「脱」アベノミクス!!
「官」から「民」へ ― 主役交代で輝きを取り戻す東京市場
提供元:ちばぎん証券
失われた10年とも20年とも言われるデフレの時代を経て、わが国の株式市場が目を覚ましたのは2012年11月。以後、日経平均株価は2015年6月に20868円の高値を付けるまで、2年半で2倍超という高パフォーマンスを上げました。背景は「デフレ脱却」を目指して安倍首相が提唱した新たな経済政策―通称アベノミクスです。アベノミクスは「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢から成りますが、特に黒田日銀総裁との強力タッグで推進した金融の量的緩和政策は円高是正に顕著な効果を示し、株高をもたらしました。まさに「政策に売りなし」。「官」主導の株価上昇でした。
それがこの一年余り、少し勢いを失っています。円高、原油安など外部環境の悪化もありましたが、アベノミクスの限界説もささやかれ始めています。
東京市場は今後も停滞した動きが続くのでしょうか。
答えは「No!」。私は「官」から「民」へ、主役が交代することで再び勢いを取り戻すのではないかと考えています。注目すべきは日本企業が研鑽を続け、蓄積してきた先端技術が生み出すイノベーションです。
アベノミクスに沸いていたころ、産業界では今後の私たちの生活や企業活動に大きな変革をもたらす様々な「種」が、芽吹きの時を迎えようとしていました。
京都大学の山中伸弥教授が、生物のあらゆる細胞に成長できるiPS細胞を初めて作製した実績でノーベル生理学・医学賞を受賞したのが2012年10月。今年になって山中教授は日本経済新聞社の取材に対し、「iPS細胞の舞台は研究所から病院へ移行する」と語っています。iPS細胞を使った再生医療や創薬研究が新しい局面に入ることを示唆したもので、期待は高まるばかりです。
ソフトバンクがロボット事業への参入を目指しフランスのアルデバラン・ロボティクス社を買収したのも2012年。これが2014年6月のヒト型ロボット「Pepper」の発表につながります。今や「Pepper」は個人向けのみならず、受付、接客、ヘルスケア、インバウンド対応など様々な業務に特化したアプリを搭載することで活動範囲を広げ、法人向けの導入実績は1700社(2016年10月現在、同社HPより)におよんでいます。
長崎県佐世保市でハウステンボスを運営するHISは2015年7月に「変なホテル」(これが正式名称です)をオープンしました。ホテル内にはチェックイン時の接客ロボット、コーヒーなどを運ぶサービスロボット、清掃ロボットなどを配備し、人件費を従来の3分の1以下に抑えています。同社は新興国などを中心に海外進出も進める方針で、10年後、1000拠点を目指すとのことです。2020年代にはこの「変なホテル」が世界のツーリストの話題をさらっているかもしれません。ちなみに「変なホテル」で活躍するロボットはサンリオの100%子会社「ココロ」が提供しています。
1980年代から製造業の省力化に貢献する産業用ロボットの分野で世界をリードしてきた日本のロボット産業ですが、今や文化、伝統の領域をも取り込み、「クールジャパン」を象徴する存在としてさらなる飛躍期を迎えようとしています。
自動車の分野でも技術革新が新たな世界を切り開こうとしています。
次世代のエコカーとして注目される電気自動車(EV)は、三菱自が2009年に「アイ・ミーブ」で世界初の量産化に成功しました。電気自動車は走行中に排ガスを一切排出しない究極のエコカーですが、普及には1度の充電で走行できる航続距離の短さが課題です。それがようやく克服されようとしているのです。日産自が現在販売している「リーフ」は航続距離が280キロメートルと消費者が一般に求める水準といわれる320キロメートルに近づいていますし、米テスラモーターズが今夏に発売した新モデルは、価格が1480万円~と高額ながら600キロメートル超を実現しています。こうしたなか、いよいよトヨタもEV市場に本格参入する方向で2020年までに量産体制を整えるとしています。
EVの性能を左右するリチウムイオン電池では日本企業が抜群の強みを持っています。EV向けに限定すればパナソニックの世界シェアが30%台でトップ、日産自とNECとの合弁会社オートモーティブサプライが10%超で続きます。また東レ、旭化成、住友化、三菱ケミカルなど関連部材を供給する会社もそれぞれの分野で世界トップクラスのシェアを有しています。
2020年代には自動運転車も実用段階を迎えそうですし、新素材開発や省エネ、環境対策など日本企業が世界をリードする分野は数多くあります。本日は少し長くなってしまいましたのでこの辺にしておきたいと思いますが、今後数年間はこれまで我々が思い描いていた漠然とした未来図がはっきりとした形を現す時と捉えることができるでしょう。その過程で日本企業に対する評価は一段と高まるのではないでしょうか。
(株式部 部長 大越 秀行)