ゴールド月次モニター8月
提供元:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント
- TAGS.
4,500~5,000ドル/オンスへの上昇再開を前にした調整局面か?
• 金スポット価格は3月から6月までの4カ月間でマイナスのリターンを記録したものの、7月には反発し(+1.0%)、年初から足元まで6.3%の下落となっています¹。米国の金ETFも7月には4,400万ドルの純資金流入となりました²。5~6月に64億ドルの償還があったことを受け、投機資金やレバレッジをかけたロングポジションが一掃された可能性が高いです³。押し目買いが現れ始めたため、金ファンドへの資金動向は安定化しつつあるようです。
• 金のスポット市場では、1オンス4,000ドル前後の緩やかな下値支持帯でもみ合いが続いています⁴。アウトライトおよびリスク調整後ベースでは、金は2カ月連続で銀をアウトパフォームしました⁵。第3四半期には、4,000ドル台前半のレンジで推移すると予想されますが、中国の現物需要や新興国中央銀行の需要がおう盛であることを踏まえ、年末または2027年初めにはレンジを突破し、4,500~5,000ドルに向けて上昇する可能性があります(図表1)。
• 実際、金オプション市場も取引水準が短期的にレンジ相場を維持する可能性を示唆しています。アット・ザ・マネー(ATM)オプションにおけるインプライド/実現ボラティリティのスプレッドは適正水準近辺にあり、実現ボラティリティが低下するにつれてボラティリティ・オブ・ボラティリティも低下しています。また、短期のスキュー(市場のリスク認識)は、依然としてプット・バイアスがかかっているものの、7月後半には大幅に割高となりました⁶。これは下落リスクに対するヘッジ需要が減少しつつあることを示唆しています。
• 米連邦準備制度理事会(FRB)は7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げを主張して反対票を投じたメンバーが3名いましたが、政策金利の据え置きを決定しました⁷。2026年後半は、金融政策の引き締めが引き続き、目に見えるリスクとなっています。ウォーシュFRB議長も事前に用意された発言の中で、インフレに対するタカ派的姿勢を明らかにしました⁸。それにもかかわらず、9月の利上げ確率は五分五分まで低下し、7月末にかけて米国債イールドカーブの短期ゾーンはブル・スティープ化し、それを受けて米ドルは数週間ぶりの安値水準まで下落しました⁹。
貴金属市場は、緩やかな引き締めバイアスをほぼ織り込んだと思われます。FRBが長期間にわたって政策金利を据え置く場合には、金にとって強気要因となる可能性があります。7月の雇用統計やインフレ指標は、FRBに関する市場の織り込みや政策の方向性に関して、金投資家が8月に注視すべき重要なデータポイントとなる可能性が高いと言えます。
図表1:中央銀行による金の純購入量(四半期ベース)
中央銀行: 第2四半期の購入量回復により、おう盛な需要トレンドの継続を確認
• 中央銀行の金需要は第2四半期に回復し、金の純購入量は前年同期比62%増の289トンと、第2四半期として過去最高を記録しました10。第1四半期の純購入量が244トンから57トンに下方修正されたことを受け、2026年上半期の公的部門による純購入量は足元で345トンとなり、これは購入量がわずか241トンにとどまった2022年以来、上半期としては最低の水準です11。金価格の下落、不透明な地政学的環境、および準備資産の継続的な分散化が第2四半期の急速な購入ペースを支えたとみられ、取引の大半は新興国の中央銀行によるものでした。
• 報告された第2四半期の金購入は幅広い国・地域に及んでいました。ポーランド国立銀行が51トンの購入でトップとなり、上半期の購入量は計82トン、金保有量は632トンに達し、目標水準の700トンに近づきました¹²。中国人民銀行は、四半期としては2023年第4四半期以降で最大となる33トンを追加購入した結果、上半期の購入量は40トン、報告された保有量は2,346トンに達しました¹³。購入を報告した他の中央銀行は、ウズベキスタン(+16トン)、カザフスタン(+15トン)、ヨルダン(+6トン)、チェコ共和国(+6トン)などです¹⁴。第1四半期の純購入量を押し下げた大規模な売却は、第2四半期には大幅に減少しました。第1四半期の最大の売り手だったトルコ中央銀行による金地金の売却も小規模にとどまりました¹⁵。第2四半期の最大の売り手はロシア中央銀行で、保有量を22トン減らしました¹⁶。
• 2026年上半期の公的部門による購入量は近年に比べて減少していますが、上半期の購入量が減少したからといって年間購入量も減少するとは限りません。2022年上半期の公的部門による純購入量は241トンとさらに低調でしたが、下半期の純購入量は大幅に加速し、通期では1,080トンに達しました¹⁷。2026年下半期に同程度の回復が見込まれるわけではありませんが、2026年の基本シナリオ予測を約700トンに上方修正しました¹⁸。これは2022~2024年の記録的なペースからは減速するものの、2026年は依然として公的部門の金需要がおう盛な年として歴史に刻まれることでしょう。総じて、中央銀行の需要が金価格を構造的に下支えすると引き続き予測されます。最新の外貨準備運用担当者向け調査も、公的ポートフォリオにおける金の戦略的な役割を改めて裏付けています¹⁹。
図表2:1つの財政の道筋を映す2つの価格指標:米国の連邦債務と金価格(1900~2056年)
米国の財政リスクが高まるなか、金の再評価は続く
• 30年物米国債の利回りは7月のFOMCの前後に数十年ぶりの高水準まで上昇し、月末には2007年以降で初めて5.2%を上回りました。ウォーシュFRB議長がフォワード・ガイダンスからの転換を図っていることに加え、こう着的なインフレ率と財政刺激策が相まって、タームプレミアム(長期債に対する上乗せ利回り)は上昇を続けています²⁰。米議会予算局(CBO)の2027年度予算見通しに関する6月のレビューでは、民間部門が保有する連邦債務は2026年度のGDP比100%から、2036年度までに同121%まで上昇すると予測されており²¹、1946年に記録された第二次世界大戦後の最高水準である106%を上回る見通しです²²。
金にとって示唆されることは、低利で発行された債券が満期を迎えると、それよりもはるかに高い利回りで借り換えが行われ、債務スパイラル・リスクが高まる可能性があります。政策の透明性が失われると、投資家はクレジット・リスクがなく、供給が限られている実物資産へと向かうため、金はこうした財政リスクに対するヘッジ手段として一段と重要になると思われます。
• 金利が上がれば、金価格が下がるという見方は、あまりにも単純かもしれません。CBOの2026年2月の予測によると、連邦債務の平均金利は2025年の3.4%から2056年までに4.2%へと上昇し、金利コストをGDP比6.9%まで押し上げると見込まれます。これは、過去半世紀にわたる純金利コストの平均値であるGDP比約2%の3倍を上回っています²³。財政の持続可能性に対する懸念を背景に金利が上昇すると、経済成長の加速のみによる金利上昇局面とは異なり、金利と金価格の関係はより複雑なものになる可能性があります。
2015年12月、世界金融危機(GFC)後で初となるFRBの利上げは、当時1オンス1,050ドル近辺で推移していた金価格に対して下押し圧力になると広く予想されていました。2年物米国債の利回りは当時1%を下回っていました²⁴。その10年後、状況は様変わりしています。金価格は4,000ドルを上回る一方、2年物米国債の利回りは4.2%近くで推移しています²⁵。金の金利感応度は構造的なものではなく条件次第とみられ、金利が上昇する「理由」にも幾らか左右されます。
• 金価格の上昇は、金利サイクルだけでなく、財政刺激策が強まった時期とも重なっています。金価格は、1971年のブレトンウッズ体制の終了時における1オンス35ドルという管理価格から、2026年の年初来平均価格である約4,600ドルへと上昇しています²⁶。これは、米国の債務が戦後のレバレッジ低下局面から構造的な拡大局面へと移行した同期間において、100倍を超える上昇を記録したことになります。
転換点は上記のチャートからも明らかです。民間等保有債務は、GFC直前の2007年にGDP比35%付近で底を打ち、それ以降は経済にストレスがかかる度に赤字財政で賄う支援策が講じられ、対GDP債務比率は上昇してきました。より構造的で大規模な財政環境は、投資家が国家のバランスシートによる資金調達と直接的な関連性が低い資産を求める中で、金に対する需要を下支えする可能性があります。
脚注
1. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
2. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
3. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
4. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
5. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
6. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
7. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
8. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
9. Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
10. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
11. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
12. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
13. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
14. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
15. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
16. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
17. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
18. Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 07/31/2026
19. Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
20. Source: Bloomberg Finance L.P., Federal Reserve & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
21. Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
22. Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
23. Source: Congressional Budget Office, “The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056” (Pub. No. 62044, February 25, 2026), Bloomberg Finance L.P., & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
24. Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
25. Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
26. Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
用語集
ブレトン・ウッズ体制:第二次世界大戦後の国際通貨体制(1944年~1971年)で、米ドルを1オンスあたり35ドルで金に、その他の通貨を米ドルに固定したものです。米国がドルの金兌換を停止した1971年に終了し、その後、金価格は自由変動制となりました。
中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
民間等保有債務:米議会予算局(CBO)が使用する連邦債務の指標であり、連邦政府以外の投資家が保有するすべての米国債を反映したものです。多くの場合、国内総生産(GDP)に対する比率として表されます。
米連邦公開市場委員会(FOMC):米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定機関であり、定期的に会合を開き、フェデラル・ファンド(FF)金利の目標レンジ、および米国の金利や金融情勢に影響を与えるその他の金融政策手段を決定します。
金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
国内総生産(GDP):一定期間内に国内で生み出されたすべての完成品およびサービスの総金額を指します。経済生産高の最も広範な指標として、また債務対GDPの比較における分母として一般的に用いられます。
タカ派的:通常、インフレ抑制を目的とする政策金利の引き上げや金融緩和の縮小など、金融引き締めを指向する中央銀行の姿勢やメッセージを表します。
インプライド・ボラティリティ・スキュー:満期が同じで権利行使価格が異なるオプション間で生じるインプライド・ボラティリティの差異を指します。プット・バイアス・スキューは、オプション市場が下落リスクへのヘッジ需要をより大きく織り込んでいることを示します。
純購入量:一定期間に中央銀行または中央銀行グループが購入した金の総量から売却量を差し引いたもので、通常はトン単位で測定されます。
公的部門:金の購入や外貨準備運用という文脈において、中央銀行やその他の政府系・国際通貨機関を指す用語であり、民間部門の市場参加者と区別されます。
中国人民銀行:中国の中央銀行で、金融政策、通貨管理、および金融システムの監督を担当しています。
実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
準備資産の分散:集中リスクや特定の準備通貨への依存度を低減するため、中央銀行が外貨準備を金などの複数の資産クラスや通貨に分散させる取り組みです。
タームプレミアム:投資家が一連の短期債券ではなく、長期債券を保有する際に要求する追加利回りのことで、時間の経過に伴って増大する金利リスクやインフレ・リスクを補償するものです。
トン:メートルトン(1,000キログラム)のことで、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)などが発行する業界レポートにおいて、中央銀行による純購入量など、金の需給量を測定するために使用される標準単位です。
米国の金ETF:通常、現物の金を保有することにより、金価格に連動するように設計された米国の上場投資信託(ETF)です。投資家が金を直接保有することなく、金価格の変動に対するエクスポージャーを投資家に提供します。
ボラティリティ・オブ・ボラティリティ:資産のインプライド・ボラティリティ自体が時間の経過とともにどれだけ変動するかを表す指標であり、オプション市場における織り込みやヘッジ需要の安定性に関する情報を提供します。
イールドカーブのスティープ化:短期債と長期債の利回り格差が拡大する現象です。「ブル・スティープ化」は、短期債利回りが長期債利回りよりも急速に低下する際に発生し、多くの場合、中央銀行の政策に対する期待の変化を反映しています。
(提供元:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント)
関連リンク





