エコ社会とシェアリング・エコノミー
提供元:東洋証券
上海市の市街はいまオレンジ色、黄色、緑色等のカラフルな自転車で溢れかえっている。正確なカラー数は知らないが、「七色の自転車」とも云われている。
これがいま中国各地で話題のシェア自転車。日本にも観光地には「貸し自転車」があるが、スケールと利便性が全く異なり、似て非なる存在だ。
この自転車に乗りたければ、スマホを使って(例えば)「Mobike(モバイク)」というシェア自転車の運営会社に入会申請する必要がある。そして299元(1元=約16円)の保証金と、数十元の利用料をチャージすれば、手続きは完了。(注:保証金や利用料は業者によって異なる)
あとは路上に駐輪しているオレンジ色の自転車の鍵をスマホのパスワードで開ければ、自由に乗り回せる。目的地に到着すれば、路上に自転車を乗り捨てればよい。利用料は1時間で1~2元程度、自転車はGPSで管理されている。
昨年4月に上海の路上に登場したシェア自転車、あっという間に規模を拡大し、昨年末に10万台を超えたと話題になったが、いまでは約50万台が上海市内に投入されている。利用者が450万人と云うから、上海市民の5人に1人が利用している計算になる。
あたりまえのことだが、シェア自転車は人口の多い大都市専用のビジネスであり、人口密度の低い農村や辺境の地では通用しない。いま全国30都市に投入されている自転車台数は200万台、うち50万台が上海。
最近では、業界最大手の「Mobike」にSNSのテンセントが、2番手の「ofo(オフォ)」には電子商取引のアリババが資金提供した。加えて、シャープを買収したテリー・ゴウ氏率いる鴻海精密工業がMobikeに出資して、自転車製造を始めたというニュースまで流れており、彼らが、本業のSNSや電子商取引と、シェア自転車とのビジネスマッチングを模索していることからも、この業界の成長の可能性が大きいことがわかる。
もっともシェア自転車の歴史は浅く、ビジネスモデル確立は今後の課題である。いま業界は厳しい競合にさらされており、生き残り競争は激しいと聞く。1時間で1、2元程度の利用料では、ほとんど利益が生み出せず、保証金の運用益がいまのところ唯一、最大の収益源となっている模様。
エコ社会への貢献が期待されるシェア自転車ビジネス。日本もたまには中国流を見習えばよいと思うのだが、そう簡単ではなさそうだ。公共の場所に好き勝手に乗り捨てられるのが、シェア自転車最大の魅力だが、日本でこんなことをしようとしたら、国土交通省や警察が黙っていないだろう。シェア自転車の運用に係る、交通事故や製造者責任、利用者責任等々のリスクを洗い出し、一つ一つに対策を講じた上で、道路交通法等の法令を変えようとしたら、数年の歳月が流れるのではないだろうか。
その点、走りながら問題を解決しようとする中国のやり方は現実的ではある。雑だが、スピード感溢れる中国流、丁寧だが、やたら時間がかかる日本流。どちらのアプローチが産業振興と国民生活の改善に寄与するだろうか。