世界共通語「ESG/SDGs」

スチュワードシップ担当者からみた日本企業のネイチャーポジティブへの貢献

不二製油グループにみるトレーサビリティ向上の取り組み

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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はじめに

世界自然保護基金(WWF)は「生きている地球レポート2024」にて生物種の多様性を数値化した「生きている地球指数(LPI)」が1970年から2020年の50年間で73%減となったことを示し、生物多様性の減少の深刻度を訴えています。その5大原因の一つとして農地開発で森林等が伐採されるといった土地利用改変(森林破壊・土地転換)を指摘し、2001年から2015年の15年間で農林業を原因とする森林破壊(1.23億ヘクタール)のうち過半が牛肉、パーム油、大豆、カカオ、天然ゴム、コーヒーといったコモディティに起因すると分析しています。これら森林減少の原因となるコモディティは森林リスクコモディティと呼ばれています。

森林には陸上の生物種の8割が生息しているため、森林伐採の生物多様性に与える影響は重大です。森林リスクコモディティの販売や加工を行う企業は自らの操業による森林伐採だけでなくバリューチェーン上の森林伐採回避への配慮も求められます。このため、製品の適切性を担保するために原料の調達・生産から消費までの過程を追跡・管理するトレーサビリティが注目されつつあります。

森林リスクコモディティを扱う企業のトレーサビリティ強化の取り組み

ここでは森林伐採への影響の大きい森林リスクコモディティであるパーム油に焦点を当て、トレーサビリティに関する日本企業の取り組みについて解説します。パーム油では森林保全の証明として、持続可能なパーム油の生産と利用を促進することを目的に設立された国際NGOであるRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)が推進している認証制度がありますが、依然、認証制度を利用しない小規模農家による生産も相当量存在します。

近年は、認証制度を取得しないサプライチェーン上の小規模農家等による違法伐採が森林破壊の主要因となったことを背景に、パーム油調達企業によるトレーサビリティの確認が世界的に求められるようになりました。しかしながら、「森林破壊ゼロ」方針を有する企業は多い半面、トレーサビリティの確認まで実施する企業は少ないのが現状です。日本企業でこうした取り組みに積極的な企業として、不二製油グループの取り組みを紹介します。

不二製油グループは、2016年3月に同社グループのサプライチェーンにおける全てのパーム油生産における「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ(NDPE)」を掲げた「責任あるパーム油調達方針」を策定し、以降、同方針に基づき、責任ある方法で生産されたパーム油の調達を拡大しています。

同社は主にマレーシアとインドネシア産のパーム油を調達し、製品の主原料の一つとして使用しています。一方、マレーシアやインドネシアにおいては熱帯雨林の違法伐採が社会問題となっている中、パーム油は農園開発に起因する森林伐採や、サプライチェーン上の農園などにおける強制労働・児童労働などの人権侵害が世界的に懸念されている原料でもあります。

このような状況を踏まえ、同社は、原料として利用するパーム油について、衛星画像を活用した森林破壊の監視と対応、人権保護のための労働環境改善プログラム、ステークホルダーからの苦情・相談・通報を受け付け、対話を通じて解決・是正する苦情処理(グリーバンス)メカニズムの構築など、トレーサビリティの強化を通じてさまざまなサプライチェーン上の問題の改善に取り組んでいます。

不二製油グループのサステナビリティレポートにも示されていますように、同調達方針は、自社グループ企業だけでなく、直接サプライヤー22社も含めたパーム油のサプライチェーン全体に適用されています(図表1)。「お客様や社会の困りごとに真摯に向き合う姿勢はまさに当社のDNAであり、その解決への貢献こそが持続的な収益の源泉と考えています」というCEOメッセージからもサステナブル調達実現の真摯さが伝わってきます。

同社グループではパーム油サプライチェーンのトレーサビリティを半年に1度収集・検証しています。2024年12月時点で、搾油工場までのトレーサビリティについては100%、農園までのトレーサビリティについては95%を達成しています。

農園は非常に広大であり目視による監視だけでは不十分であるため、同社グループでは2020年度から衛星通信会社と連携し、衛星技術を活用してパーム油のサプライチェーンにおける森林破壊リスクの特定・モニタリング・検証も実施しています。このようなトレーサビリティの強化を通じて得られた情報を、四半期に1回の調査結果を基に更新しつつ、サプライヤーやNGO、地域住民といった幅広いステークホルダーとの対話に活用しています。

同社グループのトレーサビリティ強化の取り組みで特徴的な活動の一つが、サプライチェーン変革プログラムです(図表2)。労働環境改善プログラム(Labor Transformation Program: LTP)と呼ばれるそのプログラムは、強制労働や児童労働等のリスクを低減させることを目的に2017年からマレーシアの全サプライヤーに対し導入されています。本プログラムは通常現地の工場や農園の管理者と対面式で個別に実施されています。2025年3月時点で、サプライヤーの83%に本プログラムを適用しています。

LTPの導入により、サプライヤーの労務管理が大幅に改善し、課題であった労働問題にも対処できるようになったことから、同社は、近い将来、サプライチェーン全体で LTP を100% 導入し、搾取をゼロにするという野心的な目標の実現に向けて挑戦するとしています。トレーサビリティ強化の取り組みは、森林伐採に加え他の関連するトピックスの解決にもつながっており、好事例と評価しています。

さいごに:三井住友トラスト・アセットマネジメントの活動

このように、トレーサビリティの強化は世界的に緒に就いたばかりですが、高まりつつある森林の違法伐採の抑制を求める声を反映し、取り組みを始める企業が増えつつあります。トレーサビリティの強化を含めサステナブル調達の巧拙が近い将来、企業の競争力や企業価値に影響を与える要因となる可能性があり、注目に値すると考えています。

私たち三井住友トラスト・アセットマネジメントは日本版スチュワードシップ・コードに賛同する「責任ある機関投資家」として、また2006年に国連責任投資原則(PRI)が発足した時からの署名機関として、投資先企業とエンゲージメントを行っており、投資先企業にESG課題の解決を促すことによって企業自身、ひいては社会全体の持続的成長、サステナビリティの実現を目指しています。2025年10月には自然資本開示の情報開示フレームワークであるTNFDのEarly Adopterとして、気候変動・自然資本レポートを発表しました。分析を通じて、当社のポートフォリオは森林等の自然資本に大きく依存していることが示されました。

このような背景もあり、当社は「自然資本」を重要なESG課題の一つとして、投資先企業との対話を進めています。また、個別企業エンゲージメントだけでなく、Nature Action 100(NA100)、IPDD(The Investors Policy Dialog on Deforestation)、FAIRR(Farm Animal Investment Risk and Return)といった国際イニシアチブにも参画し、海外企業や外国政府に対しても森林伐採防止等の実現について積極的に対話を実施しています。

投資先企業の真摯な取り組みを好事例として他の自然資本関連企業へも紹介し、世界のネイチャーポジティブに資する企業行動を促進するとともに、お客様からお預かりした資産の価値向上を図ってまいります。

※上記は特定の有価証券への投資を推奨しているものではありません。

(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

著者/ライター
阿由葉 真司
現在、三井住友トラスト・アセットマネジメントにて国内外の企業に対するESGの観点でエンゲージメントに携わる。シンクタンク、国際機関等で企業・政府向けに気候変動に係る金融や情報開示制度の調査や制度設計に携わる。東京大学博士(国際協力学)。東京大学大学院非常勤講師。
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