【日経記事でマネートレーニング11】相場ニュースを読む~外為市場で円安・ドル高~

提供元:日本経済新聞社

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このコーナーでは日経電子版の記事を読むことで資産形成力のアップを目指します。実際のニュースやコラムを引用し、初心者には難しく思えるような用語をかみくだき、疑問点を解消していきます。金融・経済ニュースをどれだけ読みこなせるかは投資のリテラシーそのものです。日々の情報にリアルタイムで動ける実践力を養いましょう。

11回目は「外国為替」を取り上げます。投資経験がまったくなくても外国通貨には関心があるという方は多いでしょう。海外旅行では必ずドルやユーロなどに接するので高校生や大学生でも円高、円安ということばに触れる機会が得られます。その意味で、経済初心者や運用経験の浅い投資家にもなじみがあり、とっつきやすいジャンルかと思います。

けれども、マーケットを学ぶうえでのクセはそこそこありますし、報道関係者にとっては意外にハードルの高い分野になります。

20年前、筆者が外為市場担当になったときに最初の取材で面食らったのが、こちらが尋ねている質問と取材先から返ってくる答えがかみあわないことでした。円高が進んでいる(円相場上昇)ときの電話取材でのやりとりでした。

「きょうの地合いはいかがでしょうか?」(田中)
「相変わらず弱いですね、まだ下値余地あると思う」(外為ディーラー)
「????」(田中)

この意味がすぐわかる読者は専門家ですね。

記事と外為マーケットでは「基軸通貨」が異なる

解は「外為市場では“ドルを中心に考える”=ドル相場」です。いうまでもなく世界の基軸通貨は米ドルですので、強いか弱いかはすべてドルを起点に考えるのがマーケット関係者です。

ところが日本経済新聞を含むほぼすべてのメディアは円を軸に伝える「円相場」です。日本の企業、個人の投資にとってはドルそのものの動きは直接関係なく、あくまで円がドルに対して高いか安いか、円がユーロより強いか弱いか、が関心事だからです。

なので、どの通貨がどの通貨に対して強いか弱いか、を明確にするためにマーケットの慣習にならって以下のように聞き方を変えるようにしました。以下のようなイメージになります。

「きょうのドル円の地合いはどうですか?」(田中)
「(ドル相場は対円で)弱いね」(取材先)
「きょうの円ドルの地合いはどうですか?」(田中)
「(円相場は対ドルで)強いね」(取材先)

記者はこうした意味のねじれや独特のマーケット用語を咀嚼して記事を発信しているわけで、なにげないふつうの外為市況にもそれなりに隠れた苦労や読み手への配慮が重なっているわけですね。

ではサンプル記事をみてみましょう。

一般的な外為記事ですが株式や債券と違うのは24時間市場が循環している点です。東京証券取引所上場の日本株のように「始値」「終値」というようなシステム的な概念が定まっていません。ドルや円の取引は数珠のようにつながり、常に世界のどこかで取引されています。

もちろん円取引の主要市場は東京で間違いありませんが、日経電子版ではどの市場の円相場を伝えているのか、何時の円相場なのかを明示するようにしています。

時間帯の区切りでいうとニュージーランド、極東の時間帯が1日のスタートになるといえますが、実体としては朝6~7時ぐらいからニューヨーク市場を引き継ぐ形で東京市場が主取引市場としてスタートし始めます。そして、日銀が公表値を出す17:00までをいちおう東京市場1日の時間帯ととらえています。16時ごろから次第に欧州市場に主戦場が移り、夜10~11時前後にはニューヨーク市場にバトンタッチするパターンが多いです。

株式以上に「森羅万象」映すが、日米金利差が最大のリスク要因

円相場もしくは対円でのドル相場がどういう要因で動くかは別の機会で解説しますが、外為市場はいわゆる「森羅万象」を映します。「景気の鏡」といわれる株式と比べるともっと幅が広がるわけですね。というのも、たとえば米国債を買う場合もドル需要が発生しますし、原油の輸入から海外旅行に至るまであらゆる決済通貨としてドルが必要になるので、リスク要因が株式より多くなるわけです。また、通貨の価値は一国の国力を表すので、経済要因ではなく政治情勢や国際紛争などにも敏感に反応します。

とはいえ、そう頻繁に政情が混乱するわけでもないし、戦争が起こるわけでもありません。通貨の変動要因として一般にもっとも意識されるのは各国の金利です。金利が高いとその通貨で運用益が出る計算になりますから需要が増えます。通貨の価値が上がるとモノを有利に買えるようになるのでさらに需要が高まります。ただし、名目金利が高くてもインフレが進めば実質金利が低くなるため通貨価値は下がります。このあたりは一気に難しくなるので別の機会に解説を譲りましょう。

東京外国為替市場=取引所のようなものがあるのではなく、東京の時間帯で、という意味。午前6:00過ぎぐらいからそろり始まり、午前8:00ぐらいには売買が盛んになる。

円相場=特に断り書きがない場合はドルに対す円相場を指す。ユーロに対する場合は対ユーロで、という注釈がつく。

前日17時時点=日銀が公表する17:00時点の円相場

1ドル〇円A~A+B銭=一般に業者からみた円相場の表示。左側のA銭は業者が買ってもいいよという値段、それにB銭を上乗せした右側のレートは売ってもいいよ、という値段。読者や投資家からみると真逆になるので注意。実際には手数料も加わるのでさらに交換レートが悪くなる。

⑤日米金利差の拡大=通貨はより高い金利に向かうので日米の金利差が広がるほどドルが買われやすく、低金利の円が売られやすくなる

円売り・ドル買い=円を売ってドルを買う動き

実需勢=決済のために通貨を必要とする市場参加者で貿易商社や事業・運用会社などを指す。個人が海外旅行のためにドルを買ったり、訪日外国人客が円を買うのも実需勢に当たる。

機関投資家が外貨建て資産を積み増す動き=保険会社や運用会社が海外の金融資産を将来買い付けるためにドルを用意しようとするドル買い・円売り

⑨重荷=相場の上昇に「ネガティブさ」を伝えたいときの表現。外為市場では有利不利という概念がほぼないので通常こういう表現は使わない。

では、いつものようにあえてかみくだいて直した記事をみましょう。

テレビニュースなどで「きょうの円相場は1ドル〇円〇銭から〇銭で推移しています(取引を終えました)」と伝えられますが、間違いだということがわかりますよね。正しいメッセージは売値が〇円〇銭、買値が〇円〇銭、になります。誤解のないように伝えるなら「中心値」方式がよいでしょう。

身近な為替相場ですが、報道関係者にとっては案外ハードルの高い専門領域です。きょうのテーマは基本中の基本で、実際には企業業績算定に使う為替予約、豪ドルなど資源国通貨の動き方、など興味深いテーマはまだまだあります。とりわけ為替ヘッジは投信などを購入する際に必ず理解しておかないといけないキーワードです。まずは外為場況を読み解けるようになりましょう。

 

(日本経済新聞社 コンテンツプロデューサー 田中彰一)

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