とある市場の天然ゴム先物 08
【用語・データ集(2)】ゴム先物市場の活性度を測る指標とは
前回では用語解説とデータの探し方の第1弾として、ゴム先物の銘柄や価格についてご紹介しました。今回は先物市場の盛り上がり度合いを測るデータを見てみましょう。
取引高は市場の瞬間エネルギー
取引高(または出来高)とは先物の売買が成立した数量のこと。例えばAさんが10枚売り、Bさんが10枚買いで売買が成立すると、この売買における先物市場の取引高は10枚ということになります。
こうした市場の取引高は市場の瞬間的なエネルギーを測る指標と言えます。取引高が急に増えるということは、注目度が上がって市場が盛り上がっているサインと見ることができるでしょう。下の図でも時折取引高の棒グラフが上に突き抜けているのが見て取れます。
とはいえ、「市場が盛り上がる」ことと「先物価格が上がる」ことは必ずしも一致する訳ではありません。薄商いでも先物価格が上がることや、取引高の急増が結果的に相場のピークであったということも多々あります。
RSS先物価格と取引高の月次チャート
ところでこうした取引は誰がやっているのでしょう?
それを確認できるのが、取引高を投資家のカテゴリー別にまとめた投資部門別取引状況となります。RSS3先物の取引状況を見てみますと、2020年12月では海外投資家が63%、個人投資家が19%となっています。
RSS3先物の投資部門別取引状況(2020年12月)
また取引所の各取引参加者の取引状況については、取引参加者別取引高で確認することができます。なおこちらのデータは各取引参加者の売数量と買数量の合算になりますので、合計すると市場全体の取引高の2倍になる点にご注意ください。
取組高は市場のマグマのエネルギー
先ほどの例では市場でAさんが10枚売り、Bさんが10枚買いで売買が成立しましたが、このときAさんは売10枚、Bさんは買10枚のポジションを新たに持つことになります。このポジションは反対売買(Aさんであれば買10枚、Bさんであれば売10枚を市場で改めて取引すること)して相殺するか、その限月の最終取引日まで保有し続けることになります。
この新しく作られたポジションのことを「建玉(たてぎょく)」といい、相場の解説などでは略して「玉(ぎょく)」などと表現されることもあります(「たま」ではありませんのでご注意を!)。この「玉」がポジションのことを表し、それを新たに「建てる」ので「建玉」ということですね。
そして市場における建玉の合計を「取組高(とりくみだか)」または「建玉残高(たてぎょくざんだか)」と言います(商品先物においては「取組高」と表現するのが一般的です)。
上の例ではAさん、Bさんがそれぞれ売りと買いの建玉を新たに10枚建てることとなり、市場の取組高としては10枚増えることになります。逆に、反対売買でポジションを相殺すること(業界用語で「仕切る(しきる)」または「手仕舞う(てじまう)」)ともいいます)により、取組高は減少します。
このように、取引高は投資家の新しいポジションを積み上げたデータであり、市場のマグマのエネルギーを表していると言えます。取組高が増えているということは、投資家がポジションを増やしながら相場の動きを待っているサインと見ることができるでしょう。
他の多くの商品先物と同様、ゴム先物は現物の天然ゴムの裏付けのある商品設計となっていますので、この取組高の推移は相場を分析するうえで非常に重要な指標となります。特に売りまたは買いポジションを多く持っているのが実需筋なのか投機筋なのかによって、その後の相場の見通しは大きく変わってくるでしょう。
RSS3先物価格と取組高の月次チャート
こちらの取組高にも投資家のカテゴリー別にまとめた投資部門別建玉内訳集計表があります。取引高と比較すると、海外投資家の取組高はその時々によって全体の50~70%の間で増減する、金融機関の比率が高くなっていることなどが特徴として挙げられます。
RSS3先物の投資部門別建玉内訳(2021年1月25日~29日)
取引高、取組高データの掲載場所
取引高や取組高の当日データは、JPXウェブサイトの商品先物価格情報やOSEデリバティブ取引市況(日通しは17:00掲載。取組高は含まれず、限月別データは中心銘柄のみ)、OSEデリバティブ建玉残高表(20:00掲載、全限月別データ有)などで取得することができます。
ヒストリカルデータでは、2020年7月27日以降では日別であれば大阪取引所日報、月別等であれば各期間の相場表に掲載されています。また2020年7月24日以前ではTOCOMのヒストリカルページ(約定値段・出来高・取組高)で確認できます。
また開所以来のゴム先物の月次データはJPXのゴム先物情報の「上場来の月次取引データ(1952.10~2020.07)」に掲載しており、ゴム先物相場の歴史についてはこちらで取りまとめています。
どの限月の取引が一番活発なの?
ところで前回、ゴム先物銘柄の限月は1番限から6番限の6本あるとご説明しました。それではこの6本のうちどの限月の取引が一番活発なのでしょう?
先ほどご説明した取引高と取組高(建玉残高)を見てみましょう。
RSS3先物の日中取引データ(2021年2月5日)
こちらの取引データより、RSS3先物の取引高と取組高(建玉残高)が最も大きいのは第6限月、その次が第5限月であることが分かります。第6限月は「期先」ともいいますが、金先物などを含めて、日本の商品先物では慣習としてこの期先の取引が多くなっていることが特徴となります。
なお、どの限月の取引が活発かというのは市場や商品によって異なります。例えばゴム先物ですと、シンガポール取引所(SGX)や上海国際エネルギー取引所(INE)のTSR20先物は期近の第2、3、4限月、上海先物取引所(SHFE)のSCR WF/RSS3先物は少しトリッキーで、1月限、5月限、9月限の取引が中心となっています。
海外市場のゴム先物の取引状況(2021年1月)
今回はゴム先物の取引高や取組高といった、先物市場の活性度合いを測るデータについてまとめてみました。次回では受渡高や指定倉庫在庫といった用語やデータの探し方をご紹介いたします!
※次回の更新は2021年2月24日(水)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
北浜投資塾「先物取引」
JPX「天然ゴム先物ファクトシート」
TOCOM「ゴム取引の基礎知識」
宇佐美洋・小野里光博「入門 商品デリバティブ」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)