兼務しました。

その後、1898年に内閣総理大臣の座を降りてからも、松方正義は大蔵大臣や元老の立場で政治に深く関わっています。

※大津事件:警備を担当していた巡査が、来日中のロシア皇太子を斬りつけ外交問題に発展した事件

通算10年以上大蔵大臣(現・財務大臣)を務める

通算10年以上、大蔵卿や大蔵大臣を務めている点が、松方正義の政治家としてのキャリアの特徴です。1881年には大蔵卿に就任し、1885年に内閣制度が発足してからは、通算7度大蔵大臣を務めています。

なお、松方財政とは、1880年代に松方正義が大蔵卿や大蔵大臣を務めていた際に打ち出した政策を指すことが一般的です。

日本銀行の創立に携わる

松方正義は、大蔵卿時代に日本銀行の創立にも携わっています。

大蔵卿就任当時、日本では大量の不換紙幣が出まわり、インフレーションを引き起こしていました。不換紙幣とは、発行者が金属との引換えを約束しない紙幣のことです。

松方正義は問題を解消するために、正貨との交換が約束された銀行券(兌換銀行券)を発行する中央銀行をつくることや、中央銀行を中心とした銀行制度を整備することを提唱します。その結果、1882年に日本銀行条例が制定され、日本銀行の開業に至りました。

なお、兌換銀行券が実際に発行されたのは、1885年です。銀貨との交換が保証された1円・5円・10円・100円のお札が発行されました。

松方財政・松方デフレの特徴

松方正義の政策(松方財政)は、主にインフレーションの状況に対応するためのデフレーション(デフレ)政策である点が特徴です。そのため、松方デフレと呼ばれることもあります。

松方財政(松方デフレ)の特徴は、主に以下の通りです。

・紙幣の数を減少させる
・銀本位制の採用や金本位制度の確立をする
・官営工場を民間に売却する

ここから、それぞれの内容や効果について解説します。

デフレーション・インフレーション・スタグフレーションの違いについて知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

スタグフレーションとは?原因・対策や過去の事例についても詳しく解説

紙幣の数を減少させる

酒税などの増税により、紙幣の数を減少させたことが松方財政の特徴です。

増税時には、政府の税収は増える一方で、市場に出回るお金は減ります。その結果、数が減ったお金の価値が上がるため、相対的にモノの価値(物価)は下落することが一般的です。

また、歳出の削減(緊縮財政)を目指したことも、紙幣の減少につながっています。

銀本位制の採用や金本位制の確立をする

銀本位制を採用したことや金本位制を確立したことも、松方財政の特徴として挙げられます。銀本位制は銀行券を銀貨と交換できる制度、金本位制は銀行券を金貨と交換できる制度のことです。

松方正義は、中央銀行設立後に1885年に銀本位制を導入し、インフレーションで下落していた貨幣価値を上昇させました。また、1897年には金本位制を確立させています。

官営工場を民間に売却する

官営工場を民間に売却(払下げ)することを決めたのも、松方財政の特徴です。明治初期に造船や船舶の修理を担った長崎造船所(長崎造船局)の工場敷地や設備について、1887年に郵便汽船三菱会社に売却しています。

歳出を削減することが、官営事業払下げを進めた主な目的です。施設を手放すことで、国にかかる維持費などのコストを削減できます。

松方正義が活躍した時代の主な出来事

松方正義が活躍した時代に起きた主な出来事は、以下の通りです。

・明治14年の政変
・西南戦争
・日清戦争

各出来事の内容と、松方正義や松方財政との関係について解説します。

明治14年の政変

明治14年の政変とは、北海道開拓使官有物の払下げや国会開設などをめぐって起こった政変のことです。結果的に、払下げの中止が決まり、国会は10年後に開設することが約束されました。

また、明治14年の政変で当時筆頭参議であった大隈重信が罷免されて政府中枢から離れたことがきっかけで、松方正義は参議兼大蔵卿に就任します。

西南戦争

西南戦争とは、明治維新の功労者のひとりである西郷隆盛や鹿児島の不平士族たちが、1877年に明治政府に対して引き起こした反乱です。城山の戦いで西郷隆盛や幹部が戦死・自刃したことで、内戦は終結します。

大規模な戦いであったため、政府は大量の不換政府紙幣を発行して戦費を調達しなければなりませんでした。結果的にインフレーションを招いたことが、大蔵卿に就任した松方正義が松方財政を進めるきっかけとなります。

日清戦争

日清戦争とは、1894年に朝鮮をめぐって日本と清(中国)との間で勃発した戦争のことです。翌1895年に清が降伏して日本と下関条約を締結したことで、戦争は終結しました。

日清戦争は、松方財政の銀本位制・金本位制とも関係があります。

松方正義は、欧州の主要国を参考にして金本位制を理想としていましたが実現できず、銀本位制から導入しました。日本では、金よりも銀が蓄積されていたことが、金本位制を導入できなかった理由です。

その後、日清戦争で多額の賠償金を得たことで、賠償金を準備金として金本位制に移行できました。

松方正義と関係の深い歴史上の人物

渋沢栄一や大隈重信は、松方正義と深い関係があります。それぞれの功績や、松方正義との関係について確認していきましょう。

渋沢栄一

渋沢栄一は、第一国立銀行の総監役や頭取として日本の近代における金融システムの礎をつくった人物です。また、生涯でおよそ500社の企業の設立や運営に携わり、日本経済を発展させることに貢献しました。

銀行の設立に尽力したことが、松方正義と渋沢栄一の共通点です。松方正義が亡くなった際には、松方正義の知事時代の遺徳を記念して建立された碑に渋沢栄一が撰文を行っています。

大隈重信

大隈重信は、1898年に内閣総理大臣に就任し、日本で最初の政党内閣を成立させた政治家です。鉄道の建設に貢献したことや、東京専門学校(現・早稲田大学)を創設したことなどでも知られています。

大隈重信は、西南戦争により引き起こしたインフレーションに対応すべく、1880年に外債を募集して紙幣を償却する建議を提出しました。しかし、松方正義らの反対で建議は拒否されています。その後、松方正義が大蔵卿に就任し、松方財政が進められていきました。

なお、1896年に松方正義が第2次松方内閣を組閣した際は、大隈重信を外務大臣として迎えるなど、両者が連携していた時代もあります。

松方正義は緊縮財政を実施した人物

松方正義は、長年にわたって大蔵大臣を務めた人物です。西南戦争後にインフレーションが進んだ状況で、松方財政と呼ばれる政策を打ち出しています。

松方財政の特徴は、増税や緊縮財政で紙幣の数を減少させようとしたことや、銀本位制の導入を進めたことなどです。結果的にデフレーションを招くことにもなりました。

今後、インフレーションやデフレーションの話題をニュースで見かけた際は、松方財政との関係も考えてみてください。

参考:首相官邸「第4代 松方正義 内閣総理大臣」
参考:首相官邸「第6代 松方正義 内閣総理大臣」
参考:大分県日田市「「日田養育館記念碑」説明板設置のお知らせ」
参考:日本銀行「日本銀行創立の経緯について教えてください。」
参考:日本銀行金融研究所 貨幣博物館「日本貨幣史」
参考:公益財団法人 渋沢栄一記念財団「渋沢栄一ゆかりの地 知事・松方正義の遺徳を記念」

ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に活かすためにFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。

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