移換完了後、運用商品の見直しも忘れずに!
【企業型DC】転職したときの手続き方法【企業型→企業型編】
毎月一定額の掛金を拠出、運用し、原則として60歳から給付金を受取れる「確定拠出年金」。3万社以上の企業が「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」を導入し、民間サラリーマンの10人に1人が加入している。
企業型DCは、会社が掛金を出し、口座管理料も負担してくれる。さらに、マッチングといって、会社掛金に本人が掛金を上乗せすることができる仕組みを導入しているところも増えている。マッチングの掛金は所得控除の対象になるため、利用できるならぜひ活用したい。
また、転職する際には、以前の会社から新しい会社の企業型DCへと資産と加入期間を移換することができ、老後資金作りのために非課税のまま資産を継続して運用できるのもポイントだ。
では、転職時に企業型DC間でどのように資産を移せばいいのか、確定拠出年金アナリストの大江加代さんに聞いた。
■移換完了後、運用商品を見直す
「企業型DCから別の企業型DCに変わる場合には、転職先で企業型DCの説明を受ける際に、前の会社で企業型DCに入っていたことを申し出る必要があります」(大江さん・以下同)
申告すると「個人別管理資産移換依頼書」を用意してくれるため、必要事項を記入して新たな勤務先に提出すると、残高を管理する会社同士でその後の手続きを行ってくれる。自分で以前の企業型DCの資産を売却するといった手間はない。
移換完了の通知が自宅に届いたら、まずは資産が預けられている運用商品を確認しよう。移換時に今まで運用していた資産が一度現金化され、移換後は転職先の会社側が決めている預金などに自動的に配分されてしまうため、自分の意志とそぐわないことも…。そこで自分が運用したい商品にスイッチングする必要が出てくるわけだ。
「資産の移換は、一般的に1~2カ月かかります。移換依頼書を提出したことを忘れた頃に完了の通知が届きますが、そのまま放置せず、すぐに商品を見直しましょう。預金ではほぼ金利がつかないので、運用益非課税、厳選された商品での運用という確定拠出年金のメリットを享受しにくくなってしまいます」
なお、以前運用していた商品に投資し続けることはできず、運用商品は新たな勤務先の企業型DCが用意している中から選ぶ必要がある。
■企業型DCとiDeCoの同時加入が可能な場合も
数はまだ多くはないものの、会社によっては、企業型DCと個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)の同時加入を認めているところもある。両方の確定拠出年金に入る場合は、iDeCoは自分で金融機関を選んで加入すればよい。
「iDeCoも同時加入することで、税制面の優遇や老後資金準備を加速するというメリットがある一方で、iDeCoの口座管理料は自己負担です。運用したい商品があるかどうかも、加入する判断材料になります。口座管理料が企業負担となる企業型DCと並行して必要か、考えた方がいいでしょう」
■退職後6カ月間放置すると自動移換されてしまう
「以前勤めていた会社の企業型DCに資産を残したまま、転職先の企業型DCやiDeCoに移換せずに、退職(加入資格喪失)後6カ月が過ぎると、その資産は現金化され、国民年金基金連合会に自動移換されてしまいます」
自動移換される際には、現金化されるタイミングが選べないばかりか、特定運営管理機関への移換手数料3240円、国民年金基金連合会の手数料1029円といった手数料が、資産残高から引かれてしまう。さらに、自動移換されてから4カ月目以降は、月々51円の管理手数料が引かれるため、せっかくの資産残高が目減りしていく。
国民年金基金連合会には現金で移換され、運用されることもないため、運用益を期待することもできないだけでなく、加入者等期間にもカウントされない。確定拠出年金は、通算加入者等期間が10年を満たない場合は60歳から受け取れないため、国民年金基金連合会に預けている期間が長いほど、受け取る年齢が繰り下げられてしまう(最長65歳まで)。
「国民年金基金連合会に預けている資産を、新たな勤務先の企業型DCに移換することはできますが、その際にも移換手数料1080円が発生するなど、手数料で少なくとも5000円程度は引かれることになります。せっかく積立てた資産残高を減らすのは、もったいないですよね」
ちなみに、退職後6カ月以内に会社に「個人別管理資産移換依頼書」を提出しておけば、国民年金基金連合会に自動移換されることはない。移換完了の通知を受領するのは6カ月を超えても問題ないが、油断せずに早めの手続きを心がけよう。
会社ごとに金融機関(運営管理機関)や運用商品が異なる企業型DCだが、資産を効率的に運用できる。移換を忘れるとせっかく積立てた資産が減っていってしまうので、転職時に移換の手続きを忘れないよう、注意しよう。
(2018年6月8日追記)
2018年5月に企業型DC、iDeCoに関する制度の一部が変更され、
6カ月以内に移換手続きを行わなかった場合の取り扱いが変更となった。
退職・転職後に新たな企業型DCやiDeCoに加入すれば、移換手続きをしなくても、残高を管理する機関で同一人物であることが確認されれば、資産が自動的に移るようになった。
もし既に自動移換されてしまっている場合も、企業型DCやiDeCoに加入すれば、国民年金基金連合会にある資産が自動的に自身の口座に移される。
加入者側の負担を軽減させ、自動移換によって手数料が引かれる人を、今以上に増やさないための取り組みといえる。
(有竹亮介/verb)
※記事の内容は2018年5月現在の情報です
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大江加代
確定拠出年金アナリスト。オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社に22年間勤務し、サラリーマンの資産形成ビジネスに携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、NPO法人確定拠出年金教育協会理事として「iDeCoナビ」(http://www.dcnenkin.jp/)を立ち上げる。著書に『図解 知識ゼロからはじめるiDeCo(個人型確定拠出年金)の入門書』など。