BtoB企業の知られざる大決断

100年、真摯に建機に向き合ってきた。コマツのモノづくりにかける信念(前編)

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コマツ(小松製作所)といえば、建設機械メーカー。“働くクルマ”を作る会社として多くの人が知る存在だ。建機を見る機会はあっても、あるいはその名を耳にすることがあっても、一般の人との接点はそう多くないBtoB企業である。けれども世界第2位のシェアを誇り、創業100年を控える、歴史ある巨大日本企業。その強さに迫る。

グローバルで社員全体の行動指針を示す“コマツウェイ”

コマツには哲学がある。世界6万人以上の社員を抱える巨大企業の社員一人ひとりが抱く、「コマツウェイ」という特別な指針だ。これは、一般的な社是とはちょっと違うらしい。話を聞いていくと、グローバルで全社員がひとつの方向を向くための羅針盤のようなものなのだ。

「過去にコマツは、さまざまな危機を経験しています。1960年代には米・キャタピラー社が日本に上陸してくることによって、コマツのビジネスそのものが危うくなることがあったほか、2001年には創業以来初の営業赤字に陥りました。また、環境意識、社会の価値観や技術革新等、外部環境が大きく変化するなかで、さらに成長させて強い企業にしていくための文化や習慣、価値観を共有して同じ方向を向くための実践活動が大切です。全社員6万3000人のうち、日本人は3分の1しかいません。日本発グローバル企業として、やはりベースは日本にありますが、先人が築き上げてきた考えや価値を、グローバルで広める必要があるわけです」

2019年に社長に就任した小川啓之さんは、熱っぽい口調でこう語る。コマツが誕生したのは1921年。石川県小松市の竹内鉱業から独立し、鉱山用機械を作る会社、小松製作所としてその歩みが始まった。戦時中に日本初のブルドーザーを開発し、戦後訪れる高度経済成長期を支える建機を作り続けたのだ。

転機が訪れたのは61年。世界最大の建機メーカー、米・キャタピラー社が日本に上陸するにあたり、迎え撃つコマツはネジ1本に至るまで品質を見直した。逆境をバネに世界基準の製品を作る実力を備えたコマツは、67年に初の海外現地法人を欧州に設立。海外進出に打って出る。今や海外の売り上げは85%(2020年3月期)を占めるグローバル企業となった。それゆえに、文化や人種を超えて信念を共有する必要があるというわけだ。

先人の知恵を、グローバルに、世代を超えて継承する

「コマツウェイの基本の一つが『TQM(トータル クオリティ マネジメント・総合的品質管理)』です。また、創業者である竹内明太郎の『海外への雄飛』『品質第一』『技術革新』『人材の育成』という理念、これをDNAとして受け継いでいくことが大切です」

創業者 竹内明太郎氏

コマツウェイは「マネジメント/リーダーシップ編」「ものづくり編」「ブランドマネジメント編」の3分野から構成され、過去の事例と語録が定期的に更新されているという。また石川県小松市には「コマツウェイ総合研修センタ」があり、経営層から一般社員まで、世界中の社員に広く研修の場として活用され、啓蒙を行っているという。

「日常の業務がコマツウェイに基づいているかの検証もしています。しかし実践がいちばん大事。コマツウェイはフィロソフィーですから、実践を通して体得し、そして次の世代に伝えていくべきものです」

そこまで哲学を貫くのは、モノづくりに対する真摯な姿勢があるから。それは、コマツの建機作りがユニークなアプローチを取っていることからもわかる。たとえば開発と生産を一体化していることだ。

開発と生産を一体化し、世界どこからでも高品質な調達を

「現在、世界中に85の生産拠点がありますが、そのなかで開発部隊と生産部隊が同居している工場をマザー工場と位置付けています。開発と生産がフィジカルに一緒にいることで、フェイス トゥ フェイスのコミュニケーションができるのです。開発と生産を同時に進めるサイマルテニアスエンジニアリング、世間的にいわれるコンカレントエンジニアリングです。これをやることで開発期間の短縮と開発段階でのQDCの作りこみができます」

またコマツのユニークな点は、マザー工場が各チャイルド工場のすべての品質や安全に関する責任を負うということだ。

「これにより、世界各国の工場で生産される機械のクオリティの均質化を図っています。また生産と設計のベースマシン設計や生産システムを統一することで、クロスソーシング体制が実現できました。どこの生産拠点からでも製品や部品が調達できるようにしているのです。たとえば今回のコロナ禍で供給の問題が発生したときにも、他の拠点が補いました。貿易摩擦や為替変動といったリスクでも自在に最適なソーシングに変更できるのです。と同時に、『SLQDC』に責任を持つことができるわけです」

SLQDCとは、コマツのものづくりに対する優先順位。Safety(安全)、Law(法律、コンプライアンス)、Quality(品質)、Delivery(納期)、Cost(コスト)の順で重要性を設定しているという。一般的にはQCDと呼ばれるものだが、コマツの場合は頭にSとLが付く。すなわち、安全と法令遵守がモノづくりに勝る重要性を持つということ。モノづくりに対して真摯である前に、使う人と社会に対して真摯であるべきだという考えなのだ。

「ほとんどの従業員の頭に刷り込まれています。レポートも取締役会も、すべて安全とコンプライアンスから入ります」

重要な部品であるキーコンポーネントはすべて“自前”。それが大きな強み

コマツのスタンスで興味深い点は他にもある。エンジンやアクスルなど、重要な部品であるキーコンポーネントを自社開発・生産しているのだ。

「このメリットは3つあります。まず技術革新を継続的に行っていけるということ。これにより性能で他社と差別化ができます。そして2つめは、自前化することで全世界同一品質のものができるのです。どの生産拠点からでも、同じクオリティの車体が供給できる体制が築ける。そして3つめが、販売と生産のコントロールができること。グローバルの視点で、販売、生産、在庫の調整ができるのです」

また建機ビジネスは、“売ったら終わり”ではない。工事現場という過酷な状況で稼働する建機は、継続的にメンテナンスが必要だ。その点、すべて純正部品で構成されているコマツの建機には大きな強みがあるという。

「自分たちがコンポーネントを作ることで、コンポーネントごとの耐久性や信頼性を把握できます。すると、延長保証プログラムを付けられる。通常の保証は1年ですが、我々は4年から5年、1万時間もの延長保証が付けられます。そうすることで、その間お客さまのさまざまな機械にタッチでき、常に純正部品を使っていただけるわけです」

メーカーが最後まで責任を持つことで生まれる、顧客メリット

またコマツの建機には数多くのセンサーが取り付けられており、機械の稼働状態を常に監視している。これは「KOMTRAX(コムトラックス)」というシステムで、これを使って顧客にさまざまなリコメンドができるという。たとえば適切な時期にオーバーホールのタイミングなどを促し、定期的に純正部品や消耗品をリコメンドできるというわけだ。

「建機のライフサイクル全体にかかるコストを『TCO(トータル コスト オブ オーナシップ)』といいます。新車を買って下取りに出すまでの期間で、コマツはお客さまに価値を認めていただく方針です。TCOのなかで新車価格の割合は、実は2~3割程度。あとは燃料代やオペレーター費用、修理費用がかかり、最後は下取り費用で回収するわけです。延長保証プログラムにより純正部品でメンテナンスをした建機はコンディションが保たれます。つまり下取りの価値が上がる。新車価格がいくら高くても、下取り価格が高ければ、差分が小さくなる分コスト負担は減るわけです。これが他社との差別化を図るためのバリューチェーンビジネスなのです」

地道に続けてきたからこそゆるがない、競合優位性

このようなスタンスで開発生産を行っているのは、世界でも多くはない。しかし他方に目をやると、中国の建機メーカーの躍進がめざましいとも語る。

「中国メーカーをはじめ、競合メーカーの多くは他社製のコンポーネントを組み合わせて作るのが一般的です。かつては中国メーカーのものはあきらかに性能が劣っていました。しかしコンポーネントを車体に反映させるすり合わせ技術をこの10年間で学んできて、性能面ではかなり追い上げている印象です。とはいえこの分野でもっとも重要なのは、耐久性と信頼性なのです」

事後保全、予防保全、さらに一歩先行く予知保全まで盤石の体制でメーカーが責任を持ち、かつ顧客のコストメリットまで提案できる。モノづくりに対する真心は、他の追随を容易には許さない。世界第2位の建機メーカーの心意気は、伊達じゃないというわけだ。(後編に続く)

(執筆:吉州正行)

<プロフィール>
小川 啓之さん
1961年、大阪府出身。85年京都大学大学院修士課程を修了し、同年コマツに入社。コマツアメリカでの工場長の経験を経て、2010年執行役員。インドネシア総代表を務めたのちに、16年常務執行役員。18年取締役専務執行役員。19年4月に代表取締役社長に就任。同年に策定した中期経営計画の実践を精力的に進めている。

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