フィンテックの最前線を追う!

EUで生まれたデータ保護のルールとは…若林恵氏が語る

世界のフィンテックは「個人データ」のあり方がポイントに

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キャッシュレス決済を口火に、存在感を強める日本のフィンテック。一方、フィンテックの先進地域としてよく挙がるヨーロッパでは、お金のデジタル化が進んだことで、次なる議論が起きているという。それが「個人データの取り扱い」だ。

一体どのようなものなのか。前回に引き続き、世界の「銀行」や「フィンテック」の最前線を取り上げたムック、『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』の編集を手がけた若林恵氏に取材。ヨーロッパにおける「データ議論」の流れ、そしてデータビジネスで拡大する中国の事例などを聞いた。

デジタル上にたまる個人データをどう管理するべきか

前回の記事で、フィンテックが進むフィンランドやエストニアの例を説明した。これらの地域のように、お金にまつわる作業や手続きがデジタル化されると、購買履歴や給料、納税、資産といった個人データが、デジタル上に記録されることになる。

キャッシュレス決済も、今まで現金で行われていた購買が電子取引になることで、より細かなデータが蓄積される。それは、店舗の販促や次のキャンペーンのヒントになる。これもキャッシュレスを導入するメリットといえるだろう。

その中で「ヨーロッパでは個人データ保護の動きが加速している」と若林氏は言う。代表的なものが「GDPR(一般データ保護規則:General Data Protection Regulation)だ。EU加盟国28カ国の承認を得て昨年5月に施行されたもので、上述のムックでも大きく取り上げられている。

「現状、個人から生まれるデータは、その人の知らないうちにさまざまなプラットフォーマーに渡っているケースがあります。それを、きちんと“個人のもの”として定義し、”個人主権”という原則に則って管理・運用できる体制がつくられています」

具体的には、個人が自身のデータの処理方法に関する情報をきちんと得られ、そのデータの利用状況や利用履歴を明確に知るシステム・環境の整備、さらにはデータを利用されたくない場合は、企業側に削除してもらうことができる「忘れられる権利」の行使が挙げられる。

「GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)に代表される巨大プラットフォーマーのなかでも、GoogleとFacebookは個人データをターゲッティング広告に使うことで事業を成立しています。それらの企業に対する、個人データ濫用への牽制・規制を目的にしたものでもあります」

日本でもこの議論が始まっており、個人データの情報を資産として管理する「情報銀行」の考えが生まれている。以前の記事でも、三菱UFJ銀行の取り組みを紹介した。フィンテックが進むほど、個人のデータに関する議論は過熱するだろう。それを示すのがヨーロッパのGDPRなのだ。

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一方で、個人のデータがきちんと管理・活用されることは、生活の利便性向上にもつながる。

「たとえば家を買ってローンを組むとき、さまざまな書類を集めて金融機関に提出しなければいけません。個人データがデジタルできちんと管理されれば、戸籍謄本や給与明細など、家を買うために必要なデータをすべてオンライン上で集められるかもしれません。データの安全管理が進むと、そういったサービスも生まれてくるでしょう」

並行して、個人の購買データやインターネットの検索データ、GPSのデータなどを企業がどうビジネスに活用するかは、今後も議論が続くだろう。さまざまな領域のビッグデータを分析して、新しいイノベーションを作るのは今の主流の考えであり、安全は考慮しつつも活用する流れが加速するのは間違いない。

そういった中で、きわめて“賢く”データビジネスを展開してきたのが中国だという。「データの重要性にいち早く気づいた中国は、国家主導でGAFAを国内から排除し、似たサービスを自国内で整備したんです。それは、GAFAの専横という問題に世界が遅まきに気づいた今から見ると、政策的にはとても賢かったといえちゃいますよね」と若林氏。莫大な国民のデータをあくまで自国企業が蓄積し、データ活用を進めている。

「たとえば『Alipay』やECサイトの『天猫』などを持つ中国のアリババグループは、保険や資産運用、デリバリーフード、シェアバイクなど、さまざまなサービスをグループ内で続々とつくり、各サービスにおける膨大なユーザーのデータを取得。それをさまざまに掛け合わせて分析し、次のイノベーションを生み出しています」

グループ内にいくつもサービスを並列させることで、各種データを自由に掛け合わせ、相互シナジーを生み出していくことに成功した。「雪だるま式にイノベーションを起こす仕組みを、最初から戦略的に構築しているのだと思います」と若林氏は言う。

お金の取引や購買行動がデジタル上に乗るフィンテックは、データビジネスとの関係が強い。その管理のあり方や活用の仕方は、今後かなり重要なポイントとなるだろう。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年8月現在の情報です

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