プロ的銘柄探し⑦
新しい投資テーマ探し「攻めのIT経営銘柄」
提供元:One Tap BUY
著者:三好 美佐子(One Tap BUY)
さて、新しいテーマ投資の視点として、前2回のコラムでは、経営資源「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」にフォーカスし、社員を大切にすることで盤石な収益力を付けている銘柄の探し方をご紹介しました。今回は、「モノ」に焦点を当てています。
「モノ」は一般に資産であり、株主から投下された資本をいかに経営に活かしているか・・・それが表れる部分です。従来は、工場や設備、土地などを指していましたが、現代ではコンピュータなど最新の情報技術―ITなどもそこに入るのではないでしょうか。
AI(人工知能)やIoT(モノ同士をつなぐインターネット)など技術が進むにつれて機械、コンピュータでできる範囲が拡大し、ヒトの居場所(ひいては生活の糧)を奪うとの脅威を感じる声を聞くこともあります。しかしながら、単純作業は機械に任せると、余裕ができた時間で創造的・想像的なことをヒトがやれるようにもなります。
例えば、マーケティング活動でも、従来のやり方ならば魅力的な広告を制作し、全体的に見てコストパフォーマンスのよい媒体を探して出稿していくものでした。それが、POSシステムなどのように顧客の購買活動に関する膨大なデータを集めることができれば、それを分析して、広告のタイミング(時刻)や媒体、訴求すべき内容など、より効果的で精緻な戦略を立てることが可能となります。
データが膨大なだけに収集も分析も人の手では難しいレベルとなりますが、そこで得られた結果をどう活用していくか・・・については、情報が豊かなだけにクリエイティブな人間の脳の出番となるはずです。
IT化によって、優秀なヒトの活躍場所ももっと高度になり、レベルアップする相乗効果が期待できます。社員のモチベーションも上がるのではないでしょうか。
確かに、IT化は人件費を中心とした金銭的・時間的コストの削減に役立ち、さらに、人的ミスを減らすシステムです。それだけでも企業業績にはプラスになりますが、それにとどまらず、迅速な商品・サービスの改善・向上に大変役に立ちます。
例えば、米国のGE社では、航空機のエンジンに大量のセンサーを付け、リアルタイムでデータを受信しているそうです。そのセンサーから不具合等の情報がコンピュータに送信されてくれば、自社製品の弱点なども見つけやすく、製品の改善もいち早く行うことができます。それだけでなく、早期に不具合を発見して問題が起きる前に交換するなど、優良な製品の販売のみならず正常稼働の保障もしやすくなっているとのことです。
なお、最近では、新たなイノベーションを起こす時に、一つの企業が単独で行うのではなく、得意分野の異なる他社の知見をお互いに利用したりもします。これは、ビジネス・エコシステム(生態系)といって、各社が知見を持ち寄って業界全体の発展を試みる動きですが、これに参加するにも標準化されたIT技術は必要です。
今後このような時代の流れに乗れる企業と乗れない企業では、将来の成長性に大きな差が付くことは容易に想像ができます。
そこで、IT化を重視して推進している企業の業績がそうでない企業に比べて良好といえるならば、「恒常的な収益力を持つ企業」としての重要な要素と位置づけ、銘柄選びの根拠としてよいことになるでしょう。
電子情報技術産業協会が2015年に調査した結果では、「経営層やLOB(事業部門)の責任者がITに意欲的なほど、つまりIT経営企業であるほど、売り上げ、利益が高いという結果が鮮明に出たと見ています」と関係者が語っています。
IT化に対して①極めて積極的、②積極的、③やや消極的、④消極的の4つに分かれた属性に、それぞれ、売上高と経常利益について3年前と比較した変化を調査しています。
売上高が増加したと回答した企業は①が7割に対して④は4割、また、①②③④の順に数が減少。経常利益も①が6割に対して、④は4割強、①②④③の順に減少していくとの結果になっています。
詳しくは、「国内企業における「攻めの IT 投資」 実態調査結果について」(JEITA/IDC Japan)をご覧ください。
さて、実際に投資することを考えたとき、どの企業がIT化に積極的か否か・・・これを調査するのも個人投資家では難しく、また、機関投資家であっても体系立てて継続的にデータ化するのにはコストがかかりそうなテーマであります。
そこで、経済産業省と東京証券取引所は、「攻めのIT経営銘柄」と題して、ITを戦略的に活用して製品・サービスの向上など新たな価値の創出や競争力強化を図っている企業を選定しています。
ITにかける予算を増額する時、日本では「業務効率化やコスト削減」を理由に挙げる企業が多いのですが、米国では「製品・サービスの競争力強化」と答える企業が多いとの実態があります。つまり、多くの日本企業にとってITは「守り」のツールであるわけです。
経営陣がこの意識を変え、米国同様に、ITは収益獲得や他社との競争力を強化するための「攻め」のツールであると認識する企業をアンケート調査で抽出します。
2017年は、IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットなどの最新技術への取り組みを重点的に評価し、また、株主や投資家、社員などに「攻めのIT経営」について適切に情報発信をしているかも評価対象としています。これに、ROE(株主資本に対する当期純利益の割合)がプラスであるという財務フィルターもかけています。
例えば、こんな会社が選出されています。
◆セコム
日本で初めての警備保障会社であるセコムは、画像認識技術やドローンなどを駆使した最新のセキュリティシステムの実用化を推進しています。ユーザーが「24時間、不眠不休で守られる」安心感は、恐らく機械(IT)の力なくしては作り出せないものではないでしょうか。
健康管理・救急対応サービス「セコム・マイドクターウォッチ」はリストバンド型の健康管理・救急対応システムで、身体の異常を検知するほか、突然意識を失った場合は自動でセコムに救急通報するなど、高齢者の方をしっかり見守ってくれる商品です。腕に巻いてさえいれば、遠くに居ても大事な親を守れるなんて・・・ IT技術ならではですね。
他にも、高精度な3次元立体地図によるセキュリティプランニングシステムなど、IT技術を最大限、本業推進に活用しています。
◆ヤフー
インターネット社会の黎明期には、業界の代表企業として株式市場でも大きな山を作ったこの銘柄ですが、インターネットがビジネスとして成熟している現在、さらなる成長のエンジンとして動向が注目されています。
ヤフーでは「先端技術応用室」を設置して「擬似3D画像」を開発しました。取り囲むように被写体を撮影した画像から三次元情報を抽出して画像を合成します。これにより、パソコンでもスマートフォンでも立体的な画像を回転したりすることが可能となります。現在、ショッピングのファッション特集などに使われていますが、現物を確認できないネット販売の強い味方になりそうです。
この他、今までネット上で蓄積してきた膨大なデータを活用する段階に来ている認識から、ビッグデータとAIを使って運用を行う投資信託を設定しています。2016年12月にスタートした「Yjamプラス!」は、TOPIXをコンスタントにアウトパフォームする成果を続けているようです。
経済産業省と東京証券取引所が「攻めのIT経営銘柄」を選定する背景にあるように、ITの活用については、意識も実情も日本はまだまだ米国におくれを取っています。裏を返せば、これからも活用・導入の余地があり、そのことは日本企業の今後の飛躍的な潜在成長力の可能性を示唆するものではないでしょうか。
これからの投資テーマである「攻めのIT経営」、次の選定発表は2018年5月。どんな銘柄が入ってくるか楽しみです。
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