企業が着目すべきは、生活者の“属性”ではなく“好き”になりつつある
博報堂の新プロジェクト「偏愛会議(TM)」が探る“推し活×マーケティング”の可能性
マーケティングの起点が「年齢・性別」から「好き」に変化
十河さんの話にも出てきたように、推し活を含む生活者の“好き”を捉えることが、これからのマーケティングにおいて重要になってくるという。
「推し活を行っている人の“好き”は、生活者がどのような人なのかを知るうえで絶対的に欠かせないインサイト(消費者行動の背景にある心理)になっているといえます。企業の製品やサービス、ブランドの情報を届けるためのコミュニケーション戦略を考えるうえでも大切な要素になるでしょう」(瀧﨑さん)
“好き”を取り入れる考え方は、従来のマーケティングとは異なる発想で取り組む必要があるとのこと。そのキーワードとなるのが「消齢化(しょうれいか)」。
「『消齢化』は博報堂生活総合研究所が提唱した概念で、生活者の意識や好み、価値観などに関して、年齢による違いが小さくなってきている現象を指します」(瀧﨑さん)
「かつてマーケティングの世界では、『F1層(20~34歳の女性)』『F2層(35~49歳の女性)』といった年齢や性別で区切って戦略を立てることが一般的でした。しかし、“好き”もライフスタイルも多様化している現代では、年齢・性別が同じ人でも生活の送り方や必要としているものがまったく違うんですよね。そうなると、属性で区切った訴求が届かない人も多くなっていきます」(十河さん)
特定のアイドルが好きな人であれば、そのアイドルが情報や写真、動画をアップしているSNSと同じSNSのアカウントを持っているだろう。つまり、20代であっても60代であっても、同じアイドルが好きであれば同じSNSを利用している可能性が高い。逆に、同じ20代であっても好きな人や物が違えば、メインで利用しているSNSやコミュニケーションツールは異なる。打ち出す方向は年代ではなく、“好き”によって変わるというわけだ。
企業がまず行うべきは「詳しい人を頼る」
ただし、“好き”の対象は無限に存在する。「偏愛会議(TM)」に所属している研究員のなかにも、特定のアイドルグループやキャラクターが好きな人もいれば、「路線バス」「赤べこグッズ」「ロケ地巡り」が好きな人もいる。どの層に向けてどのように情報を発信するか、判断するのは難しいだろう。
「私たちも推し活をする側ですが、自分と異なる界隈のことは全然わかりません。話題になっているものについて調べようと思っても、スピードが速すぎて追いつけないところもあります。そのため、情報を発信する側の企業が取れる手段は、『その界隈に詳しい人を頼る』というシンプルなものになると思います。無理に飛び込んで目線を合わせるというよりは、コミュニティを形成して仲間をつくっていくことが大事なのかなと」(瀧﨑さん)
その第一歩をサポートする組織として、「偏愛会議(TM)」が立ち上げられたという経緯もあるそう。
「その界隈に所属している人にしかわからないことがあるという点が、推し活の面白さであり難しさでもあり、推し活をしている当事者ならではの意見や視点を持ち寄って研究するのが『偏愛会議(TM)』です。このところ、企業の方々のご相談内容が変わってきた気がします。以前は『自社のブランドのファンと話したい』という直接的なものだったのですが、最近は『自社ブランドの周辺のコンテンツが好きな層ってどういう人なんだろう』など、“好き”を起点に生活者像を知りたいという要望が増しています」(瀧﨑さん)
「推し活が、新たなユーザーとつながるためのターゲットのひとつになってきているのだと思います。今後もマーケティングの目線で推し活に着目する企業は増えていくでしょう。特定のコンテンツをビジネスに掛け合わせる行為は、炎上や反発のリスクがないとはいえません。ただ、そのコンテンツを推している方々のことを知り、きちんと配慮して対応すると喜んでくれる方も多く、企業とのつながりを強く感じてもらえるチャンスになるのではないかと感じています」(十河さん)






