ドルペッグ制とは?採用国や固定相場・変動相場の違いもわかりやすく解説
ドルペッグ制とは、自国通貨の価値を米ドルに連動させて為替レートを一定の範囲に維持する為替制度です。対米ドルにおける自国通貨の急激な変動を抑えられる点が、採用するメリットとして挙げられます。
ドルペッグ制は、アジア通貨危機の背景として取り上げられることもある制度です。現在も中東諸国やカリブ海地域の一部の国・地域などで採用されているため、為替政策や世界経済への影響を掴むために理解しておきましょう。
本記事では、ドルペッグ制の仕組みや固定相場と変動相場の違いについて詳しく解説します。
ドルペッグ制とは
ドルペッグ制とは、自国の通貨と米ドルの為替レートを一定水準に維持する固定相場制のことです。ドルペッグ(dollar peg)の「peg」は、「杭」などを意味します。
為替制度には、ドルペッグ制などの固定相場制と変動相場制があります。日本では、戦後長らく1ドル=360円の固定相場制を採用していました。その後、1971年12月に締結されたスミソニアン合意で1ドル=308円に切り下げられ、1973年2月に変動相場制へ本格的に移行しています。
ドルペッグ制を採用している国
ドルペッグ制は、中東諸国やカリブ海地域の一部の国・地域などで採用されています。IMFが発行している「Annual Report on Exchange Arrangements and Exchange Restrictions 2023」によると、ドルペッグ制を採用している主な国(※)は以下の通りです。
・アルバ
・バハマ
・バーレーン
・バルバドス
・ベリーズ
・キュラソー
・シントマールテン
・エリトリア
・イラク
・ヨルダン
・オマーン
・カタール
・サウジアラビア
・トルクメニスタン
・アラブ首長国連邦(UAE)
※IMFの分類で、米ドルに固定する「Conventional peg(通常の固定相場制)」を採用している国・地域を掲載
固定相場制(ペッグ制)と変動相場制(フロート制)の違い
固定相場制(ペッグ制)と変動相場制(フロート制)の主な違いは、「自国通貨の需要・供給に応じて市場で自由に変動するか」です。それぞれの特徴について、詳しく解説します。
固定相場制(ペッグ制)とは
固定相場制(ペッグ制)とは、自国通貨と特定の通貨や通貨の組み合わせとの交換比率を一定水準に維持する制度です。米ドルに連動させるドルペッグ制のほか、ユーロに連動させるユーロペッグ制などがあります。
ドルペッグ制・ユーロペッグ制以外の固定相場制の種類は、主に以下の通りです。
・通貨バスケット制
・クローリングペッグ制
・カレンシーボード制
通貨バスケット制とは、自国通貨の価値を複数の外国通貨で構成される「通貨バスケット」に連動させる仕組みです。クローリングペッグ制とは、特定の外貨との交換比率を維持しながら、インフレ率などの経済状況に応じて段階的に調整する制度を指します。
カレンシーボード制とは、自国通貨の発行額に見合う外貨準備を保有し、その裏付けによって特定の外貨との交換比率を維持する制度です。
変動相場制(フロート制)とは
変動相場制(フロート制)とは、市場での通貨の売買によって為替レートが決まる制度です。
固定相場制では為替レートを一定水準に維持するのに対し、変動相場制では市場参加者の需給によって為替レートが変動します。ただし、急激な相場変動を抑えるために、変動相場制でも政府や中央銀行が為替市場に介入するケースはあります。
変動相場制は、「自由変動相場制」と「管理変動相場制」に分類可能です。自由変動相場制は為替レートの形成を市場に委ねる方式である一方、管理変動相場制は必要に応じて通貨当局が市場へ介入し、相場の安定を図ります。
ドルペッグ制以外のペッグ制を採用している国
ドルペッグ制以外のペッグ制を採用している国もいくつかあります。例えば、ユーロペッグを採用している国(※)は以下の通りです。
・カーボベルデ
・コモロ
・デンマーク
・サントメ・プリンシペ
【以下、WAEMU(西アフリカ経済通貨同盟)の加盟国】
・ベナン
・ブルキナファソ
・コートジボワール
・ギニアビサウ
・マリ
・ニジェール
・セネガル
・トーゴ
【以下、CEMAC(中部アフリカ経済通貨共同体)の加盟国】
・カメルーン
・中央アフリカ共和国
・チャド
・コンゴ共和国
・赤道ギニア
・ガボン
なお、インドルピーとの固定相場制を採用しているブータンやネパール、南アフリカランドとの固定相場制を採用しているナミビアのように、ドルペッグやユーロペッグ以外のペッグ制を採用している国もあります。
※IMFの分類で、ユーロに固定する「Conventional peg(通常の固定相場制)」を採用している国・地域を掲載
ドルペッグ制のメリット
ドルペッグ制を自国の為替制度として採用する主なメリットは、以下の通りです。
・自国通貨の急激な変動を抑えられる
・インフレ抑制につながる可能性がある
それぞれ解説します。
自国通貨の急激な変動を抑えられる
ドルペッグ制を採用することにより、米ドルに対する自国通貨の急激な変動を抑えられる点がメリットです。
ドルペッグ制では、自国通貨の価値を米ドルに連動させるため、為替レートが短期間で大きく変動しにくくなります。為替相場が安定すると、輸出入を行う事業者は将来の取引価格を見通しやすくなるでしょう。
また、為替変動による損失リスクが小さくなるため、海外投資家から投資先として選ばれやすくなる可能性もあります。
インフレ抑制につながる可能性がある
インフレ率が高い国では、物価上昇を抑えられる可能性がある点もドルペッグ制を採用するメリットです。
ドルペッグ制により自国の通貨価値が安定すると、輸入品の価格も大きな変動をしにくくなるため、インフレ圧力の軽減につながることがあります。インフレが抑制されれば、物価上昇による家計や企業への負担を和らげられるでしょう。
インフレやデフレ、スタグフレーションの関係について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
スタグフレーションとは?原因・対策や過去の事例についても詳しく解説
ドルペッグ制のデメリット
ドルペッグ制を採用するデメリットは、以下の通りです。
・米国の経済や政策に依存する
・金利政策・為替政策を実施しにくいことがある
・金融危機に対応しにくい
ここから、各デメリットについて解説します。
米国の経済や政策に依存する
ドルペッグ制では自国通貨を米ドルに連動させるため、米国の経済情勢や金融政策の影響を受けやすくなる点がデメリットです。
米国の景気後退や金融市場の混乱が発生した場合には、影響が自国経済へ波及する可能性があります。そのため、自国の経済状況だけでなく、米国の景気動向や金融政策の影響も考慮しなければなりません。
金利政策・為替政策を実施しにくいことがある
ドルペッグ制を採用することにより、自国独自の金利政策や為替政策を実施しにくくなる可能性がある点もデメリットです。
ドルペッグ制を維持するには、自国通貨と米ドルの為替レートを一定水準に保たなければなりません。そのため、自国の景気や物価の状況に応じて金利を調整したくても、自由に変更しにくくなる場合があります。
また、為替レートを維持するためには外貨準備が必要なため、米ドルなどの保有額が不足している場合には、為替介入による対応も難しくなるでしょう。
金融危機に対応しにくい
金融危機に対応しにくい点も、固定相場であるドルペッグ制のデメリットです。
ドルペッグ制では、基本的に為替レートを一定水準に維持することを優先します。そのため、金融危機や通貨危機が発生した際などに、柔軟な対応を取りにくい場合があるでしょう。
例えば、1997年のアジア通貨危機では、ドルペッグ制を採用していた国々が為替レートの維持に苦慮しています。
ドルペッグ制とアジア通貨危機の関係
アジア通貨危機とは、1997年にタイで発生したバーツ急落をきっかけとして、アジア各国に通貨安や金融不安が広がった出来事です。当時、ドルペッグ制を採用していた国が多く、各国で固定相場の維持が困難になっていました。
タイでは、ドルとの固定相場を守るために為替介入を続けていました。しかし、投機筋によるバーツ売りや外貨準備の減少が進み、1997年7月に固定相場制の維持を断念して変動相場制へ移行しています。その後、バーツは大幅に下落してアジア通貨危機の発端となりました。
また、韓国でもウォンに対する売り圧力が強まり、従来の為替制度を維持することが難しくなりました。その後IMFの支援を受けながら金融・為替制度の見直しを進め、1997年12月には変動相場制へ移行しています。
アジア通貨危機の詳細については、以下の記事を参考にしてください。
ドルペッグ制は自国通貨を米ドルと連動させる制度
ドルペッグ制とは、自国の通貨と米ドルの為替レートを一定水準に維持する固定相場制のことです。変動相場制では市場参加者の需給によって為替レートが変動するのに対し、ドルペッグ制などの固定相場制では為替レートを一定水準に保ちます。
ドルペッグ制のメリットは、自国通貨の急激な変動を抑えられる点や、インフレ抑制につながる可能性がある点です。一方で、米国の経済や金融政策の影響を受けやすいことや、金融危機への対応が難しくなることなどがデメリットとして挙げられます。
実際、1997年のアジア通貨危機では、ドルペッグ制の維持が困難となった国もありました。今後、為替相場に関するニュースを目にした際は、対象国がどのような為替制度を採用しているのかにも注目してみましょう。
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。


