7月2日についにスタート!
著名投資ブロガーが聞いた「ETFマーケットメイク制度」のメリットとは?
2018年4月10日、日興アセットマネジメント・東京証券取引所(以下、東証)共催による「ブロガー懇談会」が開催された。
昨年に引き続き2回目となる今回は、5名の投資ブロガーが参加。議題はETFの普及を促進する起爆剤として注目される「マーケットメイク制度」について。日興アセットマネジメントETFセンター長の今井幸英氏、東証の担当者、さらにはゲストとして現役のマーケットメイカーを迎え、前回よりもさらに踏み込んだ意見交換がなされた。
ETF活性化のカギを握る「マーケットメイク制度」とは?
ETFこと「上場投資信託」は従来の投資信託よりも保有コストが安く、“株式と投資信託をいいとこ取りした金融商品”として知られる。しかし一方で、銘柄によっては「流動性」の少なさが弱点とされ、個人投資家への認知があまり進んでいないのが現状だ。
そこで東証では、ETFの普及の障害となっている流動性の問題を解消するべく、2018年7月2日にETF市場の「マーケットメイク制度」を導入する予定。
ETFに流動性を提供する「マーケットメイカー」と呼ばれる専門業者や証券会社に対し、東証が手数料割引などのインセンティブを与えることで活発な取引を促す狙いがある。現状は板付きが薄いETF商品についても、マーケットメイカーの積極的な参入によって流動性を担保し、個人投資家が売買しやすい銘柄を増やしていこうというわけだ。
「今年7月のマーケットメイク制度導入に続き、2019年にはETFの設定・解約のフローが見直されます。ETFの課題を解決する施策が次々と打ち出される一方で、投資商品としてはいまだに知名度が低い。そこで、投資の知見が深く、かつ、一般投資家に近い目線も持っている投資ブロガーの皆様にまずは制度を深くご理解いただき、忌憚のないご意見を頂戴したいと考えています」
そう語るのは、日興アセットマネジメントETFセンター長の今井氏。前回のイベントでも著名ブロガーによる建設的な意見交換が行われたが、今回は現役のマーケットメイカーである山田氏(Flow Traders)が参加するなど、議論はより専門的で高度なものとなった。これは、前回の参加者から出た「マーケットメイカーの話を聞いてみたい」というリクエストに応えたものだ。
マーケットメイカーが育ちにくい日本のETF市場
イベントはまず、今井氏によるプレゼンからスタート。ETFにおけるマーケットメイカーの役割、現状、海外と国内の違い、課題などについて、東証の担当者や海外のマーケットメイカーであるFlow Tradersの山田氏による補足を交えつつ概略が述べられた。
マーケットメイクを専業で行う山田氏はその事業内容について、「ETFの卸売・総合商社」という表現を用い、以下のように説明する。
「ETFの銘柄ごとに現在時点の理論価格を計算し、そこから税金やリスクヘッジにかかるコストを引いた後に、いくらだったら売買の注文を出していいかの判断をします。ETFと一口に言っても銘柄の種類は多く、売買注文と同時に行うヘッジ取引(主に先物などを利用)の計算も単純ではありません。弊社はETF専業マーケットメイカーとしてノウハウの蓄積があり、トレーダーの数もグローバルで100人以上いますので、幅広い銘柄をカバーできるのが強みといえます」(山田氏)
マーケットメイカーの業務は、なかなかイメージしにくい。投資ブロガーからも「初めて会ったマーケットメイカーを聞いたこともないような人に、自分の仕事を紹介するときにはどう表現しますか?」との質問が出た。山田氏は「金融で、かつマーケットメイカーと言うと何やら怪しいイメージを持たれるかもしれませんが、やっていることは在庫を仕入れて薄利多売、という地道な仕事です。安売りのドン・キホーテのようなイメージ、と表現すると分かりやすいかもしれません」とのことだ。
なお、日本では証券会社が事業のひとつとしてマーケットメイクを行うことはあっても、専業のマーケットメイカー業界が育っていないと、今井氏・山田氏は話す。
「マーケットメイカーという職業は、他のプレイヤーに対して常に優位性を保たなければならない。スピードもそうですし、価格の決め方にも正確さを求められるという点で、できる業者は限られているのだと思います」(今井氏)
「日経平均やTOPIXのようにメジャーで分かりやすい先物が付いている銘柄は、証券会社もマーケットメイクを活発に行っています。ただ、その分競争が激しく、みんながスピードを競っている。そこで勝負している専門業者もありますが、弊社の場合はそれよりもノウハウを生かし、もう少しヘッジや理論値計算がやっかいなものを扱うことに特化しています」(山田氏)
「マーケットメイク制度」は、個人投資家のETF売買につながる?
そこで、マーケットメイカーの積極的な参画を促すために導入されるのが「マーケットメイク制度」だ。プロモーション担当の東証の三木氏は、制度により「幅広い銘柄に流動性を持たせ、ETFの取引が促進されることを期待しています」と語る。
「個人投資家の方々がETFを買いやすくなる環境を作ること。それも東証の使命です。7月2日からできるだけ多くのマーケットメイカーに入っていただけるよう、プロモーションを仕掛けていきたいと思っています」(三木氏)
さらに、マーケットメイク制度の設計を担当する東証の岡崎氏がこう続ける。
「制度開始後はマーケットメイカーのみなさんに、相応のインセンティブをお支払いします。その代わり、参画するマーケットメイカーには、これくらいの数量をこれくらいのスプレッドで板に出してくださいという『気配提示義務』を負っていただきます。また、1日の取引時間のうち80%以上でマーケットメイクをするETFの気配を出すこと、個人投資家の方が取引したくなる水準の流動性を出すこと、これらの要件を満たしていただく必要があります」(岡崎氏)
駆け足の説明が続くなか、ここで参加ブロガーから「すでにマーケットメイクに取り組んでいるFlow Tradersのような専門業者もいるが、制度が導入された後はどのような関わり方になるのか?」との鋭い質問が飛ぶ。これに対しては、「どんな形でご参加いただけるかは、私たちも非常に興味があるところです」と岡崎氏。さらに、こう期待を述べる。
「マーケットメイク制度では対象となる30銘柄のうち20銘柄を『低流動性銘柄』として、低流動性銘柄に流動性を出すことでインセンティブを渡すように取り決めています。豊富な知見とノウハウを持ったマーケットメイカーがその20銘柄に流動性をもたらしてくれることで、今まで流動性の低かった“知られざる魅力的なETF”に光が当たるのではないかと考えています」(岡崎氏)
一方、水を向けられた山田氏は制度を歓迎する意向を示しつつ、「ただ、我々がいくら板に気配を出しても、投資家が売買をしてくれないことには出来高はゼロ。マーケットメイク制度とはいうものの、結局のところ主役はマーケットメイカーではなく投資家なんです。その意味では、安心して取引していただくためにも、ETF市場の信頼を積み上げていく必要があると思います」と語った。
では、マーケットメイカーにより流動性が担保されれば、個人投資家は本当にETFを買うのか? 今井氏によれば「これまでは投資をしたい銘柄でも板がなかったために諦めていた人たちがたくさんいました。つまり、潜在的なニーズはあるということ。マーケットメイカーによって板が厚くなれば、個人投資家の売買は進むのではないでしょうか」とのことだ。
この見解に対しブロガーからは「それはよく分かります。私も以前、とある低流動銘柄を売買しようとして随分苦労しましたから」と賛同の声が上がった。
その後、トークはどんどんディープな方向へ。マーケットメイク制度で支払われるインセンティブの額やヘッジの方法など、生々しいやりとりが交わされた。
ともあれ、2時間のイベントは盛況のうちに終了。ブロガーのリクエストに応じ参加したマーケットメイカーの山田氏が「ブロガーさんを通じ、幅広くマーケットメイカーの取り組みについて知っていただくいい機会になったと思います」と語るなど、実りあるものとなった。
今後もブロガーとの交流を
最後に、参加ブロガーからは東証に対しこんな要望が。
「マーケットメイク制度を導入したことによって何がよくなったのか、数字を含めてしっかりアナウンスしてほしい。ウェブサイトの目立つところに情報を適宜アップし、個人投資家に『ETFは儲かりそうだ』という“予兆”を感じさせてほしいですね」
これに対し、東証も「まず7月まではどんな銘柄のETFが買いやすくなるのか、どれがマーケットメイク銘柄なのかをアナウンスし、制度開始後は『こんなふうによくなりました』というのを東証マネ部!上に数値で出せればと考えています」(三木氏)と応じていた。
また、参加した投資ブロガーからは「つみたてNISAの導入を契機として、最近はインデックスファンドのコスト(運用管理費用)が大きく下がってきている。国内に上場するETFが存在感を出していくには、まさに今が踏ん張りどころ」という励ましの言葉もあった。
共催者である日興アセットマネジメントの今井氏は、今後もこうしたETF関連のイベントを積極的に開催していきたいと意欲を見せる。とはいえ、ETFに“肩入れ”しているわけではなく、そのスタンスはあくまで中立。その上でETFの普及促進をはかっているのは、「本当によい商品」だという自信の表れだ。
「個人投資家にとって他にもっといい商品があるなら、そちらを選んでいただきたいと思います。ETFに限らず、さまざまな投資商品のメリット・デメリットを正しく理解し、使い分けていただくことが望ましい。個人投資家の方に正しく理解いただくためにも、今回のような機会を作っていくことが重要だと思っています」(今井氏)
取材・文=榎並紀行(やじろべえ) 撮影=森カズシゲ