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人類の生得的な傾向「他者に分け与える喜び」が活力に

活動するほど幸せになる? 認知科学で解き明かす「人が推し活をする理由」

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推し活によってもたらされる3つの幸せ

プロジェクションをもとに推し活を行う意味を聞いたが、自身も推し活を楽しんでいる久保教授は「推し活を行うことによるメリットもある」と話す。

「推し活による幸せは3つあると考えています。1つ目は自分の世界が広がること。推し活を通じて共通の推しを持つ友人ができたり、K-POP好きな人が韓国語を習い始めたりするなど、推しが新たな一歩を踏み出すきっかけとなってくれることがあります」

2つ目は利他の幸福だという。ほかの生物に比べて大きな集団を形成する人類は、自分が持っている資源を他者と分け合うことで集団を維持し、繁栄してきたと考えられる。資源を独り占めする人は集団から排除されて子孫を残せないことから、現在の人類は他者と分かち合うことに幸福を見出す傾向があるといえるそう。

「推し活は見返りがない行動であるとともに、対象を応援する、育成する、世話することと結び付く感覚を得られるため、人間本来の生得的な利他の幸福を求める部分が満たされるのではないかと思います」

そして、3つ目はサードプレイスになること。実生活のなかだけで生きているとどうしても疲弊してしまう瞬間があるが、非現実の推し活によってひとときだけでも現実から離れ、リフレッシュできる。

「いまや隙間時間で推しに関する動画を見るなど、手間や時間をかけずに現実と非現実を行き来できるようになっているので、非常に手軽にアクセスしやすいサードプレイスがある状態になっていると思います。また、推し活はアクセスしたくなければしなくてもいいものなので、相手に何かを求められるようなしがらみがないという点も幸福を感じやすい理由かもしれません」

個性や多様性を重んじる社会ならではの文化

いまでいう推し活は以前からあったものだが、現在のように全世代的に広がり一般化しているのには、社会の変化が関係しているとのこと。

「推し活の広がりにも、3つのポイントがあると考えられます。1つ目は情報技術の進化。インターネットやSNSが発達したことでファンコミュニティにアクセスしやすくなり、推し活を実践しやすくなっています」

推される側もリアルな現場だけでなくインターネット上でも活動できるようになったため、広範囲に情報を発信しやすくなったといえる。

「2つ目は大衆意識の変化です。かつて『オタク』という言葉にはネガティブな印象があったと思いますが、『推し』という言葉が一般に浸透したことで何かを熱心に応援することに対するイメージが変わり、推し活のハードルも低くなったと感じます。『私は○○オタクです』『○○を推してます』とポジティブに発信されるようになり、推し活をする人の人口構成もマイノリティからマジョリティに変わってきているため、公言しやすくなっているのだと思います」

3つ目は、個性や多様性を重視する社会へと変化してきているから。

「ひと昔前は『アイドルやアニメ、漫画は子どものもの』という社会的な抑圧のようなものがありましたが、いまは『好きなものは大人になっても好きでいい』という社会に変化しつつありますよね。『好き』を長く持ち続け、それを発信できる環境も整い、そこに参入する人も増えてきたため、推し活が活発化するという循環ができているのではないでしょうか」

ビジネスに推し活を取り入れる際のポイントは「余白」

一般化してきている推し活は、ビジネスにおいてのキーワードにもなっている。

「消費が冷え込んでいる現代において、推し活市場は非常に大きいといわれているので、企業がそこに注目するのも当然だといえます。推しに関するグッズなどの物理的な消費に関しては、既に企業も心を砕いていると思いますが、もうひとつ重視されているのは『体験消費』です。コンサートや観戦だけでなく、アニメやアイドルとコラボしたカフェやCD特典の握手会などが挙げられます。ただし、『体験消費』の難しいところは、提供しすぎるとファンが疲弊してしまう点です。運営側もファンも互いにハッピーになれる落としどころを、企業側は考えていかなければいけないと感じています」

ビジネスに推し活を取り込む際に、企業が大切にするべき点がもうひとつあるそう。

「持続可能な推し活を実現するには、ファンに埋めてもらうための“余白”が重要だと考えています。企業側が1から10まで全部つくり込むのではなく、1から3ぐらいまで用意して、あとはファンが自由に10までつくり込めるような、クリエイティブなアイテムや場の提供がポイントになると思います」

例えば、コラボカフェなどでは、アクリルスタンドやぬいぐるみを置いて撮影できるフォトスポットが用意されていることがある。これも一種の“余白”で、ファンによって配置するキャラクターや撮影する画角が変わり、自分だけの作品となる。その写真をSNSなどで発信すると、ファン同士の「いいね」や共感が促進され、さらに推し活が盛り上がるのだ。

「“余白”でもっとも汎用性が高いのは『色』や『数字』。推しのメンバーカラーや誕生日などを当てはめやすいからです。以前、ファンの投稿をきっかけに象印マホービンが水筒のカラーバリエーションを増やしたことがありましたが、自分の推しのメンバーカラーが揃っていると、その商品を選ぶ決め手になります。色に推しを重ね合わせることこそプロジェクションですし、“余白”はさまざまな部分で生み出すことができます」

人に幸福感を与える推し活は、ブームで終わらずに多くの人の生活の一部になっていくだろう。社会を変えるキーワードと捉え、注目していくべきものといえそうだ。

(取材・文/有竹亮介)

お話を伺った方
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
著者/ライター
久保(川合)南海子
愛知淑徳大学心理学部教授。専門は実験心理学、生涯発達心理学、認知科学。日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、京都大学霊長類研究所研究員、京都大学こころの未来研究センター助教などを経て、現職。著書に『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』、『イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇』、『女性研究者とワークライフバランス キャリアを積むこと、家族を持つこと』など。

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