“資産把握”と“低コスト運用”が鍵
マネーフォワード・辻氏が語る「FinTech時代の資産形成術」
“人生100年時代”といわれる昨今、生涯を通じて複数のキャリアを経験する人生設計が必要になってくる。1月22日に開催された「人生100年時代のマネープラン ~東証ETFで長期投資を~ 日経ムック『ETFまるわかり!徹底活用術2017』刊行記念セミナー」では、そんな“マルチステージ”の時代に欠かせない、キャリアと資産形成の重要性などが有識者によって語られた。
それによると、若い世代こそ、資産形成を始めるべきだというが、ハードルが高いイメージも…。そこで注目したいキーワードが、“FinTech(フィンテック)”だ。IT技術を用いた金融サービスのことで、最近は、資産形成がより手軽になる様々なツールが登場している。しかし、どのように活用すべきなのだろう? 同セミナーのパネルディスカッションに登壇し、『FinTech入門』などの著書でも知られる、マネーフォワード代表取締役社長CEOの辻庸介さんにうかがった。
■ファーストステップは「お金の“見える化”」
「資産形成で最初にやるべきことは、明確な目標設定と現状把握です。まずは、人生の目標をなるべく具体的に書き出してゴールを設定し、それに対して自分が今いくら持っていて毎月の収支はどれほどなのか、現状を把握する。例えば“将来には1億円必要で、いま300万円持っているから、残りの9700万円をどう作ろうか”と、具体的に考えることがファーストステップになります」
ただ、日々の仕事に追われるビジネスマンが、「結婚資金はいくら…」「老後の生活費は…」などと、ひとつひとつ自分で計算するのは至難の業。そこで活躍してくれるのがフィンテックというわけだ。なかでも現状把握と将来に必要な資産額の算出に役に立つのが、PFM(Personal Financial Management)と呼ばれるサービスだ。
身近な例でいえば、“家計簿・資産管理アプリ”。金融機関の口座情報やクレジットカード情報などを入力して連携させれば、毎月の家計の詳細を分析し、自動的に家計簿を作成したり、節約すべきポイントなどを教えてくれたりする。いわば、“凄腕のFP(ファイナンシャル・プランナー)”が、いつもそばでサポートしてくれるようなもの。具体的なサービスでは、「マネーフォワード」や「Zaim(ザイム)」などがある。
「資産形成を考えるうえでは、“お金の見える化”をすることが大切。レコーディングダイエットと同じで、“お金の見える化”ができたら、節約すべきポイントがわかり、行動にもつながります」
■富裕層が享受していた資産運用サービスが低コストで実現
「そうして節約したお金をアセット(資産)に回す、ここからが資産運用です。資産運用に使えるフィンテックの代表といえば“ロボアドバイザー”。これは、リスク管理をしながらグローバルな分散投資を自動的に行ってくれる、夢のような仕組みです。かつては、富裕層の投資家が“プライベートバンカー”を雇って実践していたような買い方が、誰でもスマホ上で手軽にできてしまうのです。しかも、人間が行っていたサービスをロボットが代用するので、運用コストも抑えられます」
ロボアドバイザーには、「THEO(テオ)」や「WealthNavi(ウェルスナビ)」など様々なサービスがあり、日本ではここ2年程度で急速に台頭し、証券会社だけでなく、銀行も積極的に参入してきている。
それでは、フィンテックサービスを使う際は、どのようなことを心がけるべきだろうか?
「まずは自分で使ってみること、これに尽きます。少額でも運用してみると、様々なことがわかってきますよ。ただ、フィンテックサービスを提供する企業は、この先どんどん増えていくことが予想されますが、本当に信頼できるサービスかを見極める必要はあるでしょう。(そのサービスを)誰がおすすめしているか、運営会社の経営者はどんな人なのか…など、サービスを利用する前に企業のウェブサイトなどでしっかり確認しましょう」
最後に、辻さんは「資産形成では、“複利を味方につけること”が大事」と念を押す。“複利”とはアインシュタインに「人類最大の発明」と言わしめた概念。その計算法は、元金と利子を合計してさらに利息をかけていくというもの。元本だけではなく利子にも次期の利子がつくため、雪だるま式に利子が増えていくのだ。すなわち、早期に資産運用を始めればそれだけ、将来得られるリターンが大きくなる可能性が高くなる。つまり、“複利を味方につける”とは言い換えると“時間を味方につける” ということなのだ。
知識がないからと、手を出しにくい資産形成も、フィンテックの力を借りれば、劇的に身近なものに変わる。「あの時、始めておけばよかった…」と後悔する前に、今からライフプランを考えてみてはいかがだろう。
(取材・文=加藤宏之/村部春奈、撮影=林 和也)
辻庸介(つじ・ようすけ)
2001年、京都大学農学部を卒業後、ソニーに入社。本社経理部で、AIBO(アイボ)などの部門経理を担当、04年にマネックス証券に出向後に転籍。09年ペンシルバニア大学ウォートン校に留学、帰国後、COO補佐、マーケティング部長を歴任し、12年にマネーフォワードに参画し、代表取締役社長CEOに就任。マネックスベンチャーズ株式会社・投資委員会委員、一般社団法人新経済連盟・幹事、経済産業省・FinTech検討会合委員。主な著書に『FinTech入門』など。