フィンテックの最前線を追う!

今年からリアルタイムでの徴税が実現? 若林恵氏が語る

ヨーロッパにインド、国一丸で進む世界のフィンテック最前線

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フィンテックという言葉が出て数年。日本でもキャッシュレス決済をはじめ、ようやく盛り上がりに火が付きつつある。しかし海外を見ると、より広い領域にフィンテックが浸透していたり、官民一体で大規模に進行していたりというケースが割と多い。

そこで今回、世界の「銀行」や「フィンテック」の最前線を取り上げたムック、『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』の編集を手がけた、若林恵氏に取材。かつてメディアサイト『WIRED』日本版の編集長も務めた同氏に、海外フィンテックの流れと、日本での展望を2回に分けて聞いた。

外国の事例から考える、フィンテックが国と企業にもたらすメリット

「日本のお金のデジタル化をめぐる動きを見ていると、そもそも、それが最終的にどんなメリットを生むのか、なぜキャッシュレスをお店や企業が進めるべきなのかという視点がなさすぎる気がします。その課題感や目標の実現に向けて、本来であればフィンテックの市場がもちあがってくる、という道筋であるはずだと思うんですが」

海外の動向を語る前に、このような問題意識を述べた若林氏。では、キャッシュレス決済がお店や企業、さらには政府に与える最大のメリットは何か。同氏は、一つの答えとして「大幅なコスト削減」を挙げる。そして、わかりやすい例として、フィンランドのケースを説明する。

「フィンランドは早い段階でお金のデジタル化に取り組みました。1980年代、電話回線がデジタル化した時代から、家のパソコンで銀行にアクセスし、さまざまなサービスを使うホームバンキングの技術が磨かれます。そうしてお金をオンラインで動かせるようになると、それにまつわる他の作業もデジタル化することで自動化への道が開かれる。そこから、レシートや領収書、給与明細などのデジタル化が次々に行われていくわけです」

そうしたデジタル化が一気に進んだのは、国内の金融機関が手を組んで取り組み、途中から国も合流したことによる。結果、2000年代には、企業間の発注や決済など、バリューチェーン全体のデジタル化が進んだ。

「すでに会計システムの多くは電子取引が可能になっており、たしか2019年のうちには、納税をオンライン上で自動的に処理することも可能になるはずです」

決済や発注がデジタル処理され、リアルタイムで処理されていけば、確定申告や徴税も後からまとめて人間が行う必要はない。「こうしたデジタル化が進むと、経理処理が自動化され、企業は管理コストを大きく下げられます」と若林氏。さらに行政は「お金のやり取りをデジタルで記録できるので、徴税も正確かつ迅速に、ほぼ自動化できるわけです」と続ける。

「要は、お金のデジタル化は、まずはそうした社会の根幹にあるシステムのアップデートであるということが肝心なわけでして、キャッシュレスをただ闇雲に進めたところで意味はないのです。基本キャッシュレスは、現金の運用コストをなくすこと、脱税をより高度に取り締まることが、まず最初の重要な意義なんですけど、日本では政府も政治家もそこをちゃんと言えていませんよね」

世界が注目、インド政府が進める「インディア・スタック」とは

国一丸でキャッシュレスと政府のデジタル化を進めた例として有名なのがエストニアだ。1991年の独立後から、行政手続きの電子化を推進。「eエストニア」などの基盤サービスをもとに、納税や居住権などの行政手続き、選挙、医療に至るまで、さまざまな公共サービスをデジタル上で行える。行政手続きの99%はオンラインで完結するとさえ言われている。

そこに使われているのは、仮想通貨などのシステムに用いられる「ブロックチェーン」の技術。取引を記録するデジタルの台帳だが、一度データを登録すると誰も変更できず、管理者も不要なシステムだ。

「エストニアでブロックチェーンが行政システムの基盤に入っているのは、重要な書類や契約書などをオンラインでやり取りするためです。お金だけをデジタル化しても意味がなく、それにまつわる社会システムもデジタル化してこそ意味を発揮します。デジタルIDとその認証の基盤があって、決済のための帳票や署名がデジタル的に規格化されてはじめて、すべての会計をオンライン化することができ、そしてそうなって初めて自動化もできるわけなのです。

日本はお金だけはやり取りできますけど、そもそも帳票が規格化されず、オンラインでやり取りできるようにもなっていないので、銀行も自治体も、まちまちの帳票を読み込むための読み取りの機械を導入するのに膨大なコストをかけたりしてるわけで、はっきり言ってそのコストは無駄ですね。

といって、お金をバーチャルにやり取りして、それをリアルタイムで記帳することだったら、ATMのシステムでも出来てたわけですから、大事なのはそこじゃないんです。キャッシュレスの意義は、それに合わせて社会のシステムをデジタルでアップデートすることなんです。でも、いまだに僕らは紙の請求書を出力してそれにハンコ押して、それを読み込んでPDFにしてメールで送るなんてことをやっている。デジタル化ってそういうことじゃないですから(笑)」

そうしたなか、国一丸でフィンテックを進め、注目を集める国がある。インドだ。インドでは、「インディア・スタック」という政府主導の施策を開始。デジタルIDのインフラとなる「本人不在レイヤー」、オンライン上で本人確認や、文書管理、署名などを可能にする「ペーパーレス」のレイヤー、お金をデジタルで取引するための「キャッシュレス」のレイヤー、そして、データのやりとりにおいて本人同意を簡便化するための「コンセント」のレイヤーを設け、デジタル化を進めている。

「面白いのは、政府主導の施策ですが、これらの公共APIの開発はプロボノの民間組織が行っていることで、それらのAPIを政府が提供・開放し、スタートアップを含めたさまざまな企業が、それを組み込むことでサービスを開発しています。コストをかけずに、非常にスマートなやり方で、公共的なデジタルインフラのつくりかたを実現したことで、いま世界中から、この仕組みは注目されています」

デジタルによる社会システムのアップデートにおいて先進国と言えるフィンランドやエストニア、そして現在進行形のインドを見ると、国一丸で進んでいる姿が浮き彫りになる。

さて、フィンテックが進むヨーロッパでは、「お金」とともに「個人データ」への議論も活発になっている。一体どういうことなのか。後編では、その動きを紹介していく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年8月現在の情報です

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