誰でも起こる!相続のワナ
法改正で、相続税の課税対象者は約2倍になった!?
2015年から、相続税の控除額は大幅ダウン……
親や配偶者が亡くなり悲しみにくれている時期に、なんとも“面倒なもの”が襲いかかってくる。「相続税」だ。
「いやいや、相続税なんてお金持ちだけの話でしょ?」と思っている方、ご注意を! 実は2015年の法改正によって、相続税の対象者は急増しているのだ。
「法改正により、課税対象者はほぼ1.8倍に増えました。相続税の課税対象となった人の割合を示す『課税割合』を見ると、法改正前の2014年は4.4%でしたが、法改正後の2015年は8.0%まで上昇しました。その後は、8%台をキープしています」
そう説明するのは、相続税を専門とする税理士の岡野雄志氏。では、いったいどのような改正があったのだろう。
岡野氏は「もっとも大きな改正は、基礎控除額の縮小です」という。つまり、「この金額までなら相続税を免除しますよ」というラインが低くなったのだ。「東京23区や神奈川にマイホームがある家庭の場合、土地の評価額が高くなりやすいため、課税対象になる可能性大」とのこと。他人ごとではなくなってきた人もいるのではないだろうか。
細かな改正の内容を見てみよう。相続税は、故人から相続人全員が受ける資産の合計が一定額以下なら、「基礎控除」により納税する必要はない。その基礎控除は、改正前なら「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」だった。しかし改正後は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」になったのである。
たとえば父親が亡くなって、母親と子2人が法定相続人の場合。改正前なら8000万円まで控除が効くが、改正後は4800万円になった。大幅な減額だ。もし財産の総額が「不動産4000万円+貯金2000万円=6000万円」だと、改正前なら相続税の申告をする必要はなかったが、今は申告しなくてはいけない。
「この改正により、納税額が少ない人の申告件数が増えました。その結果、税額の合計は改正後に年4000億円以上増えましたが、1人あたりの平均納税額は減少したんですね。2014年は1人あたり2473万円だったのが、2015年は1758万円になりました」
亡くなってから10ヶ月以内に支払い。どうやって相続税は決まる?
ちなみに岡野氏は、納税の注意点として「納税額が0円でも、相続税の申告が必要なケースがある」という。え、どういうこと?
気になるところだが、その前に一度「相続税とは」という基本知識をおさらいしておきたい。
「相続税は、親や配偶者が亡くなってから10カ月以内に、相続税の申告書を税務署に提出し、税金を収める必要があります」
相続の権利を持つ「法定相続人」は、基本的に配偶者と子ども、子どもがいない場合は孫になる。孫もいなければひ孫や両親が対象になるなど、親族の状況に合わせて変わる。
相続税がどのくらいになるかは、引き継ぐ財産全体から計算する。この計算は複雑だが、最近はウェブサイトなどで財産総額を入れれば納税額を算出してくれる。上述した、相続する財産の総額が6000万円のケースは、納税額の合計が120万円となる。
しかし、亡くなった人の配偶者には「配偶者の税額の軽減」という控除制度があるため、これを使えば納税額は60万円となる。この「配偶者の税額の軽減」では、「1億6000万円」または「法定相続分(配偶者は1/2)」のどちらか高い方までの税金が控除されるのだ。
この『配偶者の税額の軽減』を適用するにあたって注意してほしいのが、申告しないと使えないということ。これが、先ほど述べた「納税額がゼロでも申告が必要なケース」につながる。
申告しないと使えない控除は他にもある。そのひとつが「小規模宅地等の特例」だ。亡くなった人が自宅として使っていた土地、あるいは事業で使った土地は、相続税の評価額が最大で80%減額される。ただし、自宅として使っていた土地が適用されるには、基本的に、配偶者か亡くなった人と同居していた親族が相続する場合のみ。また、面積にも制限があるなど、なんともややこしい制度だ。
たとえば、「土地6000万円+貯金2000万円=合計8000万円」を相続することになったとする。法定相続人が3人の場合、基礎控除は4800万円までなので、相続税の支払い義務が生じる。だが、小規模宅地等の特例が適用されれば、土地の価格は8割引かれて1200万円となる。すると、合計3200万円となり基礎控除の範囲内に収まる。
ただし、先ほど述べたように、適用されるにはあくまで申告が必要ということ。相続税の申告時に小規模宅地等の特例を提出することで認められる。納税の義務はある人が、こういった制度を活用することで、結果的に納税額が0円になるのだ。
「実は、相続税の申告が必要な人は年間およそ13万人いますが、そのうち約3万人は申告のみで納税額はゼロなのです」と岡野氏。逆に言えば、きちんと申告しないとムダに払わされるということ。
「申告書は一般の方が書くことも可能です。主な財産が金融財産(現金や預金)であれば、資産の算出も難しくありません。ただし、土地は評価額を出すのが難しいので、税理士に相談すべきでしょう。小規模宅地等の特例などを使う際も、税理士を頼ることが一般的ですね」
ということは、小規模宅地等の特例は相続税こそゼロにするが、そのために税理士へいくらかのお金を払うということ。なんとも悩ましい……。なお、税理士も得意分野があるようで、「過去には税理士のミスで1億円以上の“納めすぎ”があった方もいます」と岡野氏は言う。
そんな悲劇を避けるためにも、もう少し相続税の知識をつけておきたい。そもそも、どんな財産が相続税の対象になるのだろう。次回、詳しく考えてみたい。
(取材・文/有井太郎)