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サイバーセキュリティは国策の成長産業へ

提供元:三菱UFJ eスマート証券

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サイバー攻撃の増加や高度化を背景に、企業のセキュリティ対策は一段と重要性を増しています。政府は2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」で、「デジタル・サイバーセキュリティ」を17の戦略分野の一つに位置付けました。あわせて策定した官民投資ロードマップでは、国内市場で海外製品への依存度が高い現状を課題に挙げ、国内の産業・技術基盤を強化する方針を示しています。サイバー攻撃への備えが不可欠になるなか、市場の拡大と政府の産業振興策を追い風に、関連企業の成長機会が広がりそうです。

高まるサイバー脅威、対策は待ったなし

国内では、サイバー攻撃の前段階とみられる不審なアクセスが急増しています。警察庁がインターネット上に設置したセンサーでは、2026年上半期に1日・1IPアドレス当たり1万3,687件を検知し、前年同期から50.7%増加しました(図表1)。また、データを人質に金銭を要求するランサムウェアの被害報告は123件と、半期として過去最多を記録。侵入経路はVPN機器が約5割を占め、社内と社外の境目を守る従来型の対策が突破されている実態が浮かびます。

こうした脅威を一段と深刻化させる要因として懸念されているのが、AI技術の悪用です。AIを利用すれば、システムの脆弱性の探索や攻撃手法の作成を効率化できるため、サイバー攻撃の自動化、高速化、大規模化が進むおそれがあります。最近では不正アクセスによる情報漏洩被害も相次ぐなど、企業活動への影響が広がっており、対策強化は待ったなしの状況です。

新法施行で官民の防御体制を強化

脅威の高まりを受け、政府も対策を強化しています。2025年5月に成立した「サイバー対処能力強化法」と同整備法は、2026年10月1日に一部が施行されました。両法は「能動的サイバー防御」の導入を柱としており、攻撃を受けてから対処するだけでなく、官民の情報共有や攻撃の兆候の把握を通じ、被害を未然に防ぐ体制の構築を目指しています。

具体的には、電力や通信など15業種で指定された258の基幹インフラ事業者のうち、重要システム(特定重要電子計算機)を使う事業者に、その導入に関する届け出や侵害事象の報告を義務付けました。また、所定の手続きを経て警察が攻撃元のサーバーなどにアクセスし、無害化する仕組みも導入。特に高度で組織的、計画的な攻撃に対しては、自衛隊が警察と連携して対処します。

政府のサイバーセキュリティ関連予算も拡充が進んでいます(図表2)。防衛省向けの支出が大きな割合を占めるため、予算の増加がそのまま民間企業の受注拡大につながるわけではありませんが、官民の防御体制の強化は、関連製品やサービスの需要を下支えする要因となりそうです。

拡大する国内市場、海外依存が課題に

企業の対策需要が高まるなか、国内の情報セキュリティ市場は拡大を続けています。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が2025年7月に公表した「国内情報セキュリティ市場2024年度調査報告」によると、製品とサービスを合わせた市場規模は2024年度に前年度比8.0%増の1兆7,995億円(推定見込値)、2025年度には同8.1%増の1兆9,458億円に達すると予測されています。

ただ、市場の成長が必ずしも国産製品の普及につながっているわけではありません。総務省の2026年版情報通信白書によると、国内の情報セキュリティ製品市場では外資系企業が約6割のシェアを占めています。背景には、製品の販売を担うシステムインテグレーター(SIer)が導入実績を重視する商慣習があり、実績の豊富な海外製品が選ばれやすい一方、国産製品は販売先を確保しにくい構造があります。販売実績が乏しいために新規導入が進まず、事業規模を拡大しにくいという悪循環が、国内メーカーの成長を妨げています。

海外製品への依存度の高さは、産業競争力だけでなく、経済安全保障の観点からも課題です。国家を背景とするサイバー攻撃などの脅威が増すなか、国内で得られる攻撃情報を収集・分析し、日本特有の脅威にも対応できる技術や製品を確保することが重要になっています。

国産製品の育成を後押し、2035年に売上高3兆円超へ

こうした課題を踏まえ、政府は国内セキュリティ産業の育成を本格化させます。日本成長戦略と官民投資ロードマップでは、国内サイバーセキュリティ企業の売上高を約0.9兆円から2035年までに3兆円超へ拡大する目標を掲げました。その実現に向け、この分野への官民投資を2035年度までに約1兆円と想定するほか、取引先企業のセキュリティ対策水準を評価する「SCS評価制度」の活用企業を2030年までに1万社超とする目標も掲げ、大企業の取引先となる中小企業にも対策投資を促す方針です。

あわせて、国内企業の市場参入や技術開発を後押しする具体策を示しています。その柱となるのが、政府機関などによる有望な国産製品・サービスの率先導入です。既に広く使われている海外製品を置き換えるのではなく、それを補う「第二線」として国産製品を新たに採用する形を想定しており、国が先行して採用実績をつくることで、民間企業にも販路を広げやすくする狙いがあります。また、AIを活用した先進的なセキュリティ技術の研究開発やスタートアップへの支援を進めるほか、日本が強みを持つ工場の制御システム向けセキュリティの普及、海外市場への展開も促します。

防御の多層化で、専門分野やサービスにも商機

近年の企業のサイバーセキュリティの対策状況に目を向けると、総務省の通信利用動向調査(2018年・2025年比較)ではウイルス対策ソフトの導入率は8割強で大きく変わらない一方、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)や認証技術、データの暗号化などの導入率が高まってきています(図表3)。

従来型のウイルス対策といった基本的な防御策が広く浸透し、遅れていたクラウド環境の保護や不正アクセスの検知、ID・アクセス管理など、より専門的な複数の対策を組み合わせる「多層防御」がようやく進みつつありますが、更なる普及が期待されます。また、今後は工場などの制御システムやAIシステムの保護といった新たな領域にも需要が広がるほか、専門人材の不足を背景に、脆弱性診断や監視・運用を外部に委託する動きもサイバーセキュリティ市場の成長を支えるとみられます。

こうした需要拡大の恩恵は、独自のセキュリティ製品を開発するメーカーだけでなく、診断や監視・運用などのサービスを提供する企業、国内外の製品を取り扱う商社やSIerにも広がる可能性があります(図表4)。ただ、政府の国産製品育成策による直接的な恩恵と、市場全体の拡大による恩恵は企業ごとに異なります。関連銘柄の選別に当たっては、各社が手掛ける事業領域や競争力に加え、受注高、継続課金収入、利益率などの動向を決算ごとにしっかりと見極めることが重要になりそうです。

(三菱UFJ eスマート証券)

著者/ライター
笹原 勇人
2023年4月より現職。前職中堅証券にて15年、リテール営業をはじめ投資情報部にて情報配信業務などに従事。米国株情報を中心に投資情報資料の作成・お客さま向け勉強会・セミナーなどを行う。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟 認定テクニカルアナリスト(CFTe )、AFPなど多彩な資格を有する。

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