縦型組織の強い日本で必要なことは……
尾原和啓氏に聞く、日本企業がアフターデジタル型のDXを行うには
世の中のデジタル化に対する企業の打ち手として、最近よく耳にする「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。前回の記事では、DXのあり方を記してヒット中の著書『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社)の共著者・尾原和啓氏に、これからの時代のDXとはどんなものか、その概念や海外の成功事例を聞いた。
カギとなるのが、前回も触れた「アフターデジタル」の概念。リアルの中にデジタルがあるのではなく、デジタルがリアルを包含した世界を指しており、現代はすでに「アフターデジタルになっている」という。そして、この世界を前提としたDXを行うべきとのこと。
一方、デジタル化の中で成長した企業といえば、アメリカのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が代表的だが、これらはアフターデジタルではなくビフォアデジタル(デジタルがリアルを含有する前の世界)におけるDXだという。詳しい話を尾原氏に聞いた。
リアルを包み込むと、顧客接点が圧倒的に増える
「DXの成功例としてGAFAが挙げられますが、これはビフォアデジタルのDXだと考えています。あくまでデジタルに閉じた世界で起こした変革であり、遠くに散らばっていた情報やコンテンツをつないで、ネット上の一箇所にまとめた。そうして生まれた“場”が、圧倒的な支配力を持った例です」
GAFAだけでなく、リクルートのゼクシィやZOZOTOWNなども「ビフォアデジタル型のDX」だと考えているとのこと。世の中に分散していた結婚式場やブランド服の情報をデジタルで一箇所にまとめた形だ。
「もちろんこういったDXにも価値がありますが、それ以上に今後はリアルを包含したDX、アフターデジタル型が重要になるでしょう」
たとえば中国のあるフードデリバリーアプリは、国内旅行のサービスを開始して大きく業績を伸ばした。というのも、中国の国内旅行者は、観光名所より飲食店の名店を目的地として旅行するケースが増えているという。そういったリアルの行動をふまえて、まずはレストランの予約サイトを作り、さらにそのレストランから近いホテルの予約機能を追加。旅行まで一体で提供できるサービスにした。
「今までは顧客接点を“点”でしか押さえられなかった企業が、リアルの行動を包み込むことで、ユーザーとの接点を大幅に増やした例です。新たなユーザーを獲得できるだけでなく、1人のユーザーとも長く寄り添えるようになる。それがアフターデジタルのDXです」
縦型組織の多い日本で、横のつながりを作るのがDXのキモ
このような話を聞いたところで、今後日本のDXはどのように進んでいくのだろうか。日本企業がDXを進めていくポイントを聞くと、尾原氏はこんな説明をした。
「DXは、さまざまなデータやサービスを“横”につなげて異質な何かを作るのが基本。ただし、日本は縦型・縦割り組織の文化が強く、それによって成長した企業が多い。この文化の中で、いかに横のつながりを作っていくかが重要になるでしょう」
製造業が経済を牽引した日本の場合、高い品質を安く提供することが求められた。その実現には、縦型組織が「勝利の方程式だった」という。“失敗を最小限に抑える組織体制”として向いていたからだ。
「DXは横につなげることが重要であり、それは失敗を避ける縦型から失敗を許容する横型への組織変革にも通じます。とはいえ、縦型組織で成果を上げてきた年代のビジネスパーソンは、失敗を許容する文化に馴染むのが難しい。この問題を突破することが日本企業のDX推進のポイントになるのではないでしょうか」
前回の記事で取り上げた平安保険のグッドドクターアプリも、そのほかにさまざまなアプリを200近く作って失敗を重ねる中で生まれた成功例だという。だからこそ「DXを行うには失敗を恐れない人、横型に対応できる若い人材・組織に権限委譲することも重要では」と言う。
「ただし、横につながる組織は0から1を生み出すのには長けていますが、1から100へと拡大するのは日本型の縦型組織が向いています。つまり、0から1のDXさえ突破できれば、その後の拡大は縦型のお家芸。むしろ縦型で育ってきた人たちの出番となります。DXの初期は若い人に権限委譲し、軌道に乗ったら上の層の方々が登場する。そのときまで、じっくり力を溜めていただく(笑)。この役割分担が良いのではないでしょうか」
日本企業がDXを進めるためには、組織のあり方も重要になってくる。それが成功した企業は、まったく異質なサービスを生むのかもしれない。今後、東証マネ部!では、実際にDXを進める日本企業の動きを取り上げていく。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2020年9月現在の情報です