「GoToトラベル」決定の背景にオルタナティブデータあり

人々の生活ログ「オルタナティブデータ」の活用法と今後

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日本政府が、政策立案や効果測定のために活用し始めているオルタナティブデータ。人の移動や買い物など、生活にまつわるもので、高速かつ高頻度に収集できるデータの総称である。

では、オルタナティブデータはどのように活用できるのだろうか。経済財政諮問会議・EBPMアドバイザリーボードメンバーでナウキャスト取締役会長の赤井厚雄さんに、活用法と今後の課題を聞いた。

政策決定の裏づけとなるオルタナティブデータ

「最近、ニュースなどでも取り上げられる指標『JCB消費NOW』は、オルタナティブデータの1つ。国際カードブランドの運営会社であるJCBとナウキャストが共同開発したもので、国内の消費活動に関して2週間に一度発表している指標です」(赤井さん・以下同)

出典:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」参考系列・速報値

「JCB消費NOW」のデータを見ると、緊急事態宣言下で下落したサービス業での消費が、着実に回復していることが把握できる

「JCB消費NOW」のようなオルタナティブデータが、実際に政策に影響を与えたケースが既にあるという。

「Google Mobilityが導き出した人出と、新型コロナウイルスの新規感染者数を組み合わせたデータがあります。このデータからわかることは、緊急事態宣言が出された4月から5月にかけては、人出が減ると感染者数が減ったという事実。そして、7月や8月は、人出が増えても感染者数が減っている時期があるという事実です」

出典:内閣官房「令和2年9月11日 新型コロナウイルス感染症対策分科会(第9回)議事次第」

縦軸が人出、横軸が新規感染者数。7月から8月にかけて、人出はほぼ一定。7月に感染者数は増えたものの、8月は減少に転じている

「このデータから、人出が増えたら感染者も増えるわけではなく、個々人の振る舞いが関係していることがわかりました。9月の分科会で政府はこのデータも用い、東京もGoToトラベルの対象に入れていい、という意思決定につながったのです。データでの裏づけがあってこその、判断だったんですよ」

課題は「データ加工・活用のルール作り」

国の政策や企業の事業、投資を進めるうえで、重要な判断指標となり得るオルタナティブデータだが、まだまだ課題は多いという。その1つが、ルールの整備。

「オルタナティブデータは可能性を秘めていますが、野放図に広がるだけだと、玉石混淆になって混乱を招いてしまいます。データを社会の役に立てるためには、その流通面など、政府によるルールメイクが必要。私が参加しているEBPMアドバイザリーボードでは、まさにそのような議論もしています」

また、民間においても、ベストプラクティスの形成が重要になってくるとのこと。数多あるデータは、あくまで提供されるだけ。いかに事業や投資に活用し、多くの人に利益を生み出していくか、各々が見つけ出すことが重要なのだ。

「民間での活用を進めるためには、データを収集する人、利用可能な形に加工する作り手、データを発信する仲介者、秩序を生み出すルールメイカー、データを活用する利用者を含む、オルタナティブデータのエコシステムができることが望まれます。仲介者とは、アナリストやメディアが挙げられますし、今後はデータの配信サイトなども出てくるかもしれません」

アメリカでは、既にオルタナティブデータの加工や仲介を行う企業が何百社とあり、一種の産業になっているそう。日本でも、産業として成長していく可能性は高い。

放置されていたデータが活用される可能性も

「課題はまだ存在し、個人情報の扱いはルールが作られている最中です。匿名性を確保したうえで、過度に保守的になる必要はないと思いますが、どの程度のルールだとバランスが取れるかという目線合わせをきちんと行うことは、重要になってくると思います」

オルタナティブデータに関するルールが整備され、活用が進んでいけば、さらなる可能性が見えてくると、赤井さんは話す。

「前述した『JCB消費NOW』やGoogle Mobilityのデータなどが認知され、データの重要性が意識されていけば、いままで統計利用されていなかったデータが掘り起こされていくでしょうね。例えば、和食しかなかった日本に洋食が入ってきたことで、牛肉を食べる人が増え、牧畜が始まったように、ニーズに合わせたデータが発掘され、分野ごとに新たな活用法が生まれていくはずです」

発展途上のオルタナティブデータだが、着実に活用され始めている。新たな政策が発表されたら、その裏づけとなるデータを探してみるとおもしろいかもしれない。
(有竹亮介/verb)

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