元ゴールドマン・サックスの投資家・田中渓さんに聞く「金融リテラシーの重要性」後編
堅実な資産運用を行うためのキーワード「ファンダメンタル」「分散投資」
日に日に物価が上がる一方で、賃金はなかなか上がらないいま、給料や預貯金は相対的に目減りしていく状態にあるといえる。この状況を乗り越え、将来に備えていくためには、金融リテラシーを身に付けることが必須となるだろう。
前編では、『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)の著者で、元ゴールドマン・サックス投資部門日本共同統括の田中渓さんに、金融リテラシーを高める意義を聞いた。
後編となる今回は、より具体的な投資手法や注意点について伺っていく。
まずは「3つの収入」を増やす方法を考える
物価の上昇率と賃金の上昇率が比例していない状況で、ただ指をくわえているわけにはいかない。どのようなことをして、備えていけばいいだろうか。
「収入は大きく3つあります。『労働による収入』『事業による収入』『投資による収入』です。このなかのどれかひとつではなく、すべてを同時に増やしていくことをおすすめしています」(田中さん・以下同)
「労働による収入」とは、企業や団体に勤めて得る給料を指す。「事業による収入」は、自ら立ち上げたビジネスを通じて得る収入のこと。
「勤務先で副業の許可が下りる場合に限られてしまいますが、起業して収入を増やすという選択肢を検討してほしいと思います。スタートアップのような大規模なものだけでなく、個人で始めるスモールビジネスも起業といえます。公務員をはじめとした副業を禁止されている人は、『投資による収入』を増やすことを考えましょう」
「投資による収入」は株式投資に限らず、不動産投資なども含まれる。不労所得と呼ばれるものだ。
「投資というと、株式や不動産の購入価格と売却価格の差額で得られる利益(キャピタルゲイン)をイメージすると思いますが、収入という意味で考えると、定期的に入ってくる配当金や利子、家賃収入などの利益(インカムゲイン)を取っていくことを目指したいところです。定期的な収入が増えると、将来に対する不安もある程度解消されるでしょう」
そのうえで重要になるのが、社会の経済状況や各企業の業績、財務状況といった経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を分析して、投資判断を行う手法「ファンダメンタル」。
「主に株式投資においては、『ファンダメンタル』と『テクニカル』という手法があります。『テクニカル』は、過去の値動きの傾向や投資家心理をもとに今後の株価などを予想する手法です。ただし、リスクが高いので、『テクニカル』で判断していきたいと考える人も『ファンダメンタル』を学んでほしいと思っています」
「テクニカル」だけで投資を行おうとすると、特定の企業については詳しくなるかもしれないが、社会全体の状況やその企業を取り巻く環境に関する情報をつかみきれない可能性があるという。
「サーフィンにたとえると、『テクニカル』で投資をするのはサーフィンのテクニックが上手くなることと近いといえます。しかし、津波が来ていることに気付かないため、波にのまれてしまう危険性があるのです。『ファンダメンタル』で全体の状況を把握できていれば、津波が近付いているから海に出ないようにしようという判断ができます。投資においては、国の政策に関する資料や企業の財務諸表などを読み、世の中の動きを把握することが重要だといえます」



