歴史的な視点で経済や市場を学ぶ

作家同士の会話から感じた、異なる時代の共通点

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「投資家のバイブル」を読んで、門井さんが感じたこと

――本作を書いたことで、門井さんご自身の金融に対する興味は増しましたか。

門井 そうですね。この小説を書いてから、頭の片隅にずっと金融への興味があります。たとえばこの前も、『ウォール街のランダム・ウォーカー』(日本経済新聞出版)という書籍を読みました。バートン・マルキールの著作で、投資家には大変有名な本ですよね。とても面白かったです。

この本では、主に後半部分で具体的な投資方法が書かれています。おそらくその内容が評価されて、たくさんの方が手に取ってきたのでしょう。しかし私が面白いと感じたのは、そこではありません。むしろ本の前半部分にある、20世紀までの人類の金融史に触れているパートです。

私は歴史小説を書いている人間ですから、とても興味深く読み進めました。ただし1つだけ言わせてもらうと、この本で書かれている歴史はすべて「悪い例」として取り上げられています。チューリップ・バブルなどが一例ですね。

最初から一方の観点で書いているのは、冷静に歴史を考察する意味では望ましくありません。とはいえ、バートン・マルキールは歴史家ではないので、それは仕方ないでしょう(笑)。いずれにしても、金融の歴史は奥が深くて面白いと感じますね。

議論をしながら決めていった作品タイトル

――本作で印象的なのが、「天下の値段」というタイトルです。ストーリーに関わるので詳しくは言えませんが、今回の物語に必要不可欠な言葉がタイトルになっているのではないでしょうか。どのように決めたのですか。

門井 もともとこの小説は、文藝春秋のWebメディアで連載したのち、単行本として発刊されました。タイトルを決めたのは、連載の開始前です。編集担当者や、この作品の監修を依頼した高槻泰郎先生と会議をする中で、知恵を絞りながら考えていきました。

最終決定に至るまでには、いろいろなタイトル案があったんです。良いものもあれば、今思い出すと笑ってしまうようなものまで。「銭取物語」なんて候補も出ていましたね、一瞬で却下されましたが(笑)。そんな風にディスカッションする中で、「天下の値段」という言葉が出てきました。これは今回の作品タイトルに良いのでは、ということになりましたね。

それから連載が始まり、自分でもこのタイトルの意味を自問自答しながら、小説を書き進めていきました。今回のように、先にタイトルが決まる場合、執筆していく中で「このタイトルではなかったかもしれない」と思うことも正直あります。小説は生き物ですから。しかし、今回の作品はそれがありませんでした。物語の結末にもつながる、良い言葉を選べたと思います。

――最後に、これからこの本を読む方に向けてメッセージはありますか。

門井 金融やマーケットに興味がなくても、十分に楽しめる小説です。登場人物がどうなるのか、どのような運命を辿るのか、それだけでも面白い内容になっています。

その意味では、読者を選ばない小説です。金融に詳しくない方からも「楽しい」と言っていただけましたし、かたや東証の社長のような、金融のプロからも「面白い」という感想をいただきました(笑)。知識の有無に関わらず、みなさん楽しく読めるのではないでしょうか。ぜひ気軽に手に取っていただければうれしいです。

(取材・文/有井太郎、撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2026年8月現在の情報です

お話を伺った方
門井 慶喜
小説家

1971(昭和46)年群馬県生れ。同志社大学文学部卒業。2003(平成15)年、オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。2015年に『東京帝大叡古教授』、2016年に『家康、江戸を建てる』がそれぞれ直木賞候補となる。2016年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で日本推理作家協会賞、同年咲くやこの花賞を受賞。2018年に『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞。他の著書に『ゆけ、おりょう』『東京、はじまる』『地中の星』『信長、鉄砲で君臨する』『文豪、社長になる』など多数。
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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