教えて!『指数将軍』その2
プロローグ2 投資の民主化
投資の民主化
日本では過去何度も上場投資信託(ETF)を普及させる取組みがなされてきましたが、今のところ、ETFが定着しているとは言い難いのが実情です。
東証に上場する全ETFの資産額(ETF投資家が投資している金額の合計)は順調に増えてきたのですが、その6割は日銀の投資です。日銀は儲けるためにETFを買っているわけではない(金融緩和措置の一環として株式リスクプレミアムを下げるために買っている)ので、投資目的でETF投資をしている金額は実際はその4割にしか過ぎません。
一方、米国ではETFは既に最も重要な金融商品として定着し、従来型の投資信託、特にアクティブ運用商品からは資金流出が続いています。あまりにもETFの成長が凄まじいために、従来型投信でビジネスをしてきた運用会社もお尻に火が付いた格好で「一斉に」と言って良いほど、ETFに参入し始めています。
筆者は、このような米国の状況を「投資の民主化」と言っています。
それは、ちょうど民主主義社会において国民が決定権を持っているように、資産運用/金融市場でも投資家自身が決定権を持っているという意味です。何も盲目的に米国を礼賛しているわけではないですが、ETFの広がりを見ていると米国では投資における主権が投資家にあることがはっきり分かります。
90年代にETFが登場してからの10年は、米国でもETFはマイナーな存在でした。それが徐々に時間をかけてETFが広がり、今やETFは資産運用のメインストリームになっています。これは、すべて投資家がETFを選択した結果、起こったことです。政治と同じように、金融市場でも政権交代が起こったようなものです。筆者はこれを「投資の民主化」と言っています。
何が民主化に必要か?
恐らく、個人投資家にとってETFは金融商品としての欠点がほとんどありません。
もちろん、投資信託や個別株と同様にETFにもリスクはありますが、それは欠点ではありません。投資家たる者、リスクを取ってリターンを上げる(上げようとする)のは当たり前です。特に今のように超低金利の世の中になると、リスクを取らないとリターンは得られない、と断言できるほどです。
個人投資家にとってほとんど欠点のないETFも、金融商品の仲介者(主に証券会社や銀行)にとっては欠点が多いのです。それは先程書いた通り、コストが安いからに他なりません。本来コストが安いETFは良い商品と言えるはずですが、金融商品を販売する人にとってはETFは身入りの少ない商品なのです。ですから、あまりETFを売る気にはならないのです。
こういう言い方をすると、運用会社や仲介者からは反論があると思います。「自分たちもETFを運用し、販売している」と。事実その通りで、筆者は「運用会社や仲介者のせいでETFが広がっていない」とは考えていません。彼らは単に儲からないから積極的でないだけで、品揃えとしてはちゃんとETFが商品棚に陳列されています。
では、ETFが米国のように普及しないのはなぜでしょうか?
それは、ひとえに投資家が目覚めていないからです。投資における主権者は投資家であり、投資家が行動する必要があるのです。これも政治と同じに考えることができます。国民が投票しなければ政治が絶対に変わらないのと同じで、投資家が行動しなければ投資の民主化も起こらないでしょう。
しかし、投資の民主化と聞くと随分迂遠な話のようで、いつまでたってもそんな時代は来ないように思えるのではないでしょうか?自分で言っておいて申し訳ないのですが、金融商品を自分で調べて吟味したうえで投資するのは相当な労力が必要になるので、筆者も大変そうだなと思います。ただし、何事もインセンティブ(動機付け)です。
米国でもすべての投資家が自分で金融商品を見極めて投資をしているわけではありません。米国でも、多くの投資家は専門家に言われるままに投資をする、むしろ資産運用は専門家に任せっきりというケースが多いそうです。ただ、その専門家が日本で言う銀行や証券会社のようなインセンティブ設計になっていないのです。彼らの収入は、お客さんから預かった資産の何%相当額と決まっているそうです。
こうなるとどうでしょうか?自分の収入を増やすためには、預かり資産を増やさなければならないのです。それは資産を増やしたい投資家の願いとも一致します。つまり、利益相反がないのです。日本も米国のように、金融商品を販売する人と投資家の利益が合致するよう仕組みが変われば、あっという間に投資の民主化が起こると思います。
そのような世の中が近いうちに実現することを期待しつつ、本コラムでは、個人投資家にとって非常に有益なツールになり得るETFを理解する上で必要になる指数というものについて紹介していきたいと考えています。
(指数将軍)