指数の仕組みは? スマートベータとは?
【超マニアック!?】MSCI×投資ブロガー「指数勉強会」レポート
「日経平均株価」や「TOPIX(東証株価指数)」といった株価指数。市場の動向を数値化したもので、主に証券取引所や証券会社のほか、専門の指数算出会社などが算出している。
先日、この「指数」についての理解を深める、東証主催の「勉強会」が都内で催された。
世界的な指数算出会社であるMSCIの内 誠一郎氏を“講師”に招き、個人投資家を交えて行われた2時間強のディスカッション。どんどんマニアックな領域に踏み込みつつも、指数のプロと投資家たちが意見を交換し合う貴重な機会となった。
指数のプロと人気の投資ブロガーが集結
MSCIは世界中のマーケットにおける指数の算出を手掛ける会社。算出した指数は、例えば先進国株式指数として有名なMSCIコクサイ・インデックスなど、各ファンドのベンチマーク(指標)などとして用いられている。そんなMSCIの日本における指数ビジネスの責任者である内氏は、まさに指数のエキスパート。一方、参加した個人投資家の皆さんは、長期投資で指数と連動する運用を目指す「インデックス投資」の界隈では名の知られた人気ブロガーたちだ。
序盤は内氏のプレゼンという形式で進行していったが、次第に双方の立場から意見を交換し合うなど、大いに盛り上がった。
序盤は内氏が指数算出会社の業務内容や収益構造の仕組み、指数を作る際の原理などを丁寧に解説。内氏によれば、世界的にETFへの投資が爆発的に増え、インデックス投資が盛り上がっている現在のトレンドは、指数を算出して運用会社などに提供する指数会社にとってもポジティブなものなのだとか。
ブロガーからは、こうした普段接点のない指数会社について、この機会にと様々な質問が飛び出した。
例えば「MSCIに対してこんな指数を作って欲しいという依頼を受けることはあるのか?」という質問に対して、内氏からは「現状ある指数を、新たに設定するファンド用にカスタマイズして欲しいという要望が多い。例えば、MSCIエマージング・マーケット指数から中国A株を抜いた指数を作って欲しいとか、新興国のポジションをもっと取りたいからさらにインドネシアを組み入れて欲しいなど、要望は様々。ただし何でも言われて作るのではなく、作る指数がMSCIの哲学に合っているかという点も重要視している。」という回答があった。
今後は「スマートベータ型」の指数にも注目
さらに、「従来は時価総額加重平均型の指数だけだったのが、『スマートベータ』をはじめ、さまざまなタイプの指数が出てきはじめているので、そういうところからもビジネスの種は広がってきていると感じる」と内氏。
従来の指数はTOPIX(東証株価指数)のような時価総額加重平均型、つまり市場を構成する銘柄の時価総額の大きさに基づいて指数を算出するものだったが、「スマートベータ」は企業の財務指標、収益の安定性、配当利回りといった特定の要素を基に構成されるさまざまな「ファクター」に着眼して設計される指数。このファクターに着眼して投資を行うことで、単純な時価総額加重平均型の指数よりも高いパフォーマンスを期待することができるという。
なお、内氏のプレゼンでは、過去のさまざまな調査研究によってエビデンスが得られている6つのファクター(バリュー、サイズ、モメンタム、ボラティリティ、クオリティ、イールド)についての解説も行われた。
今後のマーケットでは、時価総額型のパッシブ運用を中心としながら、このスマートベータの考え方に基づく「ファクター投資」が、さらに存在感を増していくだろうと内氏は分析。
それに対し、「ファクター投資が増えていくことによってどのような影響が生じるのか」という投資ブロガーからの鋭い質問に、内氏からは「アクティブ型ファンドと名乗ってはいるものの、中身はほとんどインデックス型ファンドと同じで、それにもかかわらず信託報酬は高めのファンド(クローゼット・ファンド=隠れパッシブファンド)もあるのが現状。そうしたファンドは市場に勝つためのリスクをきちんと取っているとは言えず、スマートベータの出現によって一気に淘汰されていく可能性がある」とのコメントがあった。
そのほかにもファクター投資のリスクや落とし穴についての質問が飛び出すなど、ディープな議論が展開された。
いずれにせよ、「投資スタイルは人それぞれで、いろいろなやり方があっていい。インデックス投資だけである必要はなく、個別銘柄の売買なども否定するものではない。」と内氏は言う。そのなかでも世界への分散投資は、時価総額型であれスマートベータであれ、長期的に資産を築くためには有効な手段。なぜなら「日本経済の成長には限界があるかもしれないが、長期的には世界経済だけは成長していくはず。成長するのがどこの国かは分からないから世界全体に投資するのが有用だ。」とのことだ。この内氏の言葉には、集まった投資ブロガーたちも大いに納得していた。
逆に内氏より「自身のポートフォリオに日本株をどの程度組み入れているか」との質問を受けて、投資ブロガーからは「世界の時価総額の割合と同じ1割くらい。世界経済全体の成長率は2~6%なので、その果実を得られるように分散して投資している。」との回答があり、これには内氏も「非常に合理的でプロの判断と同じだ」と舌を巻いていた。
インデックスファンドなどに指数を提供する側と、その恩恵に預かり資産形成をする側。めったに出会う機会のない両者による白熱したディスカッションは、双方にとって実りあるものとなったようだ。自分の投資の参考にしたい人は、ぜひ参加したブロガーの記事もチェックしてみてほしい。
取材・文/榎並紀行(やじろべえ) 撮影/森カズシゲ