地政学リスクとETF投資
提供元:岡三証券
2017年4月はシリアの化学兵器使用や北朝鮮の核・ミサイル開発を巡って地政学リスクが高まり、日本や米国の株式市場もリスク回避の動きで調整を余儀なくされました。
そもそも地政学リスクとは何でしょう?一般的には、ある国や地域で政治的・軍事的な混乱が起こる、もしくは起こりそうな状況で、それらの国や地域の経済、場合によっては世界経済にも影響を与えそうなリスクのことです。米国の中央銀行(FRB)が2002年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)声明文に盛り込んで以来、市場で広く使われるようになりました。
米国での同時多発テロや日本の東日本大震災などのように、事が起こってしまえばリスクは短期間で相場に織り込まれ、終息に向います。これが株式市場で地政学リスクは長続きしないと言われる所以ですが、今回は米国、中国、ロシアの外交政策の思惑も絡んで緊張状態が続いたため、先行きの不透明感を嫌う株式市場にとっては非常に厄介でした。
また、こうしたリスク回避ムードの高まりで「有事の円買い」がみられています。相場格言では「有事のドル買い」で、確かにドルも買われますが、ドル円でみると円が強くなるケースが多くなってきました。
有事の円買いにはさまざまな要因が考えられますが、2000年以降の米国でのテロやイラク戦争、リーマン・ショックなどでドルが売られた経緯があり、経験則として投資行動に根付いてしまった感もあります。北朝鮮問題で地理的に近い日本が脅威に晒される可能性が高いのに円が買われる。東日本大震災の時も同様で有事の円買いとはいえ、地震の被害を受けた国の通貨を買うというのは違和感があります。
リスク回避ムードが高まったときに買われるのは通貨以外に国債や、実物資産である金(GOLD)があり、今回も金が買われました。利子を生まない金は米国の利上げ観測が出始めてからは、商品としての魅力低下で下落傾向にありましたが、米国の金利上昇一服と、今回の地政学リスクの高まりを受けて需要が高まりました。
金の取引には現物や先物取引、金価格に連動する投資信託などのほか、ETFがあります。ETFは株式同様、取引所で売買でき、特別な口座も必要ありません。金価格に連動するETFで代表的な銘柄は、「SPDRゴールド(ロンドンの金地金価格との連動)」や「純金信託(「グラム・円」単位の金の理論価格との連動)」、「金連動投信(ロンドンにおけるロンドン渡し金価格の円換算値との連動)」などで、純金信託では一定の受益権口数を保有していれば、受益権と引き換えに貴金属地金の現物を受け取ることができます。
株式投資でみた場合、金に関連する銘柄を購入するという方法もあります。ただ、リスク回避時は株式相場全体が下落するシステマティック・リスクの影響が大きく、思ったほどのパフォーマンスを得ることは難しいでしょう。
ETFではTOPIXなどの株価指数に連動するインデックス型が人気ですが、ETFには個人投資家が投資することが難しい商品に連動する銘柄も多く上場されています。2017年4月時点で東証には207銘柄のETFが上場されており、株価指数連動のほかには、穀物、金属、原油などの商品や、リート指数、ボラティリティ指数などに連動するETFが取引できます。特に、金価格に連動するETFは商品のなかでも流動性が高く、取引しやすいでしょう。また、今回のような株式相場下落時には金以外にもインバース型やベア型、VIX指数連動などのETFで好パフォーマンスが期待できるでしょう。