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経営統合断念でもコロナ禍でも“業績堅調”。東京エレクトロンの強さの秘密(後編)

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現在、半導体メーカーはビッグ3と呼ばれる3社が圧倒的なシェアを占めている。米国のインテル、韓国の三星、台湾のTSMCだが、そこに今、日本の企業名はない。90年代までは日本企業も大きな存在感を示していたが、ITバブル崩壊後、半導体メーカーの業界再編が急速に進んだ。しかし、半導体製造装置メーカーでは国内では長期にわたりトップ、世界では現在第3位という地位を築き、さらに上を目指している日本企業がある。それが東京エレクトロンだ。

なぜ、日本の半導体メーカーは生き残れなかったのか

「もったいないなと思うのは、日本の半導体メーカーは、あれだけの技術を蓄積し、非常に優秀でパワフルなエンジニアに恵まれていたが、世界での戦いにおいて結果的にはうまくいかなかったことです。現在では多くの海外半導体メーカーが世界をリードしてしまった。日本の半導体メーカーに育てられた装置メーカーである当社としては、少し残念な気持ちはぬぐえません」

取締役会長の常石哲男さんはこう語る。半導体事業は製造業のなかでは特殊だ。得られた利益の大半を将来のための研究開発費と設備投資に投じなければ、熾烈を極める国際的な争いに、性能面とコスト面で戦えないからだ。

「短期的には多少利益を圧迫しても、中長期的展望において研究開発費などの投資を継続することが、この業界では重要なんです。その点、ビッグ3と呼ばれる海外企業は市況がいいときも悪いときも、十分に開発費と設備投資を主とする成長投資を緩めることはなかった。しかし日本企業の場合、半導体メーカーは巨大総合メーカーの一部門でありました。世界で戦うには全社の大半の設備投資予算を半導体で使用しなければならなかった。その償却費を考えると、市場の波やリセッションで簡単に赤字になることもあったわけですね。それを恐れて投資を躊躇した結果、世界のトップレベルを維持できなかったわけです。なお、企業経営、特に半導体業界において大切なのは、真のリスクテイクを伴う鋭い洞察力とその戦略の正しさと大胆さだと思います。その観点でもう少し深い思慮があれば、日本でもビッグ3に匹敵する会社が2~3社は今も存続したのではと思います」

専業メーカーとして、盤石な財務体制を築いてきた

その点、半導体製造装置とFPD製造装置に注力し続ける東京エレクトロンは、堅実で強固な財務体制だ。2020年3月期までの営業利益率は、製造メーカーとして3期連続で驚異の20%超え。ROE(自己資本比率)も20%を超え、従業員の平均賞与額も日本トップクラス!1200億円以上の研究開発投資を行える体力を疑う余地はない。

「装置メーカーも材料メーカーもチップメーカーも、技術力は当然として、バランスシートや資金力の強さが相まって初めて世界と戦える事業です。その強さを得て短中長期的な戦略に沿った舵取りができる。健全であり続けるためには、過剰投資しないことも重要ですが、将来を見通し、マーケットをよく見ること、そして経営者の上手な舵取りや先見性、洞察力の鋭さが求められるわけです」

生き馬の目を抜く業界を生き抜く大胆さと、足もとでの戦いを止めない堅実さの両輪でのオペレーションが求められる難しい業界において、本業に対して真摯でフェアな取り組みを行い続けることで、東京エレクトロンは成長を続けてきた。そんな企業だが、「資本市場では大丈夫か……?」と思える事態を迎えた。2015年、半導体製造装置の世界シェア1位の米・アプライドマテリアルズ社(以下アプライド)との経営統合の断念である。

世紀の統合が白紙に。しかしネガティブな影響が皆無だった

「東京エレクトロンとアプライドが経営統合することで、破壊的イノベーションと強烈な価値ソリューションを、お客さまに、また社会に提供できると考えました。統合が実現したら、デュアルリスティング(重複上場)をし、オペレーションの本社機能は米国のシリコンバレーと東京の2カ所で、登記上の本社はオランダのアムステルダムということを合意していました」

「Eteris(エタリス)」という社名も決定。統合は好意的に受け止められ、両社が開いた臨時の株主総会でも承認もされていた。成立すれば、このような統合は日本企業では初めての統合形態となったが、米国司法省などの競争法管理当局との見解の隔たりや承認を得る最終解に至らないまま時間が過ぎ、2015年4月に両社合意のもと、経営統合は解消せざるを得なかった。

しかしその影響で業績が落ちることもなく、むしろそれ以降も成長し、業績も順調に推移。「世紀の3兆円対等合併」と呼ばれたビッグマージャーの解消だが、ネガティブな影響は皆無であった。むしろこの統合を諦めたあと、東京エレクトロンはさらに強くなったという。

「理由は簡単明瞭。良き東京エレクトロンの文化を維持し、ベストプロダクツ、ベストサービスをさらに推進できたからでしょう。お客様からの絶対的信頼に加え、強い製品、高い技術力、抜群のチームワーク、真のグローバル企業のあるべき姿、そして何よりも価値創造による利益にこだわり、資本市場でワールドクラスをねらう姿勢やイノベーションを創出するリーダ―シップなど、経営統合の準備を経て自社の強みを再認識でき、さらに強い企業に成長しました」

コロナ禍でも需要が落ちない。変わらぬ半導体産業の成長力

東京エレクトロンは、昨今のコロナ禍でも大きく成長しているという。

「当社の売り上げの8割以上は海外向けです。装置は出荷するだけではなく、装置の立ち上げやメンテナンスなど、日本からも多くのエンジニアを派遣しています。しかし海外への渡航制限により日本から装置立ち上げのエンジニアを思うように送れないことなどを心配しましたが、海外現地従業員と工場のエンジニアとの連携により、装置立ち上げをほぼ予定通りに完遂することができました。全社一丸となった頑張りに感謝しています」

東京エレクトロンの宮城工場

またマーケットも順調にドライブ。WSTS(世界半導体統計)等の発表によると、半導体需要はこの先も大きく伸びる予測だ。

「2020年10月にIMFが発表したGDP成長率予測によると、世界のGDPが前年比でマイナス4.4%となり、多くの企業が投資も絞らざるを得ない状況下にあります。しかし、半導体産業は、昨今は重要社会インフラの主役の一つであり、エッセンシャル事業と位置付けられ、AI、ビッグデータ、IoTの拡大などで、需要が大きく増加している状況です。もし新型コロナ感染のパンデミックがなかったなら、市場はさらに伸びていたでしょう」

ベンチャースピリットを持ち続ける。自由闊達な社風

「当社はやはりベンチャースピリットを持ち続けていることが、継続的な成長を可能にしているひとつの要素だと考えています。常に一人ひとりが『グッドジョブをしているかどうか?』を問い続ける姿勢があります。そして社風は、非常にフランクで、カジュアルなんですよ。誰もがストレートになんでも言える風土があって、役職ではなく、○○さんなど、名前で呼びあう。そういう自由闊達な企業文化が、ベストプロダクツ、ベストサービスの源泉なんですね。官僚的な組織になればなるほど、人の能力を抑えてしまう。これでは世界で戦えるイノベーションも生まれません。当社では出る杭はどんどん出ていいわけです」

企業文化がいかに大切かは論をまたない。いかに優秀なエンジニアでも優秀なマネージャーでも、職場環境ひとつで士気が下がってしまうのだ。こうした起業家精神あふれる企業文化と高度なエンジニアリングと積み重ねてきた技術的ノウハウを武器に、地に足を着けた戦いを挑むのが東京エレクトロンの戦略だ。

「少なくとも足元の10年~20年をみても、半導体およびFPD製造装置という得意分野でビジネスを拡大していきたい。それが正しい道であろうと。違う分野に活路を見いだす企業はもちろん世の中にありますが、我々の場合、幸いこの半導体産業界がまだまだ何十年も伸びると確信しているので、これを本業としてブレずに真摯に取り組んでいきたいと考えています」

5G、AI, Big Data,IoT時代の本格到来で、半導体成長は第2章へ。東京エレクトロンが目指す未来

常石さんによると、半導体分野において、今は第1章から第2章に移る過渡期だという。第1章の成長はこの約60年。ICの発明からメインフレームコンピューター、PC時代、モバイル中心の時代を経て、データ中心の時代に移行しようとしている現在。5Gはこれから2~3年で全世界に拡散し、自動運転などを含むAIを駆使したさまざまなデジタルトランスフォーメーションがすべての産業界で始まる。これが半導体産業の第2章だとか。

「さらなる成長の始まりだと思っています。半導体の機能はデータや知能です。おそらく100年経っても200年経っても『これ以上情報はいりません、計算スピードの向上は、いりません』とはならない。よって、技術イノベーションとマーケットイノベーションによるICT新市場の成長と進化が続くので、この業界は必ず伸びるのです」

まだまだ伸び代があり、イノベーションの宝庫であり、あらたな社会価値を提供するという意味合いにおいて、現代の花形産業のひとつといえる半導体分野。BtoB企業ゆえに世間一般に名前は知れ渡ってはいないが、高い志と実直な仕事ぶりとその成長を可能にした根幹がわかった。どうやら東京エレクトロンの未来は明るそうだ。

「半導体およびFPD製造装置の分野で、やはり世界ナンバーワンでありたい。これが経営者と従業員全員が夢として抱く目下の目標です。ナンバーワンが売上なのか時価総額なのか、さまざまな数字が表す観点がありますが、大切なのは世界のお客さまにナンバーワンといっていただくことではないかと考えています。世界の環境保全に真摯に取り組み、ESGやSDGsなどの推進により、持続可能な社会の発展に貢献し、社会的責任を果たす真のグローバルエクセレント カンパニーを目指していきたいと考えています」

(執筆:吉州正行)

<プロフィール>
常石 哲男さん
1952年兵庫県生まれ。76年、大阪大学工学部を卒業後、東京エレクトロン入社。92年に海外営業本部長を経て、同年、取締役。98年、代表取締役専務。17年、代表取締役会長を経て、20年6月より取締役会長。

<合わせて読みたい!>
「半導体をつくるための装置をつくる会社」とは?東京エレクトロン、驚異的成長の歴史とその背景(前編)

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