元ゴールドマン・サックスの投資家・田中渓さんに聞く「金融リテラシーの重要性」後編

堅実な資産運用を行うためのキーワード「ファンダメンタル」「分散投資」

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「日本市場」は世界から注目されているが、注意点も…

田中さんの著書『億までの人 億からの人』には、「富裕層が日本のマーケットに注目している」と書かれている。現在も、日本の市場や銘柄は注目だといえるのだろうか。

「書籍を執筆した2024年時点はとにかく円が安く、日銀が利上げする前で金利も低かったので、外国人投資家からすると日本のマーケットは狩場ともいえる環境でした。日本株は安いし、円もほとんど利子が付かない状態で借りられたので、借りられるだけ借りてどんどん日本株を買っていこうという流れがあったんです」

それから1年が経ち、日経平均株価は5万円を超え、「日本株は安い」という印象は変わってきているかもしれない。それでも、引き続き注目されているという。

「日本には、いまだ構造的な問題があります。『PBR1倍割れ』です。株価が1株あたりの純資産額を下回っている会社のことで、2024年時点で上場企業の半分ほど、現時点でも4割程度はPBR1倍割れの状態にあります。この状況に対して、東証が『資本コストや株価を意識した経営を行いましょう』と働きかけ、企業も改善に動き出しています。この流れから、日本のマーケットや企業にはまだ伸びしろがあり、株価が上がる余地があると見なされているため、注目されているといえます」

日本の投資家にとっても日本株は要注目であり、投資対象として見ていくべきものになるだろう。

「ただし、諸手を挙げておすすめできるかというと、そうともいえません。というのも、引き続き円安は進んでいるため、日本円の価値はまずい状態になっていると考えられるのです。日本のインデックス型投資信託などに投資してインフレ対策をしつつ、海外の資産にも分散させていくことが大事だと思います」

海外資産への分散とは、外貨預金や外国株への投資などが考えられるだろう。海外の指数に連動するインデックス型の投資信託やETFに投資する方法もある。

「銀行預金にお金を置いておいたままの状態は、日本円に100%ベットしている状態といえます。日本は自給率が極めて低く、輸入に頼っている貿易赤字国なので、円の価値の変化は意識して見ていく必要がありますし、海外資産への分散投資も検討したほうがいいでしょう」

少しドキッとする話だが、現実を受け止めていくタイミングにあるといえるだろう。一人ひとりが金融や社会情勢に関心を持つことで、プラスの方向への変化が現れる可能性もある。

「十数年前まで『投資をやっている』と言うと『ギャンブルやってるんだ』『ろくな稼ぎ方じゃない』という見られ方をしましたが、いまは『僕もやってる』『やりたいんだけどわからないから、教えて』と言われるようになってきています。このように意識が変化していくと、より多くの人がマーケットに注目するようになるので、衆人環視のもとで市場や取引がより健全なものとなり、日本のマーケットや企業もよりよい方向に進んでいくかもしれません。一般投資家の変化が、いい流れを起こしているといえます」

投資家一人ひとりの行動が、ひとつの企業だけでなく社会全体に影響を与えていく可能性がある。社会の変化を想像しながら投資先を選んでいくことで、視野が広がり、投資に対する理解も深まっていくだろう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
田中 渓
元ゴールドマン・サックス投資部門日本共同統括で、現在は数千億円を運用する投資会社の不動産投資責任者。上智大学理工学部物理学科在学中に学科首席として表彰を受け、米国ロサンゼルスで毎年開催されるビジネスセミナー「CVS Leadership Institute」に参加。2007年にゴールドマン・サックス証券に新卒入社し、2024年に同社を退社。在籍17年間で20カ国以上の300人を超える資産家と出会い、富裕層の哲学や考え方、習慣を学んだ。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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