プロが語る!資産形成のすゝめ

任天堂経営陣のリスクテイクの背景

Switch2は何故これほどの大ヒットになったのか? 

提供元:東洋証券

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<大ヒットしたSwitch2>

任天堂のSwitch2が大人気になっている。6月5日の発売からわずか4カ月足らずで、1036万台もの販売(着荷)台数となった。歴代のゲーム機でも非常に速いペースとなっている。

この数字だけでは分かりにくいので、グラフ(1)を用意した。四半期で見ると、Switch2が近年の主要ハードを圧倒していることが分かる。これまで過去最速だったのはソニーグループのPS5が持つ発売から5カ月弱で780万台である。しかしPS5は11月という年末商戦期に発売されたのと違い、Switch2は発売時期が不需要期の6月なのである。それでもSwitch2はPS5を250万台以上も上回っているのである。

ゲームの技術者は、コンピュータグラフィックチップにできるだけ最新のものを使いたくなる。しかし最新のチップは、最先端の製造プロセスを使うことになるが、スマートフォンやタブレット、AIチップに加え、量の多いパソコンやサーバー用、さらには自動車用までひしめき合っており、大量に用意するのは容易でない。事実PS5は初動で半導体不足に直面し、大事な2年目の販売台数を伸ばすことができなかった。

半導体の製造には半年程度はかかるが、設計段階から考えると実際は数年前から準備しないといけない。そして半導体の価格はインフレの影響もあり、高くなっている。今回Switch2も、Switchの29,980円から49,980円に引き上げられた。これは製造コストがSwitchよりも、高くなっているためなのである。

さらに製造コストが高いということは、それだけ在庫を用意するにはお金がかかることを示している。仮にSwitch2の製造コストを400ドル、対ドルレート150円として、初動600万台+翌四半期の在庫分400万台、計1000万台を製造するとなると6000億円は必要になる。2四半期で販売した台数は1036万台だったので、任天堂は実際に6000億円以上を投じたと東洋証券では見ている。任天堂の2025年3月期の売上高が1.16兆円だったことを考えると、この在庫投資は相当リスクを取ったと言っていいだろう。

このリスクを取った成果は早くもでている。最初のグラフでも示したように、Switch2はロケットスタートなり、適切なマイナーチェンジを今後実施するのが前提だがライフサイクル全体では2億台近くにはなりそうである。多くのメディアではSwitch2は高いから売れないであろうと懐疑的であったが、筆者はこの価格でも相当売れるだろうと見ていた。

<リスクを取った任天堂>

それにしても、任天堂の経営陣はよくこれほどのリスクをよく取ったものである。経営とは因果性のあるものにヒト、モノ、カネを投じることと筆者は定義しているのだが、最初に沢山売れないと成果が出ない、と分かっていても売れるかどうか分からないことが多いゲーム機で実行するのは相当勇気が要る行為である。

心理学や行動経済学でも明らかになっているが、人間は損失に敏感である。大きな損失が出る可能性がある在庫投資をするのであれば、売れたからやればいいとなるのが一般的だ。このような決断ができた任天堂経営陣は、素直に凄いと思うのである。

最後にSwitch2が売れた理由について考えておきたい。Switch2が発表された2025年1月16日の直後には、Switch以上のヒットになるだろう、と筆者は予測していた。これは1.優れたデザイン性(厚み)、2.遊び方に変化が無く損失を感じさせなかったことがあると考えている。

1.は意外に思う方が大半だと思うのだが、グラフ2から見ても価格やソフトの影響が無い、とまでは言わないがかなり限定的である。そうでないと価格が一番高くなる初動で方向性が決まってしまうことの説明が付かない。自動車販売でもよくいわれることだが、見た目でしっくり来ることが大事であり、電子機器の場合は薄いほうがよりよく見えるということである。Switch2はこの点、Switchと厚みに変わりがなかったことで第1印象はとても良かったのである。

さらに2.である。さきほども述べたように、人間は損失に敏感である。Switch2はSwitchと同じ、テレビモード、携帯モード、テーブルモードの3形態に差が無く、デメリットが無い。しかも4K対応や120fps、ゲームスロット搭載による互換性があるなど得することも多く、ユーザーからすると損をしたと感じさせなかったのである。

こう考えると、損失と感じさせないことが製品・サービスとしては大事だと思う。そしてSwitch2を持っていないことが損だと消費者は考え、喜んで買うことになると見ている。SNSでVTuberや有名人が当選の発表で一喜一憂していた姿を見ると、Switch2を持っていないことが損なので買いたいとなったのだろう。だとするとゲーム機はデザインも、遊び方も成熟しており、大きな変更はもはやできないと思うのである。

是非、実物を含めた投資の参考にして頂きたいものである。

(提供元:東洋証券)

著者/ライター
安田 秀樹
東洋証券投資情報部参事、国際公認投資アナリスト 20年以上ゲームや電子部品分野中心に幅広くリサーチ業務に従事。独自の視点の分析を行っている

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