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共通の証券システムを提供

世界に先駆けて生まれた、スマートプラスのBaaSとは

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最近、「アズ・ア・サービス(as a Service)」という言葉をよく聞く。SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)はその代表例だろう。

「アズ・ア・サービス」は“製品のサービス化”という意味。製品そのものは購入(所有)せず、他から提供してもらったものを使い、使用に応じて料金を払う。それが「アズ・ア・サービス」の概念だ。

ソフトウェアの場合、かつては一回一回ソフトを購入してパソコンに取り込んで使っていたが、最近は月額利用料を払い、ネット上にある機能を必要な分だけ使うケースが多い。MaaSも同様。車を購入するのではなく、カーシェアリングなどのサービスを使って、乗りたい時に乗りたい分だけ乗る。

証券分野でもこの流れが起きている。フィンテックベンチャーのFinatextのグループ会社であるスマートプラス社は、BaaS(Brokerage as a Service)という「証券システムのサービス化」をスタートさせている。国内外を見渡しても、このような試みは前例がない。一体どんなものなのか。Finatext取締役の伊藤祐一郎氏がその意味を語った。

サービスの中身となる共通システムを各社に提供

この10年ほどの間に、ネット上で証券取引を行えるオンライン証券が一般的になった。それらの基幹システムは、もちろん各証券会社が独自で開発している。ここでいう基幹システムとは、株の売買や管理などに関わる中枢部分である。

スマートプラス社のBaaSは、その基幹システムを彼らが開発し、さまざまな企業に提供するビジネスモデル。証券サービスをローンチする際、今までは基幹システムをゼロから作らなければならなかったのが、スマートプラス社のものを利用できる。そしてその基幹システムをもとに、サービスの外側の部分、サイトの構造やデザイン、UI /UXを作ればいい。

「証券システムをゼロから構築するには、莫大なコストや時間がかかります。10億円以上の費用、開発期間が数年にわたることも珍しくない。しかし我々のシステムを取り入れると、コストも時間も大幅に下げられます。その結果、今まで証券サービスを開始したくてもできなかった企業が、容易に参入できるようになります」

この基幹システムは、各社に共通のものが提供される。サービスの裏側(バックエンド)はスマートプラス社の共通システムを使い、表面(フロントエンド)を企業が作るイメージだ。

すでにこの形を実践しているのが、クレディセゾン社の提供する「セゾンポケット」だ。セゾンポケットは、クレジットカードでつみたて投資ができるサービス。クレディセゾンのサービスではあるが、株の売買や取引という中枢部分には、スマートプラス社の基幹システムが使われている。

ところで、BaaSの構想を聞くうちに1つの疑問が……。同社のシステムを使うと、サービスごとの違い、差別化が難しくなるのでは? 共通システムなのだから、サービスの特徴が生まれにくい気がする。その点について、伊藤氏はこう説明する。

「今の証券サービスを見ると、実はシステムそのものが生み出す差は極めて小さいんですね。技術やノウハウが進み、手数料やスピードの差はあまり見られません。差別化を生むのは、むしろサービス体験による付加価値。たとえば、普段使っているアプリで投資ができるなど、何かのついでに行えたり、ゼロから手続きをしなくても簡単に始められたり。となると、差別化の生まれにくい裏側のシステムは我々のものを使い、企業は表面の体験部分に力を注ぐ。その方が効率は良いと思います」

これまでは、表面の体験づくりに注力したくても、裏側のシステム構築に労力を割かなければならなかった。そこをBaaSで変えていく。また、中枢部分は共通システムとなるが、表面のUI/UXや他サービスへのつなぎ方は「自由度・応用度が高い」と伊藤氏。つまり、基幹システムは共通でも、アウトプットはサービスごとさまざまに変化できる構造だという。

BaaSが「投資」と「人」の距離を近くする

BaaSが普及すると、当然、いろいろな企業が証券サービスを始めやすくなる。

「すでにLINEが『LINE証券』というサービスをローンチするなど、別業界の企業が証券サービスを始める機会は増えています。おそらくこの流れは広まるでしょう。日本は投資を行う方が少ない国ですが、生活に密着しているサービス、多くの人が使うサービスからも投資ができるようになれば、もっと気軽に、普段の生活の中で自然とチャレンジできるはずです。投資の裾野は拡大しますし、先ほどの『体験の付加価値』にも合致します」

企業としても、新サービスを始めることで新しい収益源を期待できる。BaaSによって開発コストは大幅に低減されるため、リスクも少ない。

最後に気になるのは、私たち一般消費者へのメリット。BaaSが普及すると、どんなプラスがあるのだろうか。伊藤氏は「必要なタイミングで適切に資産運用を始められるのでは」と言う

「投資や将来の資産形成を考えるタイミングは、決して多くありません。結婚や出産の瞬間にふと考える人もいるでしょう。でも、そのタイミングにちょうどよく有益な情報があるとは限らない。かといって、まったく知らない投資の専門サービスを使い始めるのも勇気がいります。もしもBaaSで多くの企業が投資サービスを作る世界が訪れれば、愛着あるアプリ、普段使いのアプリから投資情報をタイミングよく得られたり、気軽に始められるかもしれない。それはきっとユーザーのメリットになるはずです」

さらに、よく使うアプリであればあるほど、ユーザーの行動やプロフィールを詳細に分析できる。それをもとにユーザーの思考や家族環境、ライフスタイルに合った投資プランを適切に提案できるかもしれない。

BaaSが広がると、より多様な企業が証券サービスを生み出せる。その結果、普段よく使うアプリで何かのついでに投資を行えるかもしれない。あるいは、日々使うアプリの行動データをもとに、自分に合った投資プランを教えてくれるかもしれない。

スマートプラスが掲げるBaaSという構想には、そんな可能性が詰まっている。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年12月現在の情報です

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