歴史的な視点で経済や市場を学ぶ

【第4回】市場で争う戦国武将達 ~信長の市場振興~(前編)

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この記事は、連載シリーズ「歴史的な視点で経済、市場を学ぼう」の第4回で、2020/8/15(土)配信「【第3回】永代供養(長期のお弔い)の費用は長期の運用で賄った?(前編)(後編)」の続きです。

1. 室町幕府の権威失墜と戦国大名の登場

これまでのお話で、商人達の活動により広範囲な交易が、鎌倉・室町期を通じて行われるようになったこと、その拡大を支えたお金の貸し借り(金融)も拡大したことを解説してきました。こうした貨幣経済の拡大によって、農漁村における金銭トラブルが増加し、やがてそれは1428年の徳政一揆という形に広がっていきます。こうした事態に、室町幕府は対処不能に陥ってゆき、1467年の応仁の乱勃発以降、事実上瓦解します。

1 近江坂本の運送業者等が借金の帳消しを要求した武装蜂起

同時に、京都の有力貴族や大寺社による荘園支配も形骸化が進み、「広域での交易」も停止します。このような事態のなか、各地に孤立した人々の生命と財産を守る自立した権力者として、在地領主層や旧守護大名が地域での支配力を強める形で登場します。それが戦国大名と呼ばれる者たちです。

2. 戦国大名の仕事

戦国大名がやらなければならなかったことは、地域ごとに経済的に孤立した領民が生きていくために必要な資源を確保することでした。当時、領民自身が生きていくために、村落単位で資源を奪い合うということが頻繁に起きていたので、戦国大名にとって、それを治めることは重要な課題でした。

そのために大名達は、司法制度を整備し、治水等のインフラ整備に力を注ぎます。武田信玄の信玄堤と呼ばれる堤防や小田原北条氏の早川用水はその代表です。一方で、このような事業には費用がかかるわけで、その費用をどこから捻出するのかは悩ましい問題でした。領主である大名の一声で、大規模な土木工事に無償で働く人が現れたわけではありませんし、高度な建築能力を持っている職能民は、より良い条件で働きたいと考え、そうでない大名の領地からは去ってしまうので、好待遇にする必要もありお金がかかります。増税も領民には受け入れられ難いことでした。

このような状態は、現代のわれわれが体験していることと似ています。会社の経営者が戦国大名に例えられ、戦国大名の物語が時空を超えて人々の共感を得るのは、現代が抱える問題が分かり易く見えるからかもしれません。

費用を捻出することの一つの解決法は、他国から奪う、ということも選択肢として思い描く方々も少なくないでしょう。他国に侵略するコストに見合う利益がえられるならば略奪した利益で軍事費を賄い続けることは可能かもしれません。しかし、そもそも略奪を可能にする最初の軍事費用はどこかから捻出するしかありません。実際問題として、他国からの略奪は、戦闘状態の戦場で村落民レベルが行っていたものでした。戦闘状態にない通常の場合はそうした手立てはそう簡単に使うわけにも行かず、ましてや戦国大名が積極的に実行できることではありません。戦国大名はそうした戦闘状態を回避するいわば外交政策が常日頃の課題でもありました。

そこで二つ目の解決策として、自領内の市場を整備して商工業者を誘致しました。具体的には、商売のトラブル解決に必要な市場法を各地の戦国大名が制定しました。下図のように、戦国期に市場法の制定が急速に増えていることがわかります。

市場法でどんなことが制定されたかというと、喧嘩公論、押買の禁止がその一つです。安芸の国(現在の広島県)の戦国大名小早川家では、市場での金銭トラブルは小早川家が取り扱うということを定めていました。

2 暴力を背景に無理やり買い叩くという行為

戦国大名たちはこのように、市場でのルールの制定に強い関心を持っていましたが、注意したいのは、戦国大名は領国内で律令政府のように指令型の経済体制を引いたのではなく、あくまでも市場の正常な活動を促進する方針を取っていたということです。多くの商人を引き付けることが自国市場を豊かにし、そのことが、必要な資源の調達を容易にして軍事力整備の資金を提供し、それが他国の略奪を防ぎ、またそれが商人を引き寄せるということを理解していたということになります。

ただ、市場法の制定による市場整備は、戦国期以前からあったもので、戦国期にフィットした市場整備は別途必要でした。それは、戦国以前の伝統的権威(つまり京都の貴族や大寺社といった宗教的権威)の市場への影響を否定するという施策で、この、今で言う経済特区が、楽市・楽座でした。具体的に、かつての座と、楽市・楽座はなにが異なるのか次で見ていきましょう。(後編に続く)

※このお話は、横山和輝名古屋市立大学経済学部准教授の協力を得て、横山氏の著作「マーケット進化論」日本評論社、「日本史で学ぶ経済学」東洋経済新報社 をベースに東京証券取引所が作成したものです。

(東証マネ部!編集部)

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