“反面教師”として伝える投資との向き合い方
サンプラザ中野くん「投資によって歌詞が深くなった」
「慎重であれ。始めるならしっかり勉強すべき」と、投資に対するアドバイスを語る、ミュージシャンのサンプラザ中野くん。16年前から株式投資を始め、「ほとんど儲けていない」と、辛酸をなめ続けてきたからこそ得た教訓だ。とはいえ、現在も株式投資とFXの2軸で投資を続ける。「ぜひ“反面教師”として読者に捉えてほしい」と語るサンプラザ中野くんに、投資との向き合い方を教えてもらった。
■他人に言われるがまま売買をしてはダメ
「株に興味を持ち始めたのは、90年代後半。89年にベルリンの壁が、さらに91年にソ連が崩壊し、アメリカが一人勝ちになった時、これからはイデオロギーではなく、“経済が世の中を動かすようになるのでは”と考えるようになりました」
そんな時に舞い込んだのが、雑誌での株の連載の話。日本経済新聞を購読して経済について学び始めた矢先で、投資の知識はほとんどゼロに等しかったという。
「投資家に株を教わりながら投資を始める、内容だと言われ、それなら大丈夫だろうと引き受けました。しかし蓋を開けてみると、一切教えてもらえず…手探り状態でした」
最初に思い切って購入した株は、取引数が少ない銘柄だった。購入時こそ値上がりしたが、それは自分が購入したことによる影響。その時はそれに気づかず、さらにその後、成行注文(※)で売買した結果、思わぬ安値で売却…。一発目からマイナスを出してしまった。
「(連載の)相談相手に聞くと、よくあるミスだし、ちょっとくらい損をしてもしょうがないさ、なんて言われて。気を取り直して続けましたが、さらに損益が増えました。他人に言われるがままに、あるいはよくわからないままで売買すると、取り返しが付かなくなることを、身をもって学びましたね」
※1:買う/売る値段を指定せずに注文する方法
■初心者はかならず少額から始めるべき
そんな手痛い失敗を経験しているサンプラザ中野くんは、初心者に向けて「投資の勉強はしっかりすべき」と改めて念を押す。さらに、投資初心者は「微々たる額から始めるべき」とのアドバイスも。
「1万円くらいで始めるのが1番良いと思います。ドルコスト平均法(※2)で何十年も購入したり、NISA(※3)を使うのもあり。初心者にとってはとにかく、無理せず、リスクを少なくすることが重要です」
※2:一定の金額で、定期的に継続して投資をする方法
※3:少額投資非課税制度。NISA口座で年間120万円の範囲内で購入した金融商品の配当金、譲渡益(値上がり益)等が5年間非課税となる制度
そんな慎重な運用を勧めるサンプラザ中野くんに、「今、初心者は投資を始めるべき時なのか」を聞くと、「今は様子見。トランプ相場は読めない」と語ってくれた。
「昨年のアメリカ大統領選挙の際、トランプが勝てば株は下がり、ヒラリーが勝てば株は上がるというのが、周りの投資家の予想でした。しかし、トランプが勝った途端、予想に反して株価は急上昇。何が起こるか分からないですからね。株価が上がり続けているからといって、来月上がっているとは限らないし、10年も上がり続ける相場はまずないので、これから大暴落がくる可能性はある。だからこそ、慎重に、しっかり勉強して臨むべきだと思います」
とにかく細心の注意を払って進め。そういうことだ。
■「Runner」の歌詞のように、まだゴールに辿り着いていない
自らの苦い経験から、「株はやるべきではなかった。もっと勉強しておけば良かった…」と後悔するサンプラザ中野くんだが、だからと言って悪いことばかりではないそう。現に、いまでも投資は続けているワケだ。それはなぜか?
「投資を始めたことによって、苦手だった経済やそれに関わる数字を、自分の生活の一部として捉えられるようになりました。僕は、歌で人生を描きたいから、経済的側面や時代性を理解することは大切だし、それによって歌詞に深みが増す。経済学出身の人が経済小説を書けば説得力があるのと一緒です」
しかし、いくら仕事や生活面でメリットがあるとはいえ、損をすると諦めたくなりそうなものだが、どのようにモチベーションを保っているのだろうか。
「恋愛だと撤退すべき瞬間はありますが、投資には、“まだ何かあるんじゃないか”という期待がある。たとえば、これまで9勝1敗している人がトータルで儲けているかというとそうではない。9回は1万円ずつのプラスで、1回は100万円のマイナスということもあるし、その逆もある。1勝9敗でも儲ける人がいるワケです。大事なのは、しっかり学んで、諦めないこと。『Runner』の歌詞的に言わせてもらうと、まだゴールに辿り着いていないんですよね。だから頑張っちゃう。投資を始めると、とにかく忍耐強くなりますよ(笑)」
赤木一之/H14=取材・文
林 和也=撮影
記事提供/『R25』
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サンプラザ中野くん(さんぷらざ なかのくん)
1960年、山梨県生まれ。2年間のアマチュア活動を経て、1984年に爆風スランプのヴォーカルとしてデビュー。「Runner」(88年)、「大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い~」(89年)、「旅人よ~The Longest Journey~」など名曲多数。99年4月に爆風スランプ活動休止宣言。08年1月に名前を「サンプラザ中野」から「サンプラザ中野くん」に改名。’15年にA-Zこと小峠英二(バイきんぐ)とユニット「坊坊主(ボーボーズ)」を結成し、アルバム『励ます』をリリース。投資のほか、健康やランニングなど、多分野で活躍中