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世界第2位の建機メーカー・コマツが目指す“真のDX”とは?(後編)

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ドローンが飛び、無人のダンプトラックと油圧ショベルが高度なデジタル統制のもとに規則正しく協働する。こんな未来の工事現場の実現は、そう遠くない将来に訪れそうだ。建機メーカー・コマツが2019年4月に策定した中期経営計画には、そんなロードマップがハッキリ示されている。社長の小川啓之さんに、コロナ禍におけるさまざまな取り組みから、未来に向けての打ち手に至るまでを聞いた。

デジタル化を明確に提示した、新たな中期経営計画

「今回の中期経営計画ではデジタルトランスフォーメーションのロードマップを作っています。クルマだと自動運転ですが、コマツは工事全体のデジタル化です。モノ(建設機械の自動化・自律化)とコト(施工オペレーションの最適化)の高度化の2つの軸で施工のデジタルトランスフォーメーションを実現し、お客さまの現場の課題解決を目指しています」

すでにコマツは、鉱山現場向けに2008年に世界初の無人ダンプトラック運行システム「AHS」の市場導入を実現している。さらに建設現場の課題解決のために「スマートコンストラクション」の展開を進めているという。

「我々はメーカーですから、その矜持として、モノは当然キチッと作っていく。ダントツの製品を開発することが一丁目一番地ですが、モノに加えてコトもやっていくことが中期経営計画の重点活動の1つです。2015年から『スマートコンストラクション』を展開して、施工現場の各プロセスのデジタル化を進めてきました。これらをひとつのプラットフォームで繋ぐアプリケーションの開発が大切で、それが4月に発表した『デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション(DXスマートコンストラクション)』です」

作業現場では、さまざまな作業が同時に進行する。建機ひとつひとつの“モノ”の自動化を横軸とするならば、“コト”となる施工オペレーションの最適化を縦軸に据えて、両方向を同時に進め、組み合わせていかないと、建設現場全体のデジタルトランスフォーメーションにはならないということだ。

未来の現場へのロードマップ

デジタル化がもたらす、ESG観点の多彩なメリット

自動化やデジタル化のアプローチは、「ESG課題の解決」にも繋がると語る。ESGとは環境や社会、ガバナンスに対して持続的な成長を続けるためのアプローチのことで、企業評価のひとつとして注目を集めるキーワードだ。とりわけ注視されるのが、SDGs(持続可能な開発目標)における環境への取り組みだ。

「中期経営計画の経営指標として新たにESGの経営目標を作りました。CO2の排出を2030年までに2010年比で50%減とすることを掲げるほか、再生可能エネルギー使用比率も50%にします。また、環境に対する外部評価としてCDPのAリスト選定も約束しています」

コマツのCO2排出削減の取り組みは、生産によるCO2の削減のみならず、製品使用によるCO2の削減にも積極的に取り組んでいるところが特徴だ。製品やソリューションによるCO2削減は顧客メリットにも繋がるという。

「まず製品については、CO2を排出しない電動化の開発を進めています。今年3月に世界初のバッテリー駆動式ミニショベルを発売しましたが、コストや重量、出力など、まだ技術的ハードルは高い。建機は小型から超大型までさまざまなサイズがありますが、適したパワーソースはそれぞれです。そのためサイズによって、フル電動、ハイブリッドやディーゼルエレクトリック、トロリーなど様々な方式からのアプローチで開発を進めています。また重要なのが、お客さまの施工方法を変えることで排出するCO2を削減することです。スマートコンストラクションにより、従来に比べて工期をグッと短くできる。これによりお客さまの生産性を上げながら、CO2を削減できるわけです」

DXスマートコンストラクションにより施工現場の規模にもよるが、工期やリードタイムが30%短くなることが実証されているという。これらのアプローチにより、収益化と環境活動の両立が図れるというわけだ。

「中期経営計画において、我々は本業そのものがESGの課題解決に繋がることを目指しています。また『ダントツバリュー』というキーワードは、顧客価値創造を通じたESG課題の解決と収益向上の好循環のことを指します。それを実現するための3本柱が、『イノベーションによる価値創造』『事業改革による成長戦略』『成長のための構造改革』という成長戦略なのです」

コロナ禍で浮き彫りになった、3つの課題

これらの戦略を進めているさなかに起きたのが、世界的なコロナウイルスの感染拡大という不測の事態だ。

「中期経営計画における重点項目が大きく変わるということはありません。ただ今回のコロナ禍で3つの大きな変化がありました。ひとつめが『建機の稼働現場』です。3密回避が求められるなか、ハードにおいては遠隔自動化のニーズが加速すると考えています。『DXスマートコンストラクション』は、現場に行かなくとも地形の変化や工事の進ちょくが見える。引き続きスピード感を持ってアプリケーションの開発に取り組んでいきたいと考えています」

コロナ禍は、コマツの取り組みを後押しすることになったといえる。そして、社員の働き方も変わったという。

「2つめの課題が『働き方』です。現在本社の出社率は25~30%ですが(取材時点)、在宅勤務そのものが目的ではなく、それによって効率を上げる、3密を回避することが目的です。一方で我々の工場では、ものづくりに携わる多くの社員が出社しています。リアルな現場の世界で、フェイス トゥ フェイスでコミュニケーションを取りながら作業をすすめています。今後は在宅勤務と出社のハイブリッドで、より生産性が上がる取り組みが必要になります」

加えてコマツでは、社員の健康管理にも向き合っているという。約5000人の社員にデジタルトラッカーを配って、健康状態のモニタリングを進めているそうだ。

「コロナ禍で益々重要性が高まっているのが社員の健康管理です。来年からは65歳まで定年が延長になります。高齢の社員に、たとえば高所作業のような危険な作業を任せるのは避けたい。まずは個人で健康管理をして、例えば健康診断の結果等をデータリンクしていくことを考えています」

「そして3つめが、ステークホルダーとの『対話』です。株主さまや投資家の皆さまとの対話はもちろんのこと、私が「社員ミーティング」という形で定期的に全事業所を回って社員と行っている対話においても、オンライン化とフェイス トゥ フェイスのコミュニケーションのハイブリッドを目指したいと考えています」

需要の波に左右されない強い企業体質をつくるための道筋

今回のコロナ禍もそうだが、建機のビジネスはアップダウンが激しいのだという。イベントリスクや景況感により需要が変動するなかで、いかに安定的にビジネスを進められるかが問われていると語る。

「現場全体のデジタル化を進められる『DXスマートコンストラクション』に加え、農林業、砕石・セメントといった需要変動が小さく、かつ伸びしろのある分野についても、積極的に取り組んでいきたいと考えています」

そして手厚いアフターサービスも、より強化していきたいと考えているそうだ。

「我々が提供しているのは生産財ですから、お客さまにとっては投資。景気動向に左右されるわけです。そこで重要なのがアフターです。60万台に及ぶ建機のポピュレーション(配車台数)が減らない限りは部品やサービスは継続的に必要となるわけです。そこにチャンスがある」

そのための取り組みのひとつが、前編で小川社長が語ったコムトラックスによるアフターケアだが、さらに今後は、より精度を高めた次世代コムトラックスを導入するという。

「今のコムトラックスは、見えるデータが限られているのです。それに、販売代理店でのカスタマイズはできません。次世代コムトラックスとは、本当の意味でのプラットフォームです。高頻度で詳細なデータを取ることができ、カスタマイズしていろんなアプリケーションを開発できます。訪問管理から在庫管理、お伺いタイミングのオファーから予知保全もできる。データを“見える化”して“使う”ためのフレキシビリティを備えたものなのです」

こういった取り組みのひとつひとつにスピード感をもってアプローチをかけていく姿勢は、外部から高く評価されている。経済産業省と東京証券取引所が、デジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営変革に優れた取組みを行う上場会社を選定する「DX銘柄2020」において、コマツはなんと「DXグランプリ」に選出されている。ここに磨きを掛けることが、創業100年目のブレイクスルーに繋がると小川社長は考えている。

目指すイノベーションは大きな転機に。いざ、100年目の先へ

「中期経営計画で実現を目指しているのが『安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場』です。計画を立てるプロセスにおいて、各部門で将来目指す姿、たとえば未来の建機やCO2削減、安全化やデジタル化、さらに循環型の地球保全に繋がる工場に至るまで、1年くらい掛けて議論して、その姿からバックキャスティングして中期経営計画を決めてきました」

そのための投資はいとわない覚悟だ。中期経営計画中の3年間で約1,600億円を、生産設備、デジタル、研究開発など重点活動分野に優先的に投資予定だ。

「これは単に投資を増やすのではなく、これまでの投資を成長分野にシフトしていくということです。メーカーですから、モノ中心のビジネスでした。これからはプラスアルファ、お客さまの施工に注目して、お客さまの価値を一緒に作っていく。これがブレイクスルーに繋がると思っています。しかし、デジタル分野はこれまでのように“すべて自前”というわけにはいきません。スタートアップ企業等外部の力を借りながら、もっともっとスピードを上げないと、世の中の流れに付いていけないと思います」

モノづくりの企業だからといって、モノだけを作っていればいいわけではない。ひとつのビジネスの枠組みのなかでも、取れるアプローチは数多くあるのだ。特定の分野に長く取り組んでいると、失われがちな視点かもしれない。しかし、100年続く企業が、これだけ柔軟な視点を持っているということに驚かされる。いやむしろ、コマツのこんな視座こそが、世界で巨大な存在感を発揮し続けている秘訣なのかもしれない。

(執筆:吉州正行)

<プロフィール>
小川 啓之さん
1961年、大阪府出身。85年京都大学大学院修士課程を修了し、同年コマツに入社。コマツアメリカでの工場長の経験を経て、2010年執行役員。インドネシア総代表を務めたのちに、16年常務執行役員。18年取締役専務執行役員。19年4月に代表取締役社長に就任。同年に策定した中期経営計画の実践を精力的に進めている。

<合わせて読みたい!>
100年、真摯に建機に向き合ってきた。コマツのモノづくりにかける信念(前編)

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